85.釈然としない結論
「カルリ様ぁー」
「どこに行かれたのかしら?」
「いらっしゃいました?」
「いえ、こちらにはいらっしゃいません」
「ううっ、この場所もそのうち見つかりそう。唯一の安息の場所だったのに……」
遠くでカルリを探す声が聞こえる、それを聞いてカルリは苦笑いをする。唯一の安息の場所という事は、彼女達は常にカルリに付き従っているのかな。
「取り巻きと言うやつですか?」
「うん、悪い人達ではないんだけどね。あの後お母様に色々な方のお茶会に連れ行ってくれて知り合った子達なの、身分に誇りを持っている子達だからウェルマに酷い事を言うかもしれない」
まあ、普通に貴族教育を受けてきた令嬢なら当然だよね。
「ウェルマ……ありがとう。私の我儘で騎士になってくれて」
不意にカルリが私に抱きついて来る。
「……いいえ、私はまだ見習いで本物の騎士になってませんよ」
「大丈夫、ウェルマなら絶対に大丈夫」
周囲からの視線は気になるが、私はとても幸せな気分に満たされていく、つい調子に乗って私も後ろに手を回してしまった。
「そろそろ行くね……」
名残惜しそうにカルリが離れる。もう少し幸せを噛み締めていたかったけど、そうはいかないようだ。古い庭園に私達は残され、カルリの後ろ姿を見つめていた。
ゴスッ!
「うっ!」
突然脇腹に何かが突き刺さる。
「いいな〜いいな〜」
クラリスの目が怖い、自分の脇腹あたりを見ると拳が突き刺さっている。
「ウェルマは百合だったか」
ナフタが訳の分からない謎言語を口にする。
「ウェルマなら絶対に大丈夫!」
それはカルリの真似か? 全然似てないし! 似てなさすぎてシェスカに殺意を覚える。
「評判通りの人物のようだな」
私の周辺を他所にオリヴィエは感心した様子で笑っている。
「あの、この事は本当に誰にも言わないで下さいよ。私は色々あってバーンヘイズ家の人達に嫌われているし、恩のあるウェットランド様に迷惑がかかってしまう」
改まってお願いするとみんな頷いてくれた。
「ウェルマの彼女の為だもん! 絶対に内緒にするよ」
ナフタはふざけているのかな? 天然かな?
「もしかしてウェルマの方が彼女側?」
シェスカにはいつか必ず報いを受けてもらう。
「このままいくと私とウェルマは巫女様をめぐるライバル関係に!? 絶対に負けないから!!」
クラリスは馬鹿だ。
「さてと、そろそろ帰ろうか」
オリヴィエはこの地獄を放置する気のようだ。
今回の調査では少しだけ有益な情報を得る事が出来た。
行方不明となった生徒の生存は分からないままだけど、彼等のアカデミーの扱われ方や、強くなろうとして森に入った動機などは報告出来そうだ。
「後はレミオさんが言っていた歪んだ世界を正すために力がいると言った人物ですね」
私の言葉にオリヴィエが頷く。
「ハンスという人物がそれを言ったかは分からない、ただ反体制的な考えを持っている事は間違いないようだな。レミオもそれに傾倒しつつあったようだ、ここから先はマクウェル卿のフォローが重要になるな」
この後は士官学校でジェッド教官と落ち合う予定となっている、向こうもハンスについて色々と調べてくれているはずだ。時間も押しているので私達は急いで士官学校に帰る事にした。
「だあぁぁ、クソッ、アイツら絶対にグルだぜ!」
士官学校でジェッド教官と落ち合うと開口一番項垂れている。
取り敢えず表に出せない秘密の話なので、周囲から怪しまれないようにオリヴィエとジェッド教官、そして何故か私が話し合いに参加する事となってしまった。
「使用人含めて全員が口裏を合わせてやがる! ハンスに実際に襲われたと言っても、暗闇の中で本当にそれがハンスだと立証出来ないとか、貴族からのやっかみで罪を着せようとしているとか散々な言われようだったぜ」
