79.ある日、突然、別世界に放り込まれて
「失礼。第一騎士団所属のオリヴィエ・エルドラゴンだ。ここに王立アカデミーに通っているレミオという少年が働いているとの話だが?」
オリヴィエが開店前の店内に入っていく、その間は私達は外で待機している。
何となくウェットランドの街にあった大衆食堂を思い出してしまう、もう店構えだけで何を食べても美味しいのが分かってしまう。
「こういう感じの店は絶対に美味しいのよね!」
「うん、間違いない!」
私の想いにナフタが激しく同意してくれる。
「懐かしい…小さい頃からお母さんに放置されてたからさ、こういうお店でお手伝いしてご飯食べさせてもらったなぁ」
シェスカが衝撃の一言を漏らす。
「…え? お母さんに放置されていたの?」
ドン引きのクラリスが私達の言葉を代弁してくれた。
「うん、お母さんはどっかの男の家に入り浸っていたからほとんど帰って来なかったんだよね。ちょうど住んでいた集合住宅の前にこういう食堂あってさ、そこの食堂のおかみさんが同情してくれて、お手伝いしたらご飯が食べさせてもらえたんだ。あれは本当にラッキーだったなぁ、何とか生き残れた」
シェスカの壮絶な幼少期に全員がドン引きする、私からしたら子供を放置するなんて本当にあり得ない事だ。
「大変だったんだね」
シェスカを慰めるつもりで頭を撫でる、すると顔を真っ赤にして手を振り払う。
「アンタ、この前の仕返しのつもりか!?」
「は? さあ? 何かあったっけ?」
今の私はシェスカを甘やかしたい、するとナフタやクラリスも私の真似をしてシェスカを撫で撫でする。
「ぐあ、やめろぉ!」
「「あははは」」
いつも私やナフタがイジられているのでいい気味だ。
「…何をやっている?」
状況が飲み込めないオリヴィエが困惑した様子でやってくる、私達がシェスカを甘やかしたいとは言えないので笑って誤魔化すしかなかった。
「本人と話が出来るみたいだ」
オリヴィエに促されてお店の中に入る。まだ開店前なのでお客さんは誰もいない、今まさに開店準備中真っ最中で、中の厨房の方はとても忙しそうだ。
「もうすぐ開店なんだ、手っ取り早くお願いしますよ」
「ああ、分かっているよ」
オリヴィエが店主らしき男性と話す、そして男の子が店の奥からやってきた。
「あの、レミオと申します」
レミオと名乗った少年はオリヴィエと私達に頭を下げて挨拶をする。
「畏まらないでくれ、今日は少しだけ話を聞きに来ただけで、すぐに帰るつもりだ」
オリヴィエがレミオの緊張をほぐすように優しく語りかける。
少しだけ緊張のほぐれたレミオを観察する、学年的には私達より一つ上で17才と書いてあった。その割には幼く見える感じだ、小柄で細身の体型で可愛らしい系の男の子だ。
「君の同級生のガバーとリッギルについて聞きたいのだが?」
時間も無さそうなのでオリヴィエがすぐに聞き取りを始める。
「アイツらがどこに行ったかは教諭達にも聞かれたけど僕は何も知りません、僕の事を魔物もロクに倒せないハズレ魔力だって馬鹿にしていたので」
レミオの言葉に少しだけショックを覚える、同じように魔力を持っていたとしてもこのような酷い扱いを受けるのか?
「僕はあまり戦いとかが好きではないので森とかに誘われないので逆に気が楽でした。アイツらはハンス先輩から魔物を倒せば強くなれると言われたのを信じてました、なので頻繁に森に入っているとは言ってました」
「ハンス先輩?」
オリヴィエは新しい人物の名前に首を傾げる、何やら心当たりがあるようだ。
「アカデミーを卒業した先輩です。同じ平民出身で僕達に色々と良くしてくれた人がいるんです」
「あの、そのハンスという人に言われて強くなりたいと言っていたのですか?」
ここでシェスカがレミオに尋ねる。
「え? 分からないけど歪んだ世界を正すためには力がいるとか何とか言ってた気がする、正直言って興味もないし、ガバーやリッギルに弱いから来るなと言われてた、その言い方にムカついてたので意地でも一緒に行かなかったですし」
何か問題が大きくなってきている気がする、歪んだ世界を正すって今の体制に対する不満なのか?
「それで、2人は森に入った可能性が高いのか?」
「それは…すいません、分かりません」
本当に仲良くなかったのだろう、レミオは歯切れの悪い答えしか返せない。
「ねえ…突然別世界に放り込まれてどうだった?」
再びシェスカが質問する、思ったより真剣な顔をしている。
「え? ……正直言って最悪だよ、本当に話を聞かないバカばかりだ」
さっきまでの丁寧な受け応えとは正反対の口調になる、きっとこれがレミオの本当の姿なのだろう。つい言ってしまったのだろう、レミオもそれに気がついて慌てて頭を下げて謝る。ここでオリヴィエが時計を見る、もうすぐ開店の時間なのだろう。
「そろそろ時間だな。レミオ君、時間を取らせて悪かった。自分勝手で無責任な言い方ではあるが、どうか頑張ってくれ」
オリヴィエがレミオの肩を叩いて店主の方へ挨拶に行った。
「………」
励まされた事が意外だったのか、レミオは驚いた表情をしてオリヴィエの方を見ている。
「色々と大変なんだね」
同情した様子でシェスカが尋ねる、突然貴族になって色々と酷い目にあってきた自分と重ね合わせているのかもしれない。
「マクウェル家が何も言ってこないだけ俺はマシな方だよ、こうやって好きな事をさせてくれるから」
同年代の私達には砕けた口調になる。そしてここに来てマクウェル卿の放任主義が功を奏した? のかもしれない。
「あの、私達はそのマクウェル公爵様より貴方の様子を見てきて欲しいとも言われているんです」
マクウェル卿の名誉のために私は小さな声でレミオに教えておく、するとさっき以上に驚いた表情になる。マクウェル卿が気にかけている事が心底意外だったみたいだ。
そのままオリヴィエについて行き店を出る、オリヴィエは少しだけ顔が強張っている様子だ。
「ハンスという人物を本格的に調べないなといけないな…」
オリヴィエがボソッと呟く。
「例の先輩と言っていた人ですね、何か心当たりが?」
するとオリヴィエが小さく頷く。
「以前騎士団が出張って暴れる生徒を討ったという話をしたと思う、その生徒もハンスという名前を口にしていたのだ。いわゆるアカデミーにおける平民出身者達のリーダー的な存在だと聞いている」
少し前にオリヴィエが言っていたな。
暴れるインヘリットの生徒をアカデミーの先生が誰も止められず、仕方なく騎士団が討伐したと、オリヴィエ自身も非常に嫌な感情を抱いている胸糞悪い事件だと言っていた。
以前マクウェル卿が言っていた事を思い出してしまった。
現体制を良くないと思っている人間がおり、魔力を持たずとも強い私やゲルトバルトは彼等から狙われる可能性があるらしい。
そんな私達を貴族は見過ごす事はない、下手すればどこにいても常に監視される事になるかもしれない。
ここに来てとてもきな臭くなってきてしまった。
読んでいただきありがとうございました。
明日も投稿します。




