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98.覚醒する力

 王立アカデミー



『ガァルアアァァ!!!!』


 突如乱入した竜骸と呼ばれる怪物は逃げ惑う人々に容赦なく襲い掛かる、腕の一振りで人が簡単に吹き飛んでいく。

 人の命が簡単に蹂躙されていく様子に更にパニックに陥り、出口には人が押し寄せて我先に逃げようと殺到する。


「ふむ、あの竜骸が最初に現れた個体と考えて良いみたいだな、捕獲したのとは全然違う」


 カルリの横でゼラムが冷静に分析している。


「それに君の予知はかなりの正確なようだ、是非今度調べさせてくれ」


 マイペースなゼラムにカルリは唖然とする、取り敢えず逃げようにも出入口全てに人が殺到しており近づくさえ出来ない。


「死ね化け物!!」


 誰かが強力な雷の魔法を放つ、おそらくアカデミーで最強と謳われるハイルベント侯爵家の嫡男ラキスが放ったのだろう、しかし竜骸はビクともしない。

 すると竜骸は一瞬だけ動きを止め、魔法を放ったラキスの方を見る。


『罪 ヲ 重 ネ ヨ』


『歪 ミ ヲ 正 ス 為 二』


「おお! 喋ったぞ。やはり知性を持っていそうだ」


 カルリの隣でゼラムは興奮気味に竜骸を観察している。


「や、やめろ! 来るな!!」


 ラキスは抵抗するように魔法を放つが竜骸は関係なく近づいてくる、いつも一緒にいる取り巻きの生徒達は既に逃げており、1人だけ取り残された状態だ。


「おい待て! 逃げるな! 俺を守れ!!」


 ラキスは懸命に叫ぶが誰も助けに来ない、絶望の表情を浮かべるラキスは腰が抜けてその場にヘタレ込んでしまった。


「これは不味いな、魔法が効かないとなると戦う術がない、ここで爆弾をぶっ放すわけにはいかないし」


 ゼラムの手に見てはいけない物が見えてしまいカルリは困惑する、すると上から先の尖った大きな鉄の棒が、竜骸に勢いよく落ちてきて背中に突き刺さる。


『ウガァア!!』


 痛みを感じるのか突き刺さっている鉄の棒を取ろうとしていている。


「早く立て! 逃げろ!!」


 2階席にいる小柄な少年が大声で叫ぶ、しかしラキスは腰が抜けて動けないみたいだ。


「アイツは」


 ゼラムがその少年に反応する。一方、竜骸はその少年に向けて怒りを爆発させる。尖った鉄の棒を背中から抜くと少年に向けて投げつける。


「くっ」


 濃い紫色の魔力が目視でも確認できる、勢いよく投げつけられた鉄の棒は少年の魔力によって液体のようにグニャリと曲がり直撃を免れる。


「おお、良いじゃないか!」


 ゼラムが興奮気味に声をあげる。


「おい! お前はレミオだな!! さっきのをもう一回やれ」


 興奮気味にゼラムが声を叫ぶ、レミオと呼ばれた少年はゼラムの姿を見て驚いた顔をする。


「体内に直接毒を注入する、俺の魔力めがけて放て!」

「は、はい!」


 ゼラムは紫色の魔力を練り始める、レミオもゼラムの指示とは別に鉄の棒を自在に変形させて高い所から勢いよく落とす。しかし簡単に避けられてしまったが鉄が変形して荊のような形になり竜骸の足元に絡みつく。