ジェッド教官の口ぶりからハンスの方は上手くいかなかったみたいだ。
確かベロー商会と言っていたな……私がベネルネスの頃からある老舗の総合商会だった記憶がある。だけど今のように大きくなっていたとは知らなかった、大口の顧客は貴族のはずで仮にも大貴族であるエルドラゴン公爵家とそれに組みしている第1騎士団の調査を突っぱねるとは思わなかった。
「もう1人の目撃者であるゲルトバルトを連れて行けばよかったのでは?」
オリヴィエがゲルトバルトという名前を口にして反射的にビクッとしてしまう、あの時の恐怖が今でもトラウマのように脳裏に焼き付いている。
「アイツを連れて行ったらどうなるか想像してみろ、死人がでるぞ? ただでさえ常識がないんだから」
ジェッド教官に激しく同意する、本当に常識が通用しないから何をするか予想も出来ない。
「ただ、ハンスの野郎の狙いがゲルトバルトのようだ。考えたくないがアイツが敵に回ったら誰も手がつけられないぞ?」
ゲルトバルトが狙い? ジェッド教官の言葉に驚いてしまう。
「……やはり反体制派が裏にいると考えて良いな。奴等にとってゲルトバルトは象徴的な存在とも言える」
オリヴィエも深刻そうに呟く。
ゲルトバルトを利用しようとしても、絶対に思い通りに動くとは思えない。だが敵に回ったら想像したくないくらいの脅威になってしまう、暗部がゲルトバルトを暗殺しようとする理由はそれなんだろう。
エルダが暗部に所属しているとしてゲルトバルトと対峙したら……正直言ってゲルトバルトが負ける事は想像出来ないし、手加減をするような人でない。
「そっちのデミリーの方はどうだった?」
ジェッド教官が気を取り直してこちら側の成果を聞いてくる。
「ああ、インヘリットの第一世代の5人のうちの1人だ。農奴出身で、アカデミー在籍時の境遇やエルダ・ライアンとの関係性も分かった」
平民だからと頭ごなしに押さえつけられていた事や、エルダがそれに対して反抗し、5人をまとめ上げていた事を話す。
「ウェルマから見てその話の信憑性は?」
ジェッド教官が私に意見を求めてくる。
「正直言って暗部に姉のエルダが属している事が信じられないです。逆にアカデミーで聞いた行動の方が私の良く知っている姉の姿だと思えます」
自信を持って言うとジェッド教官に複雑そうな顔をされた、実際にゲルトバルトと交戦したと聞いているから私に気を遣っているのだろう。
「第一世代の5人に何があったかは分からない。普通に考えれば袂を分けたと考えるべきだが、暗部という特異性から調べる手段がない。エルダやデミリー達以外にもう1人アルランという人物の所在も分からない」
そう言えば第一世代は5人なのに4人しか所在が分かってない。まあ、もし暗部所属で別行動しているのなら調べる手段が無い。
「じゃあガバーとリッギルだったか? 行方不明の2人はどうする?」
ジェッド教官の言葉にオリヴィエが何やら資料を手に取る。
「先日、ようやく彼等の自室を調べる事が出来た、生活感が残っており、とても家出の準備をしているような状態ではなかった」
つまりどう言う意味だ? 私は思わず首を傾げてしまう。
「明確とは言えないが、2人は再び自室に帰ってくるつもりで森に出かけたと思われる。彼等は強くなる事に固執しているだけで、その力を周囲に誇示するつもりだった。そして森に行って何らかの事故に巻き込まれたという形で報告を出すつもりだ、森の捜索で何らかの物証が出てくれば核心に至るだろう」
それが1番妥当な回答だろう、これ以上アカデミーのゴタゴタに巻き込まれるのはオリヴィエとしては嫌なんだろう。
こうして釈然としないままアカデミーの調査は打ち切りとなった。
読んでいただきありがとうございました。
次話は明後日に投稿します。




