82.再びアカデミーへ
「引き続き捜査に付き合ってくれて感謝するよ」
いつもの4人が揃ってオリヴィエの後ろをゾロゾロと歩く、その時に改まってオリヴィエからお礼を言われてしまった。
「2人が森に行って行方不明で終わりってのは何か違う気がします、私も最後までお付き合いさますよ」
ナフタもこの結末には納得出来てなかったようだ。
「あの後、クラリスとも話していたんですが、やはりレミオさんから聞いた話は少しおかしい気がするんです」
この前レミオに色々と聞いていたシェスカが首を傾げながら疑問を口にし、更にクラリスもそれに続く。
「そのハンスっていう人の言い分が、やけに貴族へ対する反感を煽っているみたいで。レミオさんは建前では従順な様子でしたけど、内には相当不信感を溜め込んでいるみたいだと思ったんです」
確かに、オリヴィエが励ました時の意外そうな顔も、マクウェル卿が様子を見てきて欲しいと頼まれた事を話した時はもっと驚いていた。
何となくだけど私達には普通だったけど、貴族であるオリヴィエに対してかなり身構えていた感じだ。
「そのハンスという人は、何も知らないレミオさんのような人に対して擦り込みのような事をしているんでしょうか?」
私は昔エルダに対してバーンヘイズ家がやった事を思い出す。あの時はサーニャの機転で事なきを得たけど、あのまま進んでいたらどうなっていたんだろうか? バーンヘイズ家に絶対的な忠誠を誓っているのだろうか? 昔から貴族が優秀な人材を自陣に取り込むために使う手段ではあるけど。
「まずハンスという人物がどのような者か分からない、そちらはジェッド教官が動くと言っていた、普段は軽薄な感じに振る舞っているが、あれでいて頭のキレる人だから大丈夫だろう。私達の目的はあくまでガバーとリッギルの捜索がメインだ、2人が森に出たとなれば捜索は第1騎士団に託す事になるが、もう少し深く調べた方が良い気がする」
オリヴィエの言葉に私達は頷く、レミオの話ぶりからも森に行ったのは間違いなさそうだがその経緯に不審な点が多すぎる。
「それから全員ウェルマの姉の事は口外しないようにな」
オリヴィエがナフタ達に釘を刺す。
一応3人には姉のエルダの件は話しておいた。やはり暗部に所属という情報は非常に危険だ、黙っておいた方が安全かもしれないが、何も話さずに不信感を持たれるのも不味いと思い私から3人にはある程度の事は話しておいたのだ。
「でも残念だね、お姉さんの事を色々と聞きたかったでしょ?」
「ううん、大丈夫だよ」
ナフタ達には気を使われてしまったが、こればっかりは私の家族のいざこざなので巻き込むのは申し訳ない。
再びアカデミーの城門へ入る、2回目だから慣れたもので手際よく入門許可証を受け取る。
再びサンドラの話を聞くために教室棟へと向かう、まだ時間的に早いので生徒もたくさん校内に残っていた。
「あ」
私達を見て不意に声をかけられた、そこには先日話を聞いたレミオが驚いた様子で立っていた。
「こんにちは、レミオさん」
シェスカが笑顔で挨拶するとレミオは慌てて頭を下げる。
「あ、あの、何か他に?」
レミオは探るように聞いてくる、よほどアカデミーで肩身が狭いのか周囲を気にしている。
「いや、全くの別件だ、心配しないでくれ」
オリヴィエは安心させようと愛想良く笑顔で答える。
「あれ? まだ学校にいるじゃん」
不意にレミオは後ろから声をかけられる。そちらに目を向けると3人組の男子生徒がやってくる。
「…アイツ」
ボソリとシェスカの声が聞こえる。
「あれあれ? いつもみたいに逃げないの?」
「とうとう君1人になって立場が弱くなってしまったね?」
取り巻きのような男子生徒2人がニヤニヤしている、とても嫌な感じだ。一方、取り巻きの1番後ろに控えるボスのような生徒は驚いた様子でこっちを見ている。
「相変わらず1人では何も出来ないのですね?」
氷のような冷たい表情でシェスカがその生徒に言い放つ。
「クズが、いつまでも調子に乗ってられると思うなよ」
それに対して男子生徒はシェスカをゴミを見るような視線で睨みつけてくる。
誰だろう? 物凄く険悪な様子なのだが?
「久しぶりだなラキス・ハイルベンド。その口ぶりから察するとアカデミーの品格も落ちたものだな」
ここでオリヴィエも前に出る、ラキスと呼ばれた生徒はオリヴィエを見ると舌打ちをして踵を返す。
「ラキス様?」
取り巻きの2人は状況が飲めずにいたが、慌ててラキスの後を追いかけていった。
「…誰?」
私が尋ねるとシェスカは大きな溜息を吐く。
「ラキス・ハイルベンド、本家筋の異母兄よ。まあ、兄と言っても同い年だけどね。本当に嫌な奴よ」
そう言えばシェスカはアカデミーに正妻の子が通っていると言っていた、つまりあれがハイルベンド侯爵家の跡取りって事か?
前世のベネルネスだった時のハイルベンド侯爵家や本家のハイルランダー公爵家の事を思い出す。何にでも優劣を付けたがり、勝つためには手段を選ばない。取り巻きの頭数を揃えて威張っていたのを思い出す。
すでに大昔の事なのに鮮明に覚えているのは本当に謎だけど、私やアルバレスはあまり好ましく思っていなかったのをハッキリと覚えている。
「それよりもレミオさん、大丈夫ですか?アイツらが嫌がらせをされているんじゃないですか?」
気を取り直してシェスカがレミオの方を向く。
「凄いなあ、アイツはガバーより強いのに」
心配をよそにレミオはシェスカに尊敬の眼差しを向けてくる。
「あの男には私も酷い目に合わされたからね、ザマアミロよ」
したり顔のシェスカが満面の笑みで返事をする。
「もし君に実害があればマクウェル卿に相談してみろ、あの手の男は自分より身分が上の人間に対して弱いからな。前にも言ったがマクウェル卿は無関心ではなく、基本的に干渉しない姿勢だ。声を出して助けを求めれば必ず応えてくれるはずだ」
オリヴィエとマクウェル卿はいつのまに和解したんだろう? とても犬猿の仲とは思えないんだけど?
まあ、本当に貴族の全部がハイルベンド家のような人達ではないと信じてもらいたい。私がお世話になったウェットランド卿なんて格上のマクウェル公爵家を相手に私を守ろうとしてくれたからね、貴族の中にだって良い人がいる事を知って欲しい。
「…もし彼らの言動でレミオ君の実生活に支障があるようなら私からマクウェル卿に報告しようか? きっと悪いようにならないはずだ」
レミオの戸惑った反応を見てオリヴィエが気を利かせて申し出る。
「は、はあ」
しかしイマイチ実感がないのか、レミオは気のない返事を返すだけであった。
読んでいただきありがとうございました。
明日も投稿します。




