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87.予想外の事態

 王都北西・立入り禁止区域の森



 王都から北西にある立入り禁止区域に指定された森、ここの入り口付近に拠点となる野営地が敷かれていた。


「おはよう、この小隊の指揮をとるミネルヴァ・エルドラゴンだ。初めての者もそうでない者もいるがよろしく頼む」


 早朝、ミネルヴァは先遣隊に選抜されたメンバーを集めた。ミネルヴァの前には屈強な丸坊主の大男、片腕の男、銀髪の老人という異色な面々が立っている。


「デルライザー、元気そうだな」


 真っ先に片腕の男に声をかける。


「ミネルヴァ嬢が来るとはな、どうやら第1騎士団は本気のようだ」

「いや、兄上が来たらどうなるか想像出来るだろ? 揉めていつまでも出陣出来なさそうだ」


 ミネルヴァは冗談っぽく言うが、本当にベクターが来たら間違いなく揉めるだろうとデルライザーは容易に想像出来てしまった。


「……其方がゲルトバルトだな、ミネルヴァ・エルドラゴンだ、よろしく頼む。父上が現役の頃にとても世話になったと聞く」

「……ん? 父上? エルドラゴン?」


 心当たりがないのかゲルトバルトと呼ばれた丸坊主の大男は首を傾げる。


「この人はワイルダーのオヤッさんの娘だ」


 小さな声でデルライザーが教える、するとゲルトバルトは大きく目を見開く。


「はあ!? ワイルダーのオッサンの娘!? 嘘だろ!? 全然似てねえじゃねえか!!」


 大袈裟に驚くゲルトバルトに対しミネルヴァは腹を抱えて大笑いをする。


「ははは、私は母上に似て美人に生んでくれたからな、そこだけは感謝している」

「あーー、そういう事は自分で言わない方が良いぞ?」


 副官として横に立つジェッドがミネルヴァの言葉に呆れている。


「初めましてマクシミリアン殿、この度はご協力感謝いたします」


 ミネルヴァはさっきまでの砕けた態度から打って変わって畏まって挨拶をする。


「ははは、畏まらないでくれ。君の父上には弟子達が大勢世話になっている、これくらいで恩を返せるとは思ってないがこの老骨を好きなように使ってくれ」


 マクシミリアンが改まって頭を下げる、するとミネルヴァは苦笑いしながらマクシミリアンの顔を上げてもらう。


「本当に錚々たる面子だ、私のような若輩者の指揮下に入るのは抵抗があると思う。だがこれも仕事だと思って割り切ってほしい、この中で私が1番弱いのは分かっているから足を引っ張らないようにするつもりではある、よろしく頼む」


 実際のところ、ミネルヴァは普通に剣の実力はかなりのものであり、常人の中ではかなりの実力に位置するであろう。

 しかし今いるこの集団の中では自分が1番の弱者なのを自覚しなければならなかった。


 ここにいる者達をまとめるには北部管領軍参謀長という肩書きより、エルドラゴン公爵家の人間という立場を利用した方が良いと割り切り、公爵家の長女が丁寧な態度で接する事でゲルトバルトの態度が柔らかくなったのが目に見えて分かった。

