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8.生まれ変わっても癖は直らない

 生まれて初めての外食だ。

 街の中央にある大きな大衆レストランのような建物の中に入る、店内はとても賑やかで沢山のお客さんで混雑していた。


 空いていた席に座りメニューを見る。ここで私はとんでもないモノを発見する、何とメニューの中にケーキらしき物があるではないか!

 嬉しくて今にも踊ってしまいそうだ! 私はベネルネスだった頃から甘い物に目がない、甘い物を食べている時だけは世界の幸せを独占した気分になる。


「お、ウェルマも見つけたな?いくか?」

「いいの!?」


 視線を父のサイアムに向ける。苦笑いしながら頷いてくれた。

「これだから街に出るのはやめられないんだわ!」

 エルダのテンションが高い理由が分かった。出てきた食事を急いで食べ、一種類だけあるケーキを食べる瞬間がきた。

 生クリームが上に乗った簡素なスポンジケーキだ、だけど私の幸せにはそれだけで十分だ。


「おいひい!」


 一口食べると生クリームの甘味が口の中に広がる。続けて二口目を食べる、至上の幸せが私の口の中で暴れ狂う。


「…私の妹はこんなに可愛かったのか?」

「お、おお、俺もびっくりだ」


 エルダとサイアムが何か言っているがケーキに夢中なので何も耳に入ってこない。


「うっふぅぅ、幸せ」


 あっという間に食べ終えてしまった、物足りないけどあまり贅沢は言えないから顔を上げる。すると何故か2人ともケーキに手をつけずに私を見ている。

「あ、何だ、いつものウェルマに戻った」

「…普通だな、食べている時だけか?」

 何か物凄く失礼な事を言われた気がする。



『君は好物のハニートーストを食べている時だけ愛らしくなるんだな』


 物凄く大昔に同じような事を言われた記憶がある。

 普段の私は鉄仮面のように無表情なのに甘い物を食べている時だけその鉄仮面を外すと笑われたことがある。

 懐かしい思い出だ。夫のアルバレスが私を見て初めて笑った時だ、今でも鮮明にそのシーンを覚えている。



 生まれ変わっても、表情が崩れる悪い癖は直っていないようだ、だらしの無い顔を見られるのはあまり好きではない。


「いらないの?」

「「いる!」」


 私が手付かずのケーキを取ろうとすると2人とも慌てて口の中に入れてしまった。


 大満足の食事を終え、本来の目的である教会へと向かう。

 教会の前にはエルダと同い年と思われる子供達がすでに10人ほど集まっていた。子供達はワイワイと賑やかだが、付き添いの親の方は緊張の色が隠せないようだ。私もその気持ちはとても分かる、アレクシスの時には食事も喉を通らなかったと思う。


「よう、サイアムのところも7歳か」


 岩のような分厚い男性が近づいてくる。

「バッガスもか、お互いこの時が一番緊張するな」

 サイアムの知り合いなのだろうか?とても親しげな様子だ。

「おお、子供の明るい未来が決まるからな。これで全て決まるわけじゃないけど、有ると無いのでは人生のスタート位置が変わるもんな、俺なんかそれを嫌というほど味わってきた」

 バッガスさんが遠い目をしている。

「そうだったな、お前のところは兄貴さんに色があったんだったな」

 そんな事もあるのか、なんか兄弟でも有ると無しで仲が悪くなるのは嫌だなあ。


「父ちゃん、行ってくる」

「おう、頑張ってこい」


 エルダが子供達の輪の中に入る。知り合いなのかな? 可愛らしい女の子と嬉しそうに談笑している。

「ウェルマは俺と一緒に待つんだぞ」

 そう言う割にバッガスさんと何やら話し込んでいる。これは思ったより私はやる事がない。

 周囲を見渡すと待合室に何か本っぽいものを見つける。


「おとーさん、本!」


 お父様と呼ぶなとサイアムにも言われている、あまり慣れないがお父さんと呼んで服の裾を引っ張る。


「本? ああ、待合室の本か? 見たいのか?」

「うん! 行ってもいい?」


 サイアムは少し考えた後に頷いてくれた。ただし条件付きだ、待合室から出ない、本を汚さない、物を壊さない、人に迷惑をかけない、この4つを約束させられた。もちろん本を汚さないし物を壊すなんて3歳の私には出来ないと思う。


 意気揚々と待合室に入る。中には誰もいない、これなら人に迷惑をかけることはまずない。

 小さな本棚にはロスローリア教の聖書や教書が並んでおり、隅っこに児童書っぽい本も置いてある。

 だけど私の目当てはそれではない、周囲を見渡すと腰掛けの上に新聞っぽい紙を見つけた。こう言う場所なら信者向けの新聞があると思ったんだ。


 すぐに新聞を見てみる、どこそこの教会の寄贈者の一覧やら、教会の慈善事業などの興味のない記事ばかりが掲載されている。だけど私の見たいのはそれではない。


「…エルバニアおうこく」


 やはり予想した通り、私が生まれ変わった場所は私が今まで生きてきた国で間違いない。周囲の話からも予想できたのでそこに驚きはなかった。

 問題は今がいつなのかだ、私が死んでから何年の歳月が経っているのかを知りたい。


「エルバニア歴1155年黒の月12日…」


 ん?

 え?

 あれ?

 1155年?


 私の死んだのはいつだったかな?闘病中はほとんどベッドの上だったからイマイチ時系列の記憶が曖昧だ。

 確かアニスが生まれたのが1145年だったはずだから私が死んだ時は6歳だった…えっと、つまり私が死んだのは1151年でいいのか?


 それで今の私は3歳…


 という事は4年?

 えっ!? 4年しか時が経過してない!?

 それって、つまり死んですぐに生まれ変わったって事なの!?






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