 そしてレミオは別の鉄柵を変形させて再び尖った棒を作る。


「ははは、状況判断能力も良い!」


 ゼラムの喜ぶ声が聞こえ紫色の濃い魔力を放つ、それに合わせてレミオが鉄の棒を突き刺す。


「人と体組織が近いなら少しは毒も効くだろ?」


 紫色の魔力が竜骸の中に流し込まれていく。


『ルガァアアアアアァァァァァァ!!!!!』


 悶絶するような絶叫が響き渡る。足元の拘束を破壊し、転がり回って悶え苦しむ。そしてしばらくすると身動きしなくなってしまった。


「死んだのですか?」

「さあな、期待はするな」


 ゼラムにカルリは尋ねるが表情は良くない。


「おい! 少しだけ奴の動きが止まった、今のうちに避難させろ!」


 すぐに近くにいた教員にゼラムが指示する、教員は我にかえるとすぐに声を張り上げる。

「教員の指示のもと上位貴族の子供達から先に避難して」

 ここに来てあり得ない事を言い出す。


「は!? 何だよそれ!!」

「自分達だけ助かろうとするな!!」


 教員の指示に周囲から罵声が飛ぶ、その様子にゼラムは呆れた様子で溜息を吐く。


「マ、マクウェル様……怪物が」


 カルリの言葉でゼラムが竜骸の方を見ると唖然とし、すぐに大声で叫ぶ。


「全員伏せろ!!」


 動かなくなった竜骸の上に巨大な土の塊が出現し、今にも爆発しそくなくらいに膨張している。


 パアアアァァン!!


 炸裂音と共に土の塊は爆ぜる。押し寄せる土の炸裂弾は大講堂の全方に弾け飛び、多くの犠牲者が出たのを容易に想像できた。


「土の魔法……アイツから分裂したと考えるべきか? 毒は効くが時間稼ぎ程度か」


 ゼラムはこんな状況でも冷静に判断する、一方のカルリは目の前で多数の犠牲者が出た事に口元を押さえ吐き気を堪えている。


 ガスッ!


 ここで突然上階から少女が飛び降りて来て竜骸へ向けて剣を突き立てる。竜骸は振り払おうと暴れるが少女はすでに離れた場所で軽快なステップを刻んでいた。


「怪我人はその場で動くな! すぐに治療する!!」


 聞き覚えある声が入口付近からする。騎士団の服を着た女性が的確に指示を出す。


「雷よ! 煌めけ!!」


 眩い光と共に閃光が竜骸に襲い掛かる。しかし竜骸には魔法が効かないはず……しかし竜骸は目を抑えるようによろめいている、どうやら目眩しの閃光だったようだ。

 その隙を逃さず小柄な少女が再び竜骸の傷口に剣を突き立てる。


「カルリ様、大丈夫ですか!?」


 後ろからカルリの知っている少女が声をかけてくる。


「なぜクラリスさんなぜ貴女が? いや皆さんも」


 クラリスと呼ばれた少女がカルリに心配そうに駆け寄ってくるが、カルリは突然の助けに呆気に取られている。


「オリヴィエ・エルドラゴンよ、遅いではないか」


 ゼラムが凛とした女性に声をかける。オリヴィエと呼ばれた女性は一瞬ムッとした表情になるが、ゼラムのボロボロな姿を見て何も言えなくなってしまう。


「それで、ゲルトバルト達は来ているのか?」


 ゼラムの言葉にオリヴィエは首を横に振る。


「早朝のうちに早馬を出した、森からここまで来るのに時間が足りない」


 オリヴィエが悔しそうな顔をする、それを見てゼラムは何も言えなかった。


 パリンッ!


「ちくしょう! 折れた!!」

「ナフタ、下がって!」


 竜骸の方を見るとさっそくピンチになっていた、ナフタと呼ばれた少女の剣が折れてしまったのだ、入れ替わるように雷を操った少女が剣を振るう。しかし力量差は明らかのようで簡単に剣が折れてしまった。


「剣を持ってこっちに来い! 直してやる!!」


 上にいるレミオが叫ぶ。


「シェスカ!」


 ナフタはシェスカを掴むと壁を走るようにして2階席へと駆け登っていく、竜骸は獲物を逃さないように2人を追いかけていってしまった。


「どうして皆さんが……」


 状況の飲み込めないカルリはクラリスに尋ねる、すると言い辛そうにしている。


「昨晩、アニスから君の予知を聞いた」


 クラリスの代わりにオリヴィエが話をする。一方のカルリは自分に厳しい事を言ってきたアニスが、行動に移してくれた事に驚く。


「それを聞いてウェルマが勝手な行動を起こしてしまった、本当はウェルマを連れ戻すためにやって来たんだ……」


 カルリはオリヴィエの言葉の意味が分からなかった、すでにウェルマがアカデミーにいる?