 これによりミネルヴァは小隊をまとめるのに手応えを感じていた。


「それでは時間が勿体ないから森へ進むとしよう。今回の先遣隊の任務は森の調査だ、無駄な戦闘は極力避けつつ竜骸の探索を行う、討伐はその時の状況による」


 ミネルヴァの指揮のもと、森の中に足を踏み入れる。


「お嬢、掃除屋と呼ばれる蟲が死体を分解する際に毒素を吐き出す。魔物の死体が見えるようになったら浄化魔法を使ってくれ」

 ジェッドが事前に情報を伝える。

「分かった」

 ミネルヴァが承知して周囲を見渡す。生きている魔物の気配はあるものの、放置されているという死体は見当たらない。


「おかしい……死体の処理は行われてないはず」


 ジェッドの焦りにミネルヴァが強めに腰あたりを叩く。


「落ち着け、冷静さを保て。相手は死体を食らって強くなるという話だが、私達も毒という危険が回避された事を幸運と考えよう」


 ミネルヴァの鼓舞に近いような言い方にジェッドは大きく息を吐いて落ち着かせる。


「もう少し奥に進もう」


 ミネルヴァを守るように隊列を組んで森の奥へと進んでいく。


「かなりの期間が空いたのは不味かった、森に放置されていた死体を全て食べられたと思って良い」


 ジェッドの言う通り、魔物の死体は全て綺麗に無くなっており、以前竜骸と交戦した場所まで何の弊害もなく進む事が出来た。


「今のところ危険は見当たらないか……」

「気を抜くな……何かいる。待ち伏せされていたのか」


 ミネルヴァの言葉を否定するようにマクシミリアンが鋭く言い放ち、剣を抜く。

 気配はあるが姿は見えない、全神経を集中させて周囲を警戒する。


 ブワァ!!


 突然、巨大な火の塊が放たれ、ミネルヴァ達へと襲いかかる。


「ちいっ!」


 ゲルトバルトが素早く反応し、パウンダーと呼ばれる巨大な鉄板のような剣を盾のようにして防ぐ。


「赤色の魔力!? まさか炎の魔法か!?」


 異常な熱量の火の塊に魔法の反応を感じる。


「今度はこっちか……」


 マクシミリアンのボヤく声がする、そちらを見ると巨大な石の塊が真っ二つになっていた。


「なっ!? 岩が」


 マクシミリアンが切り捨てた岩が形を留められずに砂のように崩れていく。


「これは茶色系の魔法だな」


 冷静にマクシミリアンが分析する。そしてミネルヴァが周囲を確認すると想像もしない現状に絶句するしかなかった。


「おい……竜骸は1体だと聞いたが?」


 ミネルヴァの問いかけにジェッドも困惑した様子で現状を確認する。


「な、何で2体いるんだよ!!」


 前方のゲルトバルトの方に、白い骨のような外郭をした人型のドラゴンが炎を身に纏った状態で対峙する。そして後方からも白い骨のような外郭の人型ドラゴンが現れる。

 完全に挟み撃ちの状態になってしまった。


「……あれ?」


 ピンチなのにジェッドは呆けた声をだす。


「どうした?」


 ミネルヴァの問いかけにジェッドは首を傾げる。


「おかしい……以前交戦した個体と明らかに違う。前の奴は顔は破壊されたまま歪に再生していた、何よりも体格が全然違う。それに魔法なんて使わなかった」

「まさか、以前の竜骸とは別の個体と言いたいのか?」


 ジェッドが青ざめて頷く、思いもしなかった事態だ。

 士官学校の生徒達が襲われたのとは別の個体が現れた、しかもここから王都は目と鼻の先だ。これはまさに緊急事態であり、すぐにでも対策を練らないといけない状態だ。


「おい! 呆けているな!! 今は俺達で何とかするぞ!」


 ゲルトバルトがよく通る大きな声で叫ぶ、それに驚いてミネルヴァは我に戻る。落ち着くように大きく息を吸って状況を確認する。


「部隊を二手に分ける!ゲルトバルト、そいつをお前1人に任せてもよいか」

「あ?」


 思いもよらない提案にゲルトバルトは驚く。


「他が何と言おうとお前はこの国で最強の男だ! これはお前にしか任せられない、頼む!!」


 ゲルトバルトは真っ向から全幅の信頼をおいて頼んでくる貴族と会うのは初めてだった、しかも命令でなく頼んできたのだ。


「くははは、ワイルダーのオッサンの娘にしておくには勿体ないな!」


 久しぶりの生死をかけた戦場に戻ってきた高揚感も相まってゲルトバルトの心は躍動していた。


「我々は全員で後ろの奴を集中して叩く! 奴を速攻で倒しゲルトバルトに加勢する!」

「「おお!!」」


 ミネルヴァの的確な指示が飛ぶ、予想外の事態となってしまったが、そのまま戦闘へと突入する事となった。


読んでいただきありがとうございました。

明日も投稿します。

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