王子とご対面
ベネディクト・クリステル・ノルデグレーンはその名の通り、このノルデグレーン国の王家の人間だ。
印象的な濃紺の瞳、そしてすこしクセのあるミルキーブロンドの髪は陽にあたると淡く光っているように見える。
スラリと背が高く、儚げにも見えるその雰囲気は、現王妃である彼の母親によく似ている。
遠くからでもよく目立つ彼は、国中の人の目を喜ばせている。
話し声は心地よい低さでありながら穏やかで、物腰も柔らかく、話しているうちにみんなうっかり心を開いてしまう。
キャラクター説明にそんな紹介文が載っていたことをぼんやりと思い出していた。
そうそう、だから最初主人公のハンナもベネディクトのことを信じ切ってしまっているのよね。
その実、優しさと優柔不断さは表裏一体であり、甘いマスクとカウンセラーばりのコミュ力や洞察力を無駄遣いして、女あさりするわけなんだけど…。
ゲームで初登場時は優しい担当のイケメンなのかなー?なんて思っていたのに、まさかあんなダメンズだったなんて。
キャラクター投票でも実質最下位みたいなもんだったのよね。
そんなことをアレコレ考えているとドアがノックされる音が響いた。
それと同時に優しげな声が応接間に響く。
「あれ?ヴェロニカ?今日は突然どうしたの?」
その声にサッと振り返った私の心臓は跳ねた。
イッッッッケメンッッッッッ!!!!!!!!!!
身長は180後半はありそうで、スラッとした細身の体に王家の軍服が凄まじく似合っていた。
男性にしては色白の肌に、瞳と同じ色の濃紺が最高に映えている。
え、え、ええぇぇ?!
原作のベネディクトってこんなにイケメンだったの?!
三次元が二次元を超えちゃってる!!!!!
もういますぐスマホを取り出して連写したいくらい(スマホなんて当然ないんだけれど)の見た目の麗しさに、私の心臓はギュンギュン鳴っていた。
頬が紅潮して、体ごとどんどん赤くなり、汗が滲んでくるのが自分でもわかった。
口はなにを言おうとしていたのかパクパクしてしまって、まともに声も出てこない。
もうその国宝級の顔面に完全に目が釘付けになっていた。
「ヴェロニカ?顔が赤いけれど、どこか悪いの?大丈夫?」
そう言って肩に手を掛けてきた。
半分肩が出るようなデザインのドレスだったため、その手が私の素肌に触れる。
「ひゃあ!!!」
私は良家のご令嬢とは思えないほど、情けない声を出した。
「え、ヴェ、ヴェロニカ?本当に大丈夫?」
私の弟であるヴィンセントだって十分にイケメンだったわけだけど、ベネディクトはなにか質の違いを感じた。
というか、正直に言ってしまえば
ドタイプだった。
「だ、大丈夫!大丈夫ですからっ!!!!!!」
私はこれ以上接近されないよう、両腕でそっとベネディクトの身体を押し返し、俯きながら声を張り上げた。
「ヴェロニカ?本当に?
それに、今日は僕になにか話があって来てくれたんじゃなかった?」
はあぁぁ…声もいい…。低いんだけど低すぎず、優しくてなんていい声…。ASMRだったら即寝かもしれない…。いやむしろいい声すぎて興奮しちゃって逆に眠れない、まであるかも…。
と、あまりにイイ声でうっかりトリップしかけたけど、すぐ正気に戻った。
そ、そうよ!私、この人と婚約破棄しなくちゃ!!!
この人と一緒にいたら、きっと私がハンナに嫌がらせせずとも堕落していくはずよ!
だって女遊びで王位継承権は失うだろうし、ハンナ裏口入学は避けられないイベントだろうし。
王位継承権を失えば、私の王座を逃した王子の嫁として我が家の名声も霞むだろうし、なにより私の推しはマティアスだったはず!!
できることならマティアス様と結婚したいもの!!!!!
そう自分の心に言い聞かせ、キッ!とベネディクトのほうを向いた。
「あなたの婚約を解消させていただきます!!!!!」
と言うはずが、口から出たのは全く違う言葉だった。
「え、すきぃ…」
この体たらく。
婚約破棄するつもりが、告白してどうするのよ!!!!
それにしても、なんてバカみたいな告白なの?
ベネディクトは呆けた顔でこちらを見ていた。
「ヴェロニカ、今日は本当にどうしちゃったの?」
本当にどうしちゃったんだろ、私。
できるだけ毎日19時に挙げるようにしたいです。