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76.ベネルネス・グランマーレの宝物

「驚いたな、アニスがそんな顔をするなんて」


 私はアニスとの言い合いに夢中になっていて後ろから近づいて来た人に気が付かなかった。


「兄様!? これは、別に」


 アニスが()()と呼んだ?思わず顔を上げてその顔を直視してしまった。


 今の私より背が高く、精悍な顔つきになっている、どことなく冷たい印象を受けるが、間違いなく若い頃のアルバレスそっくりだ。

 アレクシス・グランマーレ…ベネルネスの1番最初の宝物だ。そして私の横にはもう1つの宝物のアニスもいる、2人が私の前に立っているなんて想像も出来なかった。


 いけない。このまま感傷に浸ってしまいそうだ。

 関わらないようにと思っているのだから感情を上手くコントロールしないと。


 スッと一歩下がって頭を下げる、とにかく目立たないようにするしかない。すると後ろにいたシェスカとクラリスも私を倣って頭を下げる、その様子をアレクシスは感心したように見ている。


「この子達は私の客人よ、行くわよ」


 アニスは私とシェスカ、クラリスを促して屋敷の敷地内へと招き入れる。

 あれ? アレクシスとアニスは仲良くないのか? いや、今の私はウェルマ・ライアンなんだ、余計な事は考えてはいけない。


「それから、この子達はオリヴィエ姉様の教え子よ。気まずいならついて来ないで」


 アニスが忠告するようにアレクシスと伝える、そう言えばオリヴィエとの婚約が破談になったと聞いている。いったい何があったのだろうか? いや、私はベネルネスではない、部外者なんだから聞いてはダメだ、ダメなんだ!


「ならオリヴィエに久しぶりに挨拶をしておこうかな」


 アレクシスは意に介することなく同行する、それをアニスは苦々しく見ている。


 ダメだ、何もかもが気になってしょうがない!


「あ、あの、ご兄妹なのですか?」

「ええ、不本意ながらね」


 やっぱり兄妹仲が悪いのか?


「別に仲が悪い訳ではない、私が一方的に妹から嫌われているだけだよ」


 私の顔色を見てアレクシスがわざとらしく言う、するとアニスは更にイライラした顔になる。


「別に嫌ってないわよ!」


 アニス…


「ほら、見ての通り仲良し兄妹だ、妹が相変わらずの意地っ張りのツンデレで安心した」


 アレクシスがしたり顔をする。一方のアニスは悔しそうな表情を隠さず、ここまで歯軋りが聞こえてきそうだ。

 こんな兄妹の仲もあるのだろうな。私と兄のザックも似たような関係に見られているかもしれない。まあ、ザックは時々妹想いの面を見せるから嫌われてないとは思うけど。


「おししょーーさま!!」

「ナフタ!!」


 先日一緒にお茶を飲んだグランマーレ邸の中庭に到着する、すると先に行っていたナフタが1人の男性に抱きつき、その男性もそれに応えるように抱きしめてクルクルとその場で回る。


 この顔を知っている。マクシミリアン・ロスウェルソン、ベネルネスの叔父にあたる人だ。ベネルネスとはあまり接点はなかったと思うけど顔だけは何となく覚えている。

 銀髪で長い髪を後ろで束ねており、今が何歳か知らないけど若々しさは変わらない。


「ナフタ・リュートが来ていたのか」


 アレクシスがナフタを見て笑う、するとナフタは気がついてすぐに頭を下げる。


「…へ? ナフタ・リュート?」


 自分の名前が呼ばれてナフタは驚いた表情をしている。やはり公爵家から認知されている事にびっくりしているのだろう。


「…あの、何で私に家名が?」


 そっちかい!?


「ああ、君が活躍したから家名を授けた。そうしないとうるさい人達がいるからね」


 そう言えばナフタの家名を初めて知った、というか本人も知らなかったみたいだ。


「まあ、何だ、デルライザーと同じ失敗を繰り返したくない奴がいるって事だ」


 マクシミリアンが頭を掻いて苦笑いする。デルライザーの二の舞? ナフタは理解不能を顔で表現する、なかなか器用だ。


「簡単に言うと、デルライザーの出自は家名の無い身分の低い平民だ。それが英雄的な大活躍をしてしまった、その時に師匠である儂の名前を出して感謝したもんだから実家のロスウェルソンが『ちゃんとした人間を弟子にしろと』ってイチャモンをつけてきた。それでナフタを中央に行かせた手前、お前の家が借金かかえた平民では困るって言う話だ」


 マクシミリアンが頭を掻いて説明してくれた。ロスウェルソン侯爵家か、相変わらずの体裁を重視にしているみたいだ。


「伯父様も相変わらずね」


 アニスもうんざりした顔をしている。伯父様って事は…ベネルネスの時の実兄ニコルか、実の兄妹でもほとんど会話が無かったからあんまり記憶に残ってないな。


「それから君の親の借金問題も解決した、もう実家に金を仕送りしなくて良いぞ」


 アレクシスが柔和な笑顔でナフタに語りかける、こんな柔和な顔が出来るとは思わなかった。


「え?」


 一方のナフタは戸惑いが隠せない、実家が裕福ではないと聞いていたけど借金があったのか。

「よく頑張ったな。ちゃんと過払い分の返還も終わったから安心すると良い、これからは自分の事に専念しなさい」

 ナフタはアレクシスの顔を見て固まっている。すると隣にいるマクシミリアンがナフタに耳打ちする、すると慌ててナフタは頭を下げる。


「まさか領主様のグランマーレ様とは知らずに失礼いたしました!」


 ナフタはアレクシスの正体を知らなかったみたいだ。まあ、これが普通の反応なんだよね。私みたいに小さな頃に領主であるウェットランド伯爵と知り合うなんて普通なら有り得ないんだよね。


「ふふふ、気にするな。オリヴィエ、この子に目をかけてくれて感謝するよ」

「…いいえ、当然の事なので気になさらないで下さい」


 オリヴィエがやけに他人行儀に答える、微妙な空気に包まれる、元々婚約していた2人がこうして会うのはやはり気まずいようだ。


「ちょっと、こっちに来なさい」


 小さな声で私を呼ぶ声がする、少し離れた場所でアニスが私を手招きしている。


「あ、あの」

「ああ、あれは気にしないで、兄様の自業自得だから」


 アニスはあの微妙な空気に対して何も思わないようだ。では私を呼んだ理由は何なんだろう?


読んでいただきありがとうございました。

明日も投稿します。

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