95.夜遅くの来訪者
「ウェルマ、すぐに寮の来客室に来て」
ついに寮母のマザクさんまで私を呼び出し!?
「夜に呼び出し……とうとうお縄に?」
「うそ! 刑務所!?」
「私はウェルマの無実を信じているから!」
もうナフタ達に何を言っても無駄のようだ。
マザクさんに連れられて来客室へと向かう。寮の来客室は地方から家族が会いに来た時に使われる部屋なのだが、私はその部屋に行くのは初めてだ。
「失礼します」
部屋に入るとオリヴィエとアニスが待っており、少し驚いてしまった。
「夜分遅くに悪かったわね」
アニスがいきなり詫びをいれてきて、私に近づいて小声になる。
「カルリさんの事だけど、オリヴィエ姉様に席を外してもらう?」
「いえ、オリヴィエ教官も私との関係を知っているので大丈夫です」
するとアニスがニコリと笑う。マザクさんが部屋から出るとアニスはそのまま話を続ける。
「今日、カルリ・バーンヘイズさんと王城で話をしたわ、そこでウェルマに伝えて欲しいと言われた事があるから伝えに来たの」
カルリが? いったい何があったんだろう?
「と、その前に……」
アニスが立ち上がり入口の扉を開ける。そこにはナフタとシェスカ、クラリスの3人が身を屈めて盗み聞きしていた。
「士官学校ではとても良い躾がなされているみたいね?」
アニスの氷のような笑みにオリヴィエは眉間をおさえて恥ずかしそうにしている。
「盗み聞きをしていたこの子達はどうします? 懲罰房か何かあるんですか?」
冷徹な笑みに3人は震え上がる、さっきの事があったので私は少しだけスッとした気分になる。
「一応この者達もカルリ嬢のことを知っているから気になるんだろう」
オリヴィエの甘々な返答にアニスは溜息を吐く。
「そう、なら我が領民のよしみでナフタ・リュートだけ吊し上げる事にしましょうか? 良いですかナフタ、貴女は偉大なるグランマーレ領の人間なのよ? 礼節を弁え自覚を持ちなさい、盗み聞きなどという恥晒しな真似をしてはいけません!」
「はいいぃ! 申し訳ありませんでした!!」
ナフタはすぐに土下座して謝り、それを見てアニスは満足げに口元が緩くなる。その光景が思ったより微笑ましいやり取りだったので少しだけ空気が軽くなった。
「そうだ、そこにいるクラリスは教会の人間なんだ、疑問に思えるのなら同席させると良いだろう」
オリヴィエがアニスに助言する、クラリスに何やら意見を求めるようだ。
「そう、クラリスでしたか? 貴女はカルリ・バーンヘイズさんの予知の事は知っているの?」
「え!? は、はい、近いうちに起こる不穏な事を夢で見てしまうと仰ってました。私が住んでいたアンダシアでの大聖堂の崩落を予知してそれを伝え、多くの人が避難する事が出来ました。私もその助けられた人間の1人です、その時に私は両親を亡くして孤児院に預けられましたが、私のように身寄りを亡くした被災児に会うために慰問に訪れてくれ、私達の心が救われたのを今でも感謝しております」
両親を失ったの? クラリスにそんな過去があったなんて知らなかった。一方のアニスはその話を聞いて深く考え込んでいる様子だ。
「今日カルリさんと話す機会があったと言ったわね」
重たそうに口を開く。
「その時に予知の夢をウェルマに伝えて欲しいとお願いされたわ。そうね……王城の研究施設で竜骸という化物を見た時から彼女は相当焦っていたみたいだった。夢ではアカデミーがあの化物の襲撃を受けて、多くの犠牲者が出ると言っていた」
「なんだと?」
アニスの言葉を聞いてオリヴィエの顔色が変わる。
「私は予知なんていう非現実的なものは信じないけど、あまりにカルリさんが必死だったからここに来たの。アカデミーでは週初めに何か報告があると全校集会を開く、竜骸の襲撃はその時だと思っているみたいでカルリさんはそれを中止するように働きかけると言っていた。だけど夢の話をアカデミーの人間が信じるとは考え難いわね。現に私だって半信半疑だし」
ここでアニスはクラリスの顔を見て意見を求める、クラリスは言葉を選びながら口を開く。
「私も実際に予言を見た訳ではありませんが、命が助かったのは事実です。過去に色々と予知の夢を見るとは仰ってました」
クラリスも自信を持って肯定できない様子だ。
「しかしその話が本当なら不味いな……姉上やゲルトバルト達は今日の夜のうちに出発し、明日の早朝から再び森の探索に入ると言っていた」
そう言えば昨日ミネルヴァがもう一体の探索を行うと言っていた。それでは今の王都に竜骸と戦える存在がいないということか!?
