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75.また来てしまった

「ねえ! ウェルマ聞いて。今日、故郷からお師匠様がこっちに来ているはずなの」


 ナフタがご機嫌な様子で私の腕を掴んでくる。


「ナフタのお師匠様?」


 誰の事か分からずに固まる、誰だっけ?


「あーー、確か剣老って呼ばれている有名な人だよね」


 シェスカが助け舟を出してくれる。そうだ、私がベネルネス時代の叔父だった人だ。


「手紙には今日到着するって書いてあったから、会いに行ってもいいのかな? ねえ、どう思う」


 このアピールは私も一緒に行ってほしいという合図だな。


「いいんじゃない?行ってきなよ(私は行かないけど)」


 最近の私はゲルトバルトやデルライザーなどの強い人と戦ってボコボコに負けてトラウマとなっている。私の直感が警笛を鳴らしている、ここで剣老と呼ばれている強い人に会いに行くのは間違いなく嫌な予感しかしない。


「でもさ、でもさ、でもさ、滞在しているのがグランマーレ公爵様のお屋敷なんだよね、私みたいな平民が行っちゃダメだよね?どうしたら良いんだろ」


 うん? グランマーレ?

 最近は何かと縁があるな…でも私はもうグランマーレ家に関わるつもりはない。


「それならオリヴィエ教官にお願いしたらどうかな? 確か仲が良いはずだから」

「そうか! オリヴィエ教官にお願いすれば良いんだ! よし行こう!」


「は!?」


 ナフタに腕を掴まれて強行連行されそうになる、私は咄嗟に横にいるクラリスの腕を掴む。


「な、何で私!?」

「ちょっ! 私まで掴むな!」


 クラリスは近くにいたシェスカの腕を掴む、全員を巻き込む形になってしまった。先頭のナフタは私達の想いなど関係なく力強く私達を引っ張る、小さな身体なのに物凄いパワーだ。


「あは、何あれ?」

「クスッ、あの子達、本当に仲良しね」


 周囲からは私達4人が仲良く手を握って歩いているように見えるだろう、しかし実際は小柄なナフタの馬鹿力によって引っ張られているだけだ。


「失礼します! オリヴィエ教官はいらっしゃいますか?」


 結局私達は教官室まで連れてかれてしまった、元気よくナフタが声を張り上げてオリヴィエを呼ぶ。


「オリヴィエ教官ならすぐに戻ってくると思うが…あ、来たな」


 座学のラス教官が応対してくれる、指差す方向からオリヴィエがやって来る。

「ん?どうした4人揃って」

 するとナフタが私の脇腹を突く。もしかしてコイツは私に言わせるつもりか!?


「ちょ、ナフタが自分で言いなよ」

「な、何て言えばいいの!?」


 いくらナフタでもそんな甘えは許さないぞ! 私は絶対に言わない!!


「何イチャイチャしてんの」

「ナフタが田舎からやって来たお師匠様に会いたいみたいです」


 私とナフタの小競り合いを無視してシェスカとクラリスの年上組が勝手に話を進める、年上と言っても一つしか変わらないけど。


「お師匠様? ああ、剣老殿の事か、会いに行けば良いではないか? どこにいるんだ?」

「今日グランマーレ公爵様邸に到着しているはずなんです、会いに行ったら不味いですよね?」


 普通に考えて平民が勝手に公爵邸に行ってはいけないだろう。


「…そうだな、分かった、私も同行しよう」


 オリヴィエはすぐに察した。

「ああ、ついでにアカデミーの行方不明の生徒の調査もしようと思う、予定を空けておいてくれるか」

 そう言えば色々ありすぎてアカデミーの件を完璧に忘れていた。


 あれ? と言う事は…これは私も行く流れ?


「4人とも授業後に集合してくれ。行方不明生徒と同じ学年で平民生徒が他にいるらしい。どうも学校が終わってから城下の飲食店で働いているとの話だ。その生徒にも色々と話を聞いてみようと思う」


 アカデミー生徒で学校が終わってから働いているの? アカデミーなら全部無料で何でも出来るんじゃなかったっけ?


「へえ、凄いな、働きながら学校に行ってる人もいるんだ」

 すぐに3人とも反応する、本来なら私もそうするつもりだっただけに素直に尊敬してしまう。

 そう言えば、前の調査で話した貴族令嬢達が授業後すぐにどこかに行ってしまうと小馬鹿にして笑っていたな。何か関係があるのかな?


「それでは授業後に集合だ」

「はい」


 張り切るオリヴィエとナフタ達、しかし私は行きたくない気分だったりする。



「デカい」

「でも派手派手じゃないね」

「すっごい歴史を感じる」


 授業後に私達は集まり、揃ってグランマーレ邸へ向かった。そして正門の前に立つとナフタ達は平民丸出しな反応を見せる、普通ならここで門前払いになるだろうな。


「わ、私達はここで待ちましょうか?」


 あまり関わりたくないと思っている私は正門で待機する事を提案する。


「えーー、何でよ!?」

「せっかくだから行こうよ」


 シェスカとクラリスは私の想いを全く汲んでくれない。


「でも迷惑では…」

「いや、ウェルマなら大丈夫だろ」


 オリヴィエよ、後々説明が必要な言い方をしないでほしい。


「どういう意味?」


 ナフタがすぐに食いついた!? 私の腕を掴んで説明を催促する。


「ちょっと、人の家の前で何をしている…あら?」


 私達が揉めていると、不意に後ろから声をかけられる。グランマーレ公爵令嬢アニス・グランマーレが訝しむ表情で見ていたが私と目が合うと表情が一気に変わる。


「おや、ウェルマさんではないですか」


 セバスまでいる!? というか私の個人名を呼ばないで!


「やあ、アニス。」

「オリヴィエ姉様、それにその格好…」


 オリヴィエが挨拶してようやくアニスは理解したようだ。

「マクシミリアン様なら今日お屋敷に到着しています。案内します、どうぞ中にお入り下さい」

 セバスが私達がここに来た理由を聞いて和やかに案内してくれる。

「申し訳ありません、無理を言ってしまって」

 ナフタが畏まって頭を下げる。

「良いのですよ、グランマーレ出身者で、ウェルマさんのご学友なら大歓迎です」


 セバス、変に誤解されるから止めてください。


「ねえ、何かあったの?ここに来たくなかったの?」

 シェスカが小声で尋ねてくる、本当に鋭い。

「もしかしてこの前の泣いていた事と関係あるの?」

 ぐっ、クラリスも思ったより勘が鋭い。


「えええと、黙秘で」


「「ふーーーん」」


 2人からの視線が痛い。


「私がその子を酷く傷つけたからじゃないかしら、別に私を庇わなくて良いのに」


 後ろで話を聞いていたアニスが割り込んでくる。


「別に庇っているわけではありません! それに私は傷ついてませんから!」

「あら? ビービー泣いてたのに?」


 このしたり顔が鼻につく、いったい誰に似たんだ!? 親の顔が見てみたい。


「もう泣きませんから」

「どうかしら?」


 ぐぬぬぬぬぬぬぬ。


読んでいただきありがとうございます。

明日も投稿します。

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