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7.初めての街へ

 荷物に圧迫されて狭苦しい、さらに揺れるから居心地は最悪だ。苦しいので籠から顔だけ出して外の空気を吸って気を紛らわせる。


 良い風が吹き抜ける。


 私達が住んでいる集落は山の麓にあり、人口は200人程だろうか。そしてロスローリア教の教会はこの集落に無いので洗礼を受けるには大きな街に出るしかないらしい。


「よう、騎士様はおでかけかい?」

「ああ、次女のエルダの洗礼だ。またこの時が来たんだとしみじみ思うよ」


 集落の門で呼び止められて世間話をしている。

「もうそんな時期か。お? もう1人チビちゃんがいるじゃねえか。コイツも母ちゃんそっくりの赤髪だなぁ」

 籠から顔だけ出している私を見て門番の男性は笑顔を向ける。


「三女のウェルマだ、初めて村の外に出るんだ」

「そうかそうか、よろしくなウェルマちゃん、楽しんで来なよ」


 笑顔で手を振られたので笑顔で手を振り返す。サイアムの評判を初めて知った、なかなか集落の人から慕われているみたいだ。


 そのままダンダムに乗った私達は山道を下っていく。こうして見ると私の住んでいる集落は山の麓にあり、本当に自然豊かな場所なのだとよく分かる。

 そのまま進むと大きな街道に出る、そこは綺麗に整備されており行き交う人々も多い。治安も良さそうなのでこの地を治める領主の優秀さが垣間見える。

 20分ほどダンダムが歩いただろうか? 遠くに城壁に囲まれた大きな街が見える、思ったより早く着いたので少々拍子抜けしてしまった。

「ここがウェットランドの街だ、この地を治めるゼフ・ウェットランド伯爵様がお住まいの領都だぞ」

 ゼフ・ウェットランド伯爵? はて? どこかで聞いたことがあるような無いような?


「サイアム・ライアン下級騎士だ」

「どうぞ」


 門兵とも顔馴染みのようで、ダンダムから降りる事なく街の中へと進む。

「先にハンターギルドに行って換金してこよう。これじゃウェルマが可哀想だ」

 ありがたい事に私のスペースを奪っている物達を何とかしてくれるみたいだ。


「高く売れるかな?」

「さあ、どうだろうなぁ」


 私の知らない会話を2人でしている、どうやらエルダはすでに何度も街に来ているみたいだ。そのまま城門付近にある大きな建物へ向かう。

 入り口にある馬屋にダンダムを預けて建物の中に入る。

「よお、今日は旦那が来たのか?」

 中に入るとサイアムが誰かに話しかけられている。

「おお、次女の洗礼だ。ついでに売りに来た、査定してくれ」

 私の入った籠をカウンターの上に乗せる。


「…おい、ウチは人間の子供は買い取ってないんだが?」

「おおおっと! この子は三女のウェルマだ、売りもんじゃねえ」


 少々キツい冗談だ。サイアムに抱き上げられ、ようやく狭い空間から解放された。

 こうして自由になった私はハンターギルドの中を見渡す、巨大な熊の剥製が真っ先に目に入る。他にも鹿の角やら虎みたいな獣の皮、トカゲみたいな怪物の剥製もある。

「ウェルマ、見たい?」

 私が興味津々に見渡しているからエルダが声をかけてくれる。

「うん!」

 エルダに連れられてハンターギルドの中を散策する。人の出入りは少なく、建物の中には私達と受付のおじさんしかいない。

「これ、父ちゃんと母ちゃんが狩った大熊だぞ」

 自慢げにエルダが教えてくれる。建物の真ん中に鎮座している大きな熊の剥製、これをサイアムとミシェルが捕まえたらしい。

「お父さん、お母さん凄い…」

 建物の天井に届くくらいの巨大な熊だ、ミシェルが凄腕とはいえこんな大きな怪物を狩るなんて信じられない。

「コイツを狩った時は家計が潤ったなぁ、コイツ一体で半年は食っていけたくらいだ」

 サイアムも会話に参加する。私には家計が潤っていたという記憶がないので、きっと生まれる前の話なのかな?


「おい、計算できたぞ」


 サイアムが呼ばれてカウンターに行く、大きな袋にジャラジャラした金属音がする。

「おお、結構な額になったな」

 サイアムはホクホク顔だ。

「今は時期が良い。北伐が終わったから今度は統治だ、寒さ対策用に毛皮の値が上がっている。どんどん持ってきてくれよ」

 やはり北の部族との戦争が終わったみたいだ、サイアムが家にいる事が多い理由がやっぱりそれだった。


「次の合同演習まではゆっくり出来そうだからな、しばらくは俺も狩りに出るつもりだ」

「そりゃいい、期待しているぜ」


 大金を手にして意気揚々と外に出て、足取りも軽く馬屋へ向かう。

「少々ウチの馬を頼む。そうだな、3時くらいには戻ってくる」

 ダンダムの馬房に籠を置き、中にいる馬屋の男性にお金を渡す、どうやらダンダムとはしばしの別れのようだ。


「まずは昼飯だな。洗礼は昼からだ、それまでゆっくりしよう」

「やったぁ!」


 ニコニコするサイアムとエルダ、何の事か分からない私はそれについて行くだけだ。

 大通りに戻り、街の中心地へと歩いて向かう。遠くに巨大な尖った屋根の建物が見える、あれは私にも見覚えがある。


「あそこに行くの? あの大きな建物は前から気になってたんだよね」


 何も知らないエルダが無邪気に尋ねる。

「ああ、あそこがロスローリア教の教会だ。エルダはあそこに行って洗礼を受けるんだよ」

 サイアムが嬉しそうに答える、その表情にはエルダに対しての多少の期待が込めらているようだった。


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