あれ? 待ってよ?
カルリは私に伝えるように言ったんだよね?
私に怪物と戦えって事!?
そんなのは無理だよ。私はゲルトバルトのような絶対的な強さを持ってないし、デルライザーにこてんぱんに負けてしまうくらいに弱い。
……でもカルリは出会った時からずっと私を信じてくれている。
『ウェルマがいないと全てが終わってしまう!』
7歳の時、カルリが泣きながら私に言った言葉が蘇ってくる。
昔からそれが頭から離れなかった、なぜ私なのか? 私という存在に何の意味があるのか?
ずっと漠然と疑問に思っていた、私は単に前世の記憶が残っているだけの人間なのに……
「すぐに姉上に戻ってくるように連絡をしよう、第1騎士団にも人数を集めるように言っておく」
オリヴィエが立ちあがろうとする、しかしアニスは落ち着かせるように止める。
「カルリさんの予知夢という理由で騎士団は動くのですか?」
冷静な物言いにオリヴィエは再び腰掛ける。
「すまない、冷静さを欠いていた。それに今の騎士団は魔法で戦う騎士がほとんどだ、彼らに魔法が効かない怪物の相手をさせるなんて死に行かせるようなものだ」
確かに、エリート集団の第1騎士団は中級騎士以上の色持ちの人しかいないだろう。
「ならカルリ嬢がアカデミーを説得してくれるのを期待するしかないか。説得が上手くいってアカデミーの閉鎖、もしくは全校集会を中止し、姉上達が戻ってくるのを待つのが得策だ。朝一番で姉上に使いを出し、私も明日現場に行ってアカデミー側の説得をしに行く」
落ち着いたオリヴィエが次の策をすぐに考える、本当にこの人は優秀だと感心してしまう。
「オリヴィエお姉様も十分に気をつけて下さい」
アニスが心配そうな顔をしている。
「……それならアニスも来るか? 奴に氷の華が効くと言っていたぞ?」
そう言えばミネルヴァが言っていたな。それにしてもアニスも氷の華が使えるのか、やっぱり氷の華が伝説の魔法なんて大袈裟だよね。
「私の魔力は濃い水色ですけど魔力量が少ないんですよね……D判定の魔力量で氷の華を咲かせるのは無理です」
アニスが泣きそうな顔をしている。
というかアニスはD判定だったのか、いくら色が濃くても魔力量が少ないのは使い勝手が悪すぎて可哀想だ。オリヴィエもそれを分かっていたのか先程の冗談を謝っている。
「それからウェルマ、いくらカルリ嬢の事だからと言って先走るマネはするなよ」
話が終わり私達は解放される事になったが、その別れ際にオリヴィエが私に釘を刺してきた、私はそれに頷く事しか出来なかった。
ただでさえ私は自分の存在に疑問を抱いている。
それなのにカルリは私の事を今でもずっと信じてくれている。果たして私はその信頼に応える事が出来るのだろうか?
『ウェルマがいないと全てが終わってしまう』
あの時のカルリの言葉が重く私にのしかかってくる。
いったい私は何の為にいるのだろう……
読んでいただきありがとうございました。
明日も同時刻に投稿します。




