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78.面倒臭い人

 ここでマクシミリアンと剣のお手合わせするという事態は何としても回避したい。


「オリヴィエ教官、そろそろお時間が…」


 私達にはこの後やる事がある、老人と鍔迫り合いをしているヒマなど無いのだ!


「え? ああ、そうだな。ナフタもそろそろ良いか?」

「は、はい、ありがとうございます」


 まさか、2人に私の思いが伝わった!?


「ええ!? もう帰るの?」


 いい年した老人があからさまに沈んでいく。


 この姿を見て思い出した! この人(マクシミリアン)は物凄く寂しがり屋で、とにかく誰かに構って欲しいという人だった。

 確か実家のロスウェルソン家で誰も相手にしてくれないからグランマーレ家に来たんだった。私は対応が面倒臭くて全て夫のアルバレスに丸投げしてしまったが、それが失敗だったと後悔した記憶がある。

 まさかそのままグランマーレ領に居座るとは思わなかったんだ。


「…ならここにナフタを生贄に置いていくのは」

「ウェルマ!?」


 聞こえないように小声でオリヴィエに言ったつもりがナフタの地獄耳には効果がなかったようだ。ここに置いてかれないように私の腕にしがみついてきた、どうやら大好きなお師匠様より私達に置いていかれる方が嫌だったようだ。


「あ! そうだ! 何なら儂が用心棒代わりに着いて行こうか? これでも剣の腕に多少は自信がある!!」


 まさかの提案だ、この人は一緒に来るつもりだ。さすがにオリヴィエもそれは困るらしくて焦り出す。


「もう、ダメですよ大叔父様」


 ここでアニスが助け舟を出してくれた、私達は期待の眼差しでアニスを見守る。


「この子達は士官学校の生徒なのですよ? これも勉強の一環なのでしょう?」

「ああ! その通りだ!! この子達は実務勉強も兼ねて私の手伝いをしてもらっている」


 オリヴィエもアニスの助け舟に便乗する。


「く、仕方ないのか…」


 アニスとオリヴィエに説得され、ようやくマクシミリアンは引き下がってくれた。その後ろ姿には年相応の哀愁が漂っていた。


「…やけにこの子達の肩を持っているみたいだね?」


 アニスの助け舟にアレクシスが首を傾げる。

「ま、まあね、家庭教師をやってみて色々と考え方が変わったのよ。さあ、行きましょう」

 アニスに促されて私達は無事にこの場から離れる事ができた。


「ふう、アニス。ありがとう」

 オリヴィエが改まってお礼を言う。

「ああなると面倒臭いですからね」

 アニスが大きく溜息を吐く。

「はい、その通りです。ごめんなさい」

 ナフタは悪くないけど謝ってくる。それにしてもナフタも時折マクシミリアンと似たところがあるので、もしかしたら師匠とは似た者同士なのかもしれない。

「何か思っていたのと違う、私に剣を教えてくれた人は、剣老様はとにかく凄い人だって言ってた」

 シェスカが苦笑いをしている。


「そんな事ないよ! 剣さえ持っていれば凄いんだから!」


 ナフタはフォローするが、それでは剣を持ってないとダメ人間だと言っている気がする。


「あーーー、ナフタといったかしら?」


 アニスが大きく溜息を吐く。


「今の言い方だとフォローになってないわよ? まるで剣を持っていない時はダメ人間と言っているようなものよ」

「あ!」


 私の言おうとした事をアニスが代弁してくれた。ナフタも気がついたのかシェスカとクラリスに慌てて訂正する、その様子をアニスは穏やかな顔で見ている。

 なんだかナフタに対するアニスの言動が私の時より棘が無くて優しい気がする、ナフタがグランマーレ出身だからかな?


「さてと、それでは我々は失礼するよ」


 オリヴィエがアニスに礼を言う、結局グランマーレ邸の正門までアニスが見送ってくれた。


「グランマーレ様、本当にありがとうございました」


 ナフタがアニスに深々と礼をする。それを涼しい顔で受け入れるあたり良い淑女になってくれたと思う。

 いけない、また母親目線になってしまった。私はウェルマであってベネルネスではないんだ。


「ナフタ、貴女の事はこの屋敷の者に伝えておきます。気軽に大叔父様に会いに来てあげて、当分はここに滞在する予定だから」


 ナフタに優しく語りかける、何なんだ? この意外な展開は!?

「…あの人、誰かが相手をしないと本当に面倒臭いから」

 ボソッと本音を漏らす、何もかもが台無しだ。


 グランマーレ邸を後にしてオリヴィエを先頭に貴族街から離れる。


「これからどこに?」

「ああ、その生徒は授業が終わるといわゆる大衆食堂のような場所で働いているらしい」


 あれ、おかしいな? アカデミーは授業料から生活に至る全てが無料で済むはず。

「私みたいに実家に送金しているんですかね?」

 ナフタが自分と重ね合わせている。


「そうではないらしい、実家が飲食店でその修行もかねて働いていると聞いている。アカデミーの教諭らが小馬鹿にしながら教えてくれたよ」


 オリヴィエが再びウンザリした様子で溜息を吐く。確かに頑張っている生徒に対し、教諭が小馬鹿にするような発言をするのはどうかと思う。


「一応情報を共有しておこう、その生徒の名前はレミオという。マクウェル公爵領出身、工業地域で家族経営の食堂をやっている。平民であって家名はない、先祖に貴族の血は入ってないにも関わらず濃い紫色の魔力を発現したらしい」


 典型的なインヘリットのようだ。紫色の魔力という事は何か物体に変化を促す魔力だったかな、鉄を加工したり薬を作ったりする魔法だ。


「それにしてもマクウェル家から情報を提供してもらえるとは思って見なかった」


 オリヴィエが苦笑いをしながら私に教えてくれた。そう言えばマクウェル公爵領出身と言っていたな、研究の事にしか興味なさそうだから領内の人間の事を知っていた事に少し驚いてしまう。


「男3人兄弟の2番目で鉄などの金属を変化させる事が出来るらしい、魔力自体は高くないが能力の汎用性は高い。地頭は良いが勉学は苦手、運動能力も低い。自身の興味のないものには興味が薄く知識欲は低い。自己顕示欲が低く従順な性格…かなり詳細な情報をくれたな」


 オリヴィエが手元にあるメモを読み上げながら苦笑いしている。


「まあ、情報を渡したから、レミオに何か問題を抱えてないか様子を見てくれと言われたよ。ほとんど気にかけてないからよろしく頼むだとさ」


 さすがにタダで情報を渡す訳がないか、オリヴィエの苦笑いの原因はそれだったか。それにしてもマクウェル家とエルドラゴン家が少しでも仲良くなったくれたようで嬉しく思う。


「さてと着いたな」


 オリヴィエが立ち止まる、そこは開店前の大きな大衆食堂の前だった。


読んでいただきありがとうございました。

明日も投稿します。

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