84.あの時のように手をとって
「協力を感謝する」
オリヴィエがサンドラに感謝を述べる。
「ありがとうございました」
人としては全く尊敬出来ないけど、エルダの事を教えてくたのでお礼を言っておく。
一方のサンドラは溜まっていた毒を吐き出した気分なのか、スッキリした様子でお礼に応えている。こっちはその毒にあてられて気分は最悪なんだけどね。
そのまま教室棟から出ると全員で合わせたように大きく溜息を吐いてしまった。
「…完璧に逆恨みじゃん」
ナフタが口を開く。
「ウェルマのお姉さん、全然悪くないし」
クラリスも私と同じ意見のようだ。
「私……本当にアカデミーに来なくて良かった」
心底ホッとしたようにシェスカが呟く。
「確かサンドラはヴィーツ子爵家の人間だったな、貴族らしい考え方といえば納得は出来るが」
やはりサンドラは貴族出身だったか、と言うかアカデミーの教諭は貴族じゃないとなれないはず。
「難しい話だ、このアカデミーでは実力が全てではない、魔法や勉学のような自身の力だけでなく、経済力や身分やコネなども必要だ。やはり魔力が高いという理由だけでここに通わせるのは無理がある、このままでは双方にストレスが溜まる一方だ。いっそのこと新しく別の学校を作るべきだったな」
オリヴィエは物凄く建設的な意見を言っていると思う、だけど現実はかなり難しい。一番の問題は魔力至上主義のこの国では、魔力持ち=貴族の血だ。
魔力を持つ者は祖先を遡ると貴族へと行き着くのが通説だ、それに該当しないイレギュラーな存在のために国が動くとは思えない。士官学校みたいにエルドラゴン公爵家のような高位貴族が経営すれば良いのだが、手を挙げる者はきっといないだろうな、やるなら自領で人材を育成する程度だと思う。
「ウェールマッ!」
考え事をしていると不意に背後から声をかけられる、聞き覚えのあるような無いような懐かしい声がする………
「は? ええっ!?」
振り向くと赤い瞳の美しい少女が満面の笑みで私の顔を覗いている。
「カ、カルリおじょ」
「こっちへ!」
私の言葉は途中で遮られて、手を引かれるがままにカルリの後をついて行く。
「やっぱり会えた! 今日はきっと良い事があると思ったんだ!!」
無邪気に喜ぶがする。物凄い懐かしさが込み上げてくる、カルリがこうやって手をとって私を引っ張って行く姿は昔のまま変わっていない。
後ろを見ると唖然としていたナフタ達も慌てて付いて来ている、その中にはカルリを巫女様と呼んで神格化しているクラリスもいる………果たして私は無事に生きて帰れるのだろうか?
少し行った先に、人気のない隠れ家的な庭園があり、そこに着くとようやくカルリは足を止めてくれた。
「うふふふふ」
カルリは満面の笑顔で振り向く、その所作が全てにおいて可愛らしい。
「カルリお嬢様、これはいったい?」
「ごめんなさい、赤い髪の女の子を見かけてしまったら、もう我慢出来なくて!」
恥ずかしそうな表情で私の顔を見る。
「大変だったんだよ、私の側から離れてくれない同級生の子達を撒くのは」
悪戯っ子ぽく笑う。昔から表情が豊かで、その愛らしい姿にドキッとしてしまう。
「カルリ・バーンヘイズ嬢…で良いのだな?」
状況の飲み込めないオリヴィエが代表してカルリに尋ねる。
「はい、バーンヘイズ公爵家長女カルリ・バーンヘイズです。ウェルマを勝手に連れ出して申し訳ありませんでした、オリヴィエ・エルドラゴン様」
カルリは握っていた手をほどいて貴族令嬢らしい姿に戻る。
「初対面だが……私の事を知っているようだな?」
面識の無いカルリに名前を知られているのでオリヴィエが驚く。
「うふふ、有名なお方なので当然ですよ。あと貴女はアンダシアでお会いした事がありますよね?」
「え!? わ、私の事を覚えていらっしゃるのですか!?」
突然話を振られてクラリスは驚きを隠せない、頬を赤くして恋する乙女のような顔をしている。
「それで…ウェルマとはどういう関係なのだ?」
うううう、あまり人に知られたくないのだが。
「うふふ、ウェルマは私の初めての友達で、大好きな人で、私の大切な騎士です」
隠す事なく堂々と言ってのけた!?
常識的に考えてあり得ない事なのでみんなが変な顔をしている。
「ちょちょちょ、ちょっと待って下さい、私が説明します!」
カルリはストレート過ぎて過程を一切言わないからこのままでは誤解されそうだ。この前アニスに説明した分なのに再び説明するハメになるとは思わなかった。
「あ、前に言ってたウェルマが騎士を目指す動機になった人って」
ナフタは以前私が話した時の事を思い出したようだ。
「うん、カルリお嬢様のこと」
私がそう言うとカルリは嬉しそうに私と腕を組む…そしてクラリスが私を見る視線が痛い。
「それで、私とカルリお嬢様の事は内緒にしておいてね、各方面に色々と迷惑をかけてしまうから」
「えー、何で?」
カルリ本人が事の重大さを理解していないようだ、私はバーンヘイズ家の人達に好かれていないのも知っているはずなのに。
「それにしても、カルリお嬢様が予言の巫女と呼ばれているのは知りませんでしたよ」
「え?」
カルリに改めて尋ねるとキョトンと首を傾げられる。
「カルリお嬢様は知らないのですか?」
「…うん、何それ?」
何やら情報に齟齬があるみたいだ、カルリ自身も何の事か分かっていないようだ。
「うーん、予言というか…昔から夢に見た事が現実になる事があるの。夢は見たり見なかったりだけど、見た時はそれが実際に起こってしまうの。ウェルマの事も夢で見たのよ、赤い髪の女の子と私が一緒に歩いていたの、とても楽しくて幸せな夢だったのを良く覚えている。それで実際に教会に行ってみたら本当に赤い髪の女の子がいたからビックリしちゃったよ」
あの時の事を思い出す、私が絵本を読んでいたらいつの間にかカルリが私の横にいたんだよな。つまり私と会う事を夢で見ていたから接触してきたのか。
「あの、それではアンダシアの大聖堂が崩落したのを予知したのも」
クラリスが慌てて尋ねる。
「ええ、あの時はロスローリア教会に招待されてアンダシアの街に行っていたの。その時、滞在先で夢を見てしまって慌てて伝えに行ったの」
アンダシアの大聖堂の崩落?そんな事件があったんだ。アンダシアはこの国で唯一のロスローリア教会の自治区だけど、カルリはそんな所に招待されていたのか。
「あの時は本当にありがとうございます。おかげで私を含め沢山の命が救われました」
クラリスが改まって跪いて頭を下げる。
「いいえ、顔を上げて。あの時は私は何もしてません、何も出来ないから大声で危険を伝える事しか出来なかった。救われた命もあれば亡くなった命も多くあります、とても仰々しく感謝を言われるようなものではありません」
カルリはクラリスを立たせて恥ずかしそうに笑っている。その姿からは今まで出会った貴族令嬢とは思えないような温かなぬくもりを感じられる。
幼い頃から知っているけど、カルリは本当に素晴らしい人に成長してくれたものだと思ってしまった。
読んでいただきありがとうございました。
明日も投稿します。




