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9.初めてのお友達?

 私はそっと新聞を置いた、現実逃避をするように本棚にある絵本を手に取る。

 私は3歳児、身の丈にあった絵本を読もう…


 は? 今が1155年?

 どういう事?

 私は死んですぐにミシェルのお腹の中に?


 頭の中で思考がグルグルして絵本に集中できない。


「何を読んでるの?」

「え?」


 不意に声をかけられて顔を上げる、そこには身なりの良いお嬢様っぽい女の子が私の横にいた。

「え? あ? その? あの」

 突然の出来事にあたふたしてしまう。

「あ、絵本を見てたんだ! 一緒に見よ!!」

 美しい金髪に印象的な赤い瞳の女の子が私の横に座る、とんでもなく人懐っこい子だ。いや、私が上手くコミュニケーションが取れていないだけか。


 改めて本を見ると、教本を絵本仕立てにした児童書だ。隣の子は私と並んで絵本を見ているだけで何も言わない。

「あ、いた。カルリお嬢様! 探しましたよ!!」

 待合室に突然従女っぽい女性が入ってくる。

「カルリおじょうさま?」

 女の子が焦ったように従女に言い訳をしている。何やら私を指差して何か言っている、どうやら私はトラブルに巻き込まれてしまったみたいだ。

「お嬢様、このような小汚らしい平民の子供と関わってはなりません」

 従女は私を蔑んだ目で見ている、ここまであからさまだと泣けてくる。カルリお嬢様と呼ばれる女の子は一生懸命に何かを言っているが従女は聞く耳を持たない。


「で、でもお友達に」

「お嬢様は高貴なるバーンヘイズ公爵家の御令嬢なのです、高尚なる立場なのですから汚らしい平民の子供と関わってはなりません!」


 いやいや、ベネルネスだった頃の私でも従者にこんな差別的な事を言わせなかったぞ?


 というか今バーンヘイズ公爵家って言ったよね!?


 過去を思い出すように頭をフル回転させる。ここを治めているのがウェットランド伯爵という事から一つの重要な事を思い出す。

 バーンヘイズって、もしかして8公の1つで赤を司るバーンヘイズ公爵家って事? という事はこの地を治めるウェットランド伯爵はバーンヘイズ一派の重鎮のウェットランド伯爵って事? 確か両家は婚姻関係じゃなかったか?だんだんと昔の情勢を思い出してきた。


「いったい何の騒ぎだ?」

「あ! おじい様!!」


 騒ぎを聞きつけてやって来たは丸々太った大柄な紳士だ、カルリはその人はお祖父様と呼んで抱きつく。

 この顔を見てようやく思い出した。この人はゼフ・ウェットランド伯爵でバーンヘイズ派の重鎮だ。完璧に思い出した、バーンヘイズ公爵家との結婚式に呼ばれた時にこの顔を確かに見た!


 敵対関係ではなかったとは思うけど、今の私はベネルネスじゃない。なので領主と現地平民という関係だ、本来ならこうして直で会うような間柄ではない。


「ウェルマ!!」


 ここで騒ぎを聞きつけて父サイアムがやって来た、もう少し早く来てほしかった。そして私が絡まれている相手が領主だと分かるとすぐに跪く。 


「其方は?」

「はっ! サイアム・ライアンと申します。ウェットランド騎士団所属の準一等下級騎士でございます」


 ウェットランド卿に頭を下げる、おそらく下級騎士1人1人の顔なんて覚えていないと思うけど。

「ふむ、そちらの赤髪の娘は其方の娘か? 年齢は?」

「はい、私の娘のウェルマと申します、3歳になります」

 私もサイアムの隣に立って頭を下げる。私は悪い事をしていないが、今はこうした方が事が角が立たないと思ったからだ。

「…ほう、カルリと同い年でそれか」


 何か感心された気がする。


「ウェルマっていうの? やっぱり!」


 カルリが近づいて来て私の顔を覗き込む。やばい、面と向かって言われると緊張して上手く言葉が出ない。ていうか、やっぱりとはどういう意味なんだ?

「ふむ、なかなか賢そうだな…下級騎士サイアムと言ったな、しばらく孫娘の遊び相手として其方の娘を借りるぞ」


 え?遊び相手!?


「で、ですが」

「心配するな、洗礼の儀式が終わるまでだ」


 サイアムの言葉を無視して私は拐われてしまった。私はカルリに手を引っ張られて一緒に連れて行かれる。こんな事になるならずっとサイアムの側にいればよかった。

「己の身分を弁えなさいよ」

 小声で従女が私を脅す、この人滅茶苦茶怖い。幼い3歳の私をそんなに目の敵にしなくても良いのに。

 刺激するのは怖そうだ、ここは素直に頷くしか助かる手段はなさそうだ。


「何、儀式を見終わるまでだ、とって食べたりはしない」

 ウェットランド卿が私に優しく笑いかける、生前の時は食えない狸爺だったけど孫娘の前では優しいお祖父さんみたいなのでちょっとだけ安心する。

「私の事をカルリって呼んでね」

 カルリが手を繋いで私の顔を見る。そして後ろから物凄い圧が向けられる、おそらく従女が私に身分を弁えろと無言で言っている。


「カ、カルリ、お、お嬢様」


 圧が無くなった、良かった立場を弁えろと言ったのはこういう事だな。

「…ふむ」

 ウェットランド卿の品定めをする目が怖い、早く儀式が終わって欲しい。

「あら、お父様、カルリどこに行っていたの?」

 また高貴なる人が現れた、この人はちゃんと覚えている。結婚式に参加した時にお祝いをしたし、私が闘病中に一度だけ見舞いにも来てくれた。ウェットランド卿の娘でヘレア・バーンヘイズ公爵夫人だ。


「お母様!」


 カルリが走りだす。なぜか私の手を離してくれずに一緒に私も駆け寄る事態に陥る。

「あら? その子は?」

 当然の反応だ、自分の娘が見ず知らずの女の子の手を引っ張ってやってくるのだから。

「カルリの友達!!」

 やめて! 私と貴女では立場が違いすぎるのよ? ほら従女さんが私を滅茶苦茶睨んでいる。


「ウ、ウェルマ・ライアン です」

 たどたどしく頭を下げる。困った、この状況からどうやったら抜け出せるんだ?

「ウェットランド領軍の下級騎士の娘だ、どうやらカルリが気に入ったようでな…ただ頭は悪くなさそうだ」

 私が下級騎士の娘と聞いて一瞬顔を曇らせる、それでも娘のためと思ったのか笑顔に戻る。

 なんとなくだけど私にはその気持ちが分かってしまう、もし娘のアニスが同じ状況だったら困っていたかもしれない。


 それでもカルリは私の手を離すつもりがないようだ。


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