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91.夢の話

ついにカルリも参戦します。

 カルリ・バーンヘイズ



 私は小さな頃から不思議な夢を見る。


 嬉しい事、嫌な事、危ない事、これから起こる様々な事を夢で見てそれが実際に起こってしまうのだ。

 後から知ったけど、これは予知夢と言って近い将来に起こる事を夢で見てしまう現象らしい。


 教会の偉い人にはそれがロスローリア教聖王家のみに伝わる奇跡の力だと言われた。

 聖ロスローリアはこの予知の力を使い、人々を多くの災厄から救ったという伝説が残っている。

 この話は御伽噺くらいに知っているけど、あくまで作り話だと思っていたので本当に実在するとは思わなかった。



 ただ小さな頃はそれが何か分からなかったから、夜に眠るのが怖かった。

 最初に見た夢は生き物のお腹の中で自分が溶けていく夢だった。その次はその生物が全てを飲み込んでいく夢、その次は人が次々と溶けて消えていってしまう夢……

 あの頃の私を思い出して、お母様は夜泣きが酷くて大変だったと今でも笑われてしまう。


 夢を怖くないと思うようになったのはいつだろうか? 赤い髪の勇者様が、私の手を掴んで救い出してくれた夢を見た時からかな? その人は凛々しくて強くて優しくて太陽のような人だと感じた。

 その夢を見るようになってからだと思う、眠るのが怖くなくなり夢を見るのが楽しみでしょうがなかった。


 そしてある日、私は赤い髪の勇者様と手を繋いで横に並ぶ夢を見た。


 気になってチラリと横を見ると隣にいるのは赤い髪の女の子……勇者様は男の人ではなくて女の人だった? だけど男の子でも女の子でも関係なかった、近くにいるだけで私を幸せな気持ちで一杯にしてくれた。

 あの頃は赤髪の女の子が夢に出てくる怪物を全部やっつけてくれた、だから怖い怪物の夢を見なくなったと本気で信じていた。


 そしてある日、夢はついに現実となった。

 私は小さな待合室で夢の中の女の子とついに出会う夢を見たのだ。


 祖父母であるウェットランド伯爵に招かれ、洗礼の儀を見学するために教会へ行った時の事だ。

 一度も来た事もないのに見覚えのある待合室があり、中には夢に出てきた赤い髪の女の子が1人で長椅子に座って本を読んでいたのだ。

 私はドキドキしながら横に座ったと思う、隣に並ぶと夢に出てきた温もりと全く一緒だった。

 私と手を繋いで横を一緒に歩いてくれる、それだけで幸せな気分になってしまった。



 そんな彼女が長い年月を経て私の前に再び現れたのには驚いた。


 実は歳を重ねるにつれて予知夢をみる事が少なくなってしまった。昔なら夢でこの事を事前に知る事が出来たと思う、きっと指折り数えて楽しみにして待っていただろう……それだけ嬉しかった。

 私の初めての友達で幼馴染で大切な人……ウェルマは私の夢語りを本気で信じ、騎士を目指して頑張ってくれていたのだ。

 後で確認のためにウェットランドのお祖母様に尋ねたら「もうバレたの?」と笑われたのが印象的だった。


 そんな明くる日、赤い髪の女の子が再びアカデミーに来ているのを見つけてしまった。士官学校の制服を着ており、同級生と思われる女の子達と楽しそうに話をしている。

 これを羨ましいと思ったのか、私以外の人と仲良く話しているという嫉妬なのかと自問自答するが答えは出ない。


 ただ心がムズムズして気がつけば行動に移していた。


 いつも私を囲っている同級生達を撒くと後ろからウェルマに声をかける、あの驚いた顔は今でも思い出してニヤニヤしてしまう。

 本当に勇気を出して声をかけて良かった、ウェルマは変わらずに私に笑顔を向けてくれる。


 こんなに人を愛おしいと思えたのは初めてかもしれない。



「カルリ、聞いているのか?」


 先日ウェルマと会えた事を思い出してニヤけていたかもしれない、お父様の声で現実に引き戻される。


「大丈夫なの? 明日は王城に行くのよ? 失礼のないようにしっかりしてよ」


 お母様が呆れた様子で笑っている、私は恥ずかしくて顔が真っ赤になっていると思う。


「第一王子のルーク殿下と相性が良ければそのまま婚約する運びとなる、とにかくこの婚姻の話は王家側からの打診だ、それはとても名誉ある事だから絶対に成功させるんだぞ」


 王家側からの打診? 私を指定したという事なの? 国王様には小さい頃に会った事あるけど、そこまで気に入ってもらうような事はした覚えがない。


 それにしてもお父様は私が王子様と婚約すればバーンヘイズ公爵家における大きな名誉だと息巻いている。なので王子様と私の婚約をどうしても決めたいようだ、ただ家の為の政略結婚とはいえ私がこの国の王妃となるというのは実感がない。

 まあ、教会の人から「予言の巫女様」なんて呼ばれて崇められるよりもマシな気がする。


 私がこの呼び名を知らなかったのは、教会側が私を取り込もうという意図が見え隠れしており、お父様達がそれを拒絶したからだ。自分の娘をみすみす教会に渡すつもりはなく、ある日を境に私を教会から遠ざけていたのが納得出来た。


「それで、あの、ルーク殿下はどのようなお方なのでしょう? 一度もお会いした事がないので失礼のないようにしたいのですが?」


 一度も会わずに婚約が成立するのはよくある事だ、今回は顔合わせさせてもらえるのだから何も情報がないのは困る。


「それもそうね。先日、ルーク殿下は13歳になられたわ、今回はそのお祝いも兼ねて顔合わせてさせてもらうの、なので最初は誕生日の言葉から始まるわね」


 誕生日のお祝いの言葉か。13歳になられたという事は私より3歳年下か、上手く話が出来るか心配だ。


「とても聡明な方で、双子兄妹のルーナ姫殿下と揃って天才と言われているわ。お二方の家庭教師をしているアニス・グランマーレさんが教える事が何もないと嘆いている程よ、成績優秀なカルリならお話も合うと思うわ」


 不安そうにしているのが顔に出てしまったのだろうか? お母様が鼓舞するように私を元気づけてくれる。少しこじ付けっぽいが前向きな事を言ってくれると少しだけ勇気が湧いてくる。


「王城へは明日の午前に向かう、今日はゆっくりと休みなさい」


 ここでお父様が話を切り上げる、外を見ると真っ暗で時間も遅くなっていたようだ。


「ジェマ、今日はこれで休みます。明日の朝に沐浴して身なりを整えます」

「かしこまりました」


 幼い頃から仕えてくれている従女のジェマが一礼して部屋を出て行った。

 そう言えばウェルマと再会した事は彼女に話してはいけないな、なぜか昔からウェルマの事を目の敵にしていた。


 歳月が経った今なら喧嘩にはならないと信じたいけど、以前のロスローリア教会の人達が私に会いたいと来た時に酷く蔑んだ目をしていたので本質的は変わってないと思う。

 私が貴族令嬢の同級生と一緒にいる時は普通なので、おそらく育ちを物差しにしているのだろう。

 私が彼女の考え方に干渉する訳にもいかないから何も言わないけど、もしウェルマに酷い事を言ったら今度は私がウェルマを守らないと。

 そんな決意など知る様子もなくジェマは私を寝室へと先導してくれている、私といる時は本当に普通の良い従女なので困ってしまう。


 期待と不安が入り混じりつつもその日は眠りにつくことにした。



 体にまとわりつくような強い不快感と拒絶感……


 手を見ると真っ赤に染まっていた。

 これは血だろうか?


 見渡すと自分の周りが全て赤く染まっていた。


 何かに触れる感触があるけど怖くて見れない。


 自分の目の前に高く何かが積み重なっている……それが何かを見たくなくて目を背ける。


 どこからともなく何かが壊れる音が響き渡る。


 あまりの恐怖に体がすくんで動かない、その場で息をひそめて見つからない事を祈る。

 大きな気配は足音もなく静かに私の前に現れた。白い身体が赤く染まり、醜悪な顔が動けない私を覗き込む。酷い憎悪という感情だけで動いている怪物……


 少しずつ冴えてきて周囲の場所がはっきりとしてくる。


 見覚えがあると思ったらここはアカデミーの大講堂だ、周囲には同級生や教諭の死体が山となって積み重なっている。

 なぜ私は生きているのだろう? そう思っていると死体を貪っていた怪物が私にどんどん近づいて来る。


 ああ、これで私も食べられるのだろう……


「嫌だ! 誰か助けて!!」


 どれだけ叫んでも誰にも届かない。


 ついに食べられるのを覚悟して目をつぶる、しかし怪物はいつまで経っても食べようとしない。恐る恐る目を開けると私の目の前に誰かが立っていた。

 顔は見えないけど見覚えのある後ろ姿と、その温もりを私は知っている。


 私はその人の名前を知っている……


「……ん……夢?」


 名前を呼ぼうとした途端に強制的に覚醒させられてしまった。


読んでいただきありがとうございました。

明日も同時刻に投稿します。

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