「……おい、まさか竜骸が最初から傷だらけだったのは」


 何かに気がついたゼラムは言いかけて途中で止める。

 言わなくても分かる、ここにウェルマが居なくて傷だらけの竜骸のみがここで暴れている。


 カルリの視界が歪み顔を覆いその場で絶叫したい衝動に駆られる。

 自分の我儘でウェルマを巻き込んでしまった、大好きなウェルマが自分のせいで……心が苦しくてこれ以上先の言葉を口に出来ない。


 ……そしてカルリの中に今までにない別の感情が芽生える。


「お前は……」




『……ねえ、エルダ』

『何でしょうか?』

 走馬灯のように過去の記憶が蘇ってくる。

『どうやったら貴女のように強い魔法を放てるのかしら?どうやっても上手く出来ないの』

『カルリお嬢様には必要ないかと……』

 赤毛の女性が困った顔をしている、カルリはその時かなり不満げな顔をしていたと思う。

『仕方ありませんね……』

 赤毛の女性は苦笑いをして頬を掻いている。

『そうですね……強いて言えば相手を殺したいと強く願う事ですかね、そうすれば自然と魔法がそれに応えてくれました』

 その言葉を聞いてカルリは固まる。

『……それは私には無理かな?』

『ふふふ、そうです。カルリお嬢様に必要のない事です』

 


「お前は、ウェルマに何をしたぁぁ!!」


 激情を抑えることが出来なかった、今まで出したことのない大きな怒声が響き渡る。それに気がついたのか竜骸はナフタ達を追いかけるのを止めてカルリの方を見る。


「金色の炎……」


 カルリの周囲が金色に輝く炎に包まれる。あまりの美しさに側にいたクラリスは感嘆の声を漏らしてしまう。

 手をかざすと金色の炎は一点に集まり、竜骸へ向けて放たれる。

 竜骸は危機を察知したのか金色の炎を大きく避ける、しかし生まれて初めての激情にカルリは我を失っていた、怒りのままに金色の炎を放ち続ける。


 ジュワアアア!!


 ついに炎が竜骸をとらえる、すると焦げるような激しい音がし、白い骨のような外殻が溶けるように焼け(ただ)れていく。竜骸は悶え苦しむように炎から逃げようとする、それでもカルリは手を止めようとしない。


「もう止めてください! これ以上やったら死んでしまいます!!」


 クラリスが止めてくれるまで気が付かなかった。自分の両腕が自分の炎で焼け爛れ、いつの間にか出ていた大量の鼻血が自分の服を赤く染めていた。冷静さを取り戻すと一気に力が抜ける、酷い腕の痛みと息苦しさと疲労感から立つ事が出来なくなってしまう。

 一方の竜骸は攻撃が止んだ事に気がつくと、口を大きく開いてエネルギーを集約させてドラゴンブレスを放とうとしている。

 本能から危険を察知し、真っ先にカルリを始末しようとする。いち早くその気配を感じたナフタとシェスカが武器を手に阻もうと走り出すが距離がありすぎる。


 ゴスッ!!


 竜骸がドラゴンブレスを放とうとした瞬間、鈍い金属音と共に竜骸の顔面に何かが突き刺さる。


「よし、当たった!!」


 竜骸が侵入して来た天窓付近に聞き覚えのある声が響き、全員がそこに注目する、そこには太陽の光を背に纏った赤髪の少女が立っていた。



読んでいただきありがとうございました。

明日も同時刻に投稿します。

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