70.優しくされると辛い時もある
「ウェルマ、大丈夫?」
いつの間にか朝になっていたようで、シェスカが私に声をかけてくれる。
「…うん」
酷い倦怠感だったけど、起きないといけない時間だ。
「今日は休んだ方がいいわ、言ってくる」
「ごめん、大丈夫だから」
シェスカを止めて身体を起こす、全身の筋肉が悲鳴をあげるように痛い。痛みで頭が冴えてきた、ここで昨日マクウェル卿からもらった貼り薬の存在を思い出す、おそらくゲルトバルトと戦ったせいで全身が筋肉痛になってしまったようだ。
「シェスカ、私のカバンに貼り薬があるから出してくれない?」
「貼り薬? これ?」
大量の貼り薬を私に見せる、こんなに沢山の薬をくれたんだ。
シェスカから貼り薬を受け取る、確か首から背中と肩、ふくらはぎに貼るように言われたな。
「痛たた」
全身が痛くて背中が上手く貼れない。
「貸して、貼ってあげるわ。どこに貼るの?」
「ありがとう、手の届かない背中だけお願い」
上着を脱ぐと首と肩口から背中にかけて貼ってもらう。
「…何があったか聞かない方がいい?」
「ごめん」
人に話せるような内容ではない。私が前世の記憶を持っていて、目をそらしていた現実に打ちのめされたなんて誰も信じられないだろう。
「そうか、もし話せるようになったら話してね」
シェスカはこれで話を打ち切ってくれた、本当にありがたく思う。
「ねえ、ウェルマはどう?」
「大丈夫?」
外から声がする、この声はナフタとクラリスだ。
「ありがとう、大丈夫だよ」
声をかけると2人がドアを開けて入ってくる。
「うわ、何で裸なの!?」
私の格好を見てナフタが驚く、一応言っておくがちゃんと肌着は着ているから断じて真っ裸ではないぞ。
「さてと、そろそろ朝の訓練に行かないと、痛っ!」
ベッドから降りて立とうとするが全身に激痛が走る。昨日あのまま寝たツケが回ってきたのか歩くのもしんどいくらいに辛い。
「今日は休みだね、寮母さんに言ってくる」
クラリスが私の意見を聞かずに勝手に決めて部屋から出て行ってしまった。
「ほら寝てろ」
シェスカが私を強引にベッドに戻す。
「じゃあ教官にも言っておくね。私とクラリスは行くから、シェスカお願いね」
「はいよ」
ナフタまで勝手に決めて出て行ってしまった。
「私は大丈夫」
「大丈夫じゃないだろ? 立って歩けないんだぞ?」
シェスカに窘めるように小言を言われる、
「…優しくされると辛い」
ボソッと呟いてしまった。どうしても昨日のアニスの言葉が頭から離れない、みんなが助けてくれてみんなが優しくしてくれる、私は周りに甘やかされ過ぎな気がする。
「は?何を言ってんの?」
今度はゲンコツで額をグリグリされる。
「私は試験の時にウェルマに助けられた、だから今度は私がウェルマを助けたいと思っているだけよ、タダで優しくしていると思うな」
呆れたように言われてしまった、だけど私はシェスカに大した事をしていない気がする。
「ウェルマには試験の時もそうだし、森で怪物に襲われた時もそう、何度も何度も助けられたんだから少しは返させてよ。それに他人に優しくしといて自分には優しくするなって言うのは無理があるだろ」
そんな事を笑顔で言われると何も反論できない。
「お姉ちゃんみたいな事を言わないでよ」
「あ? これでも私の方が年上なんだが?」
シェスカが苦笑いをして私の頬をつねってくる。
こうしていると姉のサーニャとエルダを思い出す。私が辛い時は2人の姉がいて母のミシェルがいて、ついでに父のサイアムと兄のザックと弟のウォルフが側にいてくれた。
私が無色だと知って落ち込んでいた時もサーニャが側にいて抱きしめてくれた、落ち込んでも無理に笑っていた私をミシェルは泣きながら抱きしめてくれた。
どれだけ私は恵まれた環境にいたのかと思い知る。みんなから自分で道を切り開いたから偉いと言われて調子に乗っていた自分が恥ずかしい。
今、シェスカに本当の事を言ったら信じてくれるかな?
実は私は前世の記憶を持っていて、その前世の時の娘と会ったと言ったら果たしてそれを信じてくれるだろうか?
全てを吐き出してしまえば楽になるかもしれない、だけど秘密を全て晒してしまえば私はベネルネスになってしまう。私の家族やお世話になった人達の中からウェルマ・ライアンがいなくなってしまう、私が今までウェルマとして生きた大切な時間の全てが失われてしまう気がする。
コンコン
「オリヴィエだ」
ここで部屋をノックする音がしてドア越しに声がする、どうやらオリヴィエが見舞いに来てくれたようだ。
「オリヴィエ教官、すいません」
部屋に入ってきてすぐに謝る。
「大丈夫だ、気にするな。シェスカは授業に行け、後は私に任せてくれ」
「はい、分かりました」
シェスカが立ち上がって部屋を出ようとする。
「シェスカ、ありがとう」
「ふふふ、どういたしましてだ」
お礼を言うと素敵な笑顔を返された。何も聞かずに私の相手をしてくれた、本当に感謝しかない。
「昨日は大変だったな」
「…申し訳ありません、取り乱してしまって」
再度謝ると私の額を優しく撫でてくれる。
「気にするな、私の方こそ配慮が出来てなかった。それにマクウェル卿から言われたが、昨日は気が張っていたから平気かもしれないが後で必ず痛みがぶり返してくるだろうと言われた、しっかりと貼り薬をやるようにしつこく言われたよ」
私の足にベタベタと貼ってある貼り薬を見て笑っている。それにしてもオリヴィエが普通にマクウェル卿の名前を口にした、みんなが仲が悪いと言っていたから少し意外だ。
「それにしても強かったな、私も実物を初めて見たがあれほどとは思わなかった。ここまで後遺症が出るとはな」
ゲルトバルトとの戦いを思い出しているのだろう、あの別次元の強さを目の当たりにすると苦笑いするしかないようだ。
「…あの、何も聞かないのですか?」
あの時、私が取り乱してしまった理由をオリヴィエも聞いてこない。
「ああ、聞かないよ」
寝ている私の額を再び優しく撫でて穏やかな笑みを見せる。
「言いたくなければ聞かないよ。だけどどうしても辛くて吐き出したくなったらいつでも私は聞くよ」
みんなが優しすぎる。
「ただ、私から一つだけお願いがあるんだ」
読んでいただきありがとうございます。
明日も投稿します。




