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71.お互いを知るという事

「弁護という訳ではない、どうか彼女についても知って欲しい。私にとって昔から知っている妹のような存在なんだ」


 足の筋を痛めていて上手く歩けないので、オリヴィエに助けてもらいながら馬車に乗り込む。


「彼女は幼い頃に大好きだったお母様を亡くした。それからだと思う、誰にも涙を見せず、誰よりも気高く、誰よりも強くあろうとずっと足掻いてきた、私はその姿をずっと見てきた」


 私が死んだ後の事だ、私がいなくなってアニスが苦しんでいる姿が目に浮かぶ。


「強くあろうと生きて来たからこそ、人から誤解される事もあり、他者との衝突も沢山あった。それでも彼女はブレなかった、彼女はずっと亡くなったお母様の遺言を頑なに守り続けてきた」


 強くあって欲しい、気高く気品溢れる人となって欲しい。

 私があの時2人に言った言葉だ。

 胸が苦しくなる、髪の毛を掻きむしりたくなるような衝動に駆られる。


 それでも悟られないように平常心を保ってオリヴィエの言葉に耳を傾ける。


「昨日の彼女の言葉は酷いものだった、だから許さなくても良いと思う。だけど嫌うだけで終わらずに彼女の事もちゃんと知っておいて欲しいと思っている。さあ、着いたぞ」


 馬車が止まり、オリヴィエに再び助けてもらいながら馬車から降りる、着いた先はとても見覚えのある場所だった。


「グランマーレ公爵邸だ、来た事があるのだろう?」


 こんな形でこの場所に戻って来る事になるとは思わなかった。

「お待ちしておりました」

 執事のセバスがわざわざ出迎えに来てくれた。

「き、昨日は失礼いたしました!」

 あんな醜態を晒してしまった、第一声はとにかく謝る事からしないと。

「どうか謝らないで下さい、非があるのはこちらです」


 ん? 公爵家がそんな簡単に非を認めてはダメじゃないのか?


「ここでは何ですので、どうぞ中へ」

 セバスに案内されて屋敷の中へ入る。


 懐かしい玄関ホールだ、伝統と格式を重んじるグランマーレ公爵家らしい厳かな雰囲気がとても好きだった。

 支えてもらいながら歩いているので足がとても遅い、セバスはそんな私に合わせるようにゆっくりと進んでくれる。本当に気遣いが出来る人だと思う。


「こちらへどうぞ」


 この部屋は知っている、この屋敷の貴賓室だ。この部屋に招かれたという事はかなりの厚遇だ。

 部屋の中には絵画などの美術品が整理されて飾られており、掃除も隅々まで行き届いている。それでも私が生きていた時の姿そのままだ。


「よく来てくれたね」


 不意に声をかけられドキッとしてしまう。この館の主であり、グランマーレ公爵家の当主である元夫アルバレスが直々に私を出迎えてくれたのだ。

 最近忘れ気味になっていた貴族マナーを必死に思い出して挨拶をする。


「昨日は見苦しい醜態を晒してしまい不快な思いをさせてしまいました、本当に申し訳ありませんでした」


 深々と頭を下げて真っ先に謝罪する。


「…ふむ、君に不快な思いをさせたのは我々だ、こちらこそ申し訳なかった」


 は? 何を言っているんだ?


 チラリとアルバレスを見ると私に頭を下げている!?


「おおおおおお待ち下さい! 私などにそのような事をなさらないで下さい」


 動揺して言葉使いが変になる。私が知っているアルバレスはこんな事は絶対にしないはずだ。


「なら君も謝るのをお止めなさい」


 うっ、それはズルい気がする。アルバレスの柔和な笑顔が私を更に困惑させる。


「昨日、オリヴィエ嬢とマクウェル卿が揃って歩いているところを見て驚いてしまってね。普段はしないのについ声をかけてしまったのがいけなかった」


 そう言えばエルドラゴン家とマクウェル家の仲を取り持とうとしたと言っていたな。

 ここで何となく察する事ができた、息子のアレクシスとオリヴィエ、娘のアニスとマクウェル卿を結ばせて親戚関係にしようとしたのか。確かにそれなら表立って啀み合う事は無くなりそうだ、結果は上手くいかなかったみたいだけど。


「その2人の間に君がいたからね、興味が湧いて色々と聞いてしまったよ。クセの強い2人からあんなに好かれてるなんて珍しいからね」


 アルバレスがチラリと見るとオリヴィエは慌てて目をそらしてしまった。


「私の娘が君に言った事は本当に済まなかった、15歳の少女に向けるような言葉ではない。良い大人が子供に対して嫉妬に狂うなど恥ずかしくて仕方がない」


 アルバレスが頭を下げてくる、アニスが私に嫉妬? そんな事があるの?


「本人も反省している、どうか娘から謝罪を受けて欲しい」

「そ、そんな、私は謝罪など」


 すると扉が開いて憔悴しきったアニスが入ったきた、どうやらあの後に何かあったらしい。ゆっくりと私に近づいてきて頭を下げようとする。


「貴女の事を何も知らないクセに酷い事を言ってしまいました、ごめんなさい」


 こんなのはダメだ! あってはならない!!


「いけません! 頭を下げないで下さい!!」


 つい大声をあげてしまった、その場にいた全員が驚く。


「お互いを何も知らない同士のすれ違いから起きた諍いです、私などに謝罪をするような事ではありませんし、グランマーレ様が周囲から糾弾されるような大事ではありません!」


 よってたかってみんながアニスを糾弾するなんて絶対にあってはならない。


「…あの、どうか、2人きりでお話しする機会をいただけないでしようか?」


 アルバレスを真っ直ぐに見て頭を下げる、すると一点を見つめて深く考えるような仕草をする。

 この顔は知っている、現状から一手二手先を考えている時の顔だ。私と2人きりにさせてアニスが何か得られると考えてくれているかもしれない。


「良いだろう。オリヴィエ嬢、我々はこの部屋から出よう」


 本当に判断が早い、オリヴィエを促してアルバレスは部屋から出て言ってくれた。


 こうして広い貴賓室に私はアニスと2人だけになった。

読んでいただきありがとうございます。

明日も投稿します。

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