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68.記憶という呪縛

「暗部をボコボコに?」


 さすがのオリヴィエの顔が引き攣っている。

「暗部って物凄く強いんじゃないんですか?」

 いくらゲルトバルトが強くても暗殺を得意とする人達を相手にするのは大変なはずでは?


「んーーー、お前より簡単に遠くに吹っ飛んだぞ?」


 ゲルトバルトが私を見て笑い出す、本当に予想の斜め上をいく人だ。


「…取り敢えず貴様は仮釈放だからな、再び問題を起こしたらマクウェルでもエルドラゴンでも擁護できないからな?」


 マクウェル卿も今日はさすがに疲れた様子だ。


「第1騎士団からはこちらのジェッド・ブラッドリー卿をゲルトバルト殿の世話役に出す」

「え!?」


 オリヴィエとジェッド教官が見つめ合う。


「…兄からの命令ですよ?」

「…マ、マジ?」


 ジェッド教官が頭を抱えて途方に暮れる。


「俺は一旦戻って用事を済ましてくるからゲルトバルトが問題を起こさないように頼むぞ」

「は!?」


 デルライザーの言葉にジェッド教官は真っ青になる。


「ソイツが問題を起こしたらブラッドリー伯爵家の責任問題で良いのだな」

「え?」


 マクウェル卿の言葉にジェッド教官は言葉を失う。


「よし! 酒飲みに行こうぜ! 牢屋に入ってから一滴も飲んでないんだぜ? ようやく地獄の禁酒から解放だ!!」


 ゲルトバルトがジェッド教官と肩を組んで無邪気に笑い、そのまま連れ出して行った。デルライザーも一礼してその後を追って行く、私達はただそれを見送る事しか出来なかった。


「私達も帰るか」

「はい」


 オリヴィエが疲れた表情をしている、私も相当疲れてしまった。


「それにしても本当に丈夫な剣です」

 帰り際に私が借りていた剣をオリヴィエに返す。

「ああ、ゲルトバルト殿の一撃を受けて平気とは、こんな頼りになる剣は初めてだ」


 ハードリット工房の武器は本当に素晴らしいと思う、ゲルトバルトの強烈な攻撃を受けても折れるどころか曲がってもいない。


「ふん、良い剣なのは本当だが魔法石の結合が歪だ、金属部が多すぎだろ?」

 なぜかいるマクウェル卿が横やりをいれる。それっぽい事を言っているけど、ひと目見ただけで分かるのか?

「ふん、戦闘中に折れるより全然良い」

 オリヴィエが睨みつける、せっかく仲良くなったかと思ったけどすぐに仲悪くなるのは何でだろう?


「おや?珍しい組み合わせだな」


 2人を見て1人の紳士が声をかけてくる。私はその顔に心臓が大きく鼓動する。


 オリヴィエとマクウェル卿の2人とも畏まって礼をする。

「ははは、畏まらないでくれ、珍しい組み合せだったらつい声をかけてしまったよ」

 ドキドキが止まらない。大好きだった落ち着いた声に過去の記憶がどんどん甦ってくる。


「お久しぶりですグランマーレ卿」


 オリヴィエが礼をする、それに倣って私も慌てて頭を下げる。


 もう会える事はないと思っていた私の元夫アルバレス・グランマーレ公が私の前に立っている、その傍らには執事のセバスまでいる。

 セバスにはグランマーレ邸の前で泣いていたのを見られたから私の事を覚えているのかもしれない、私の姿を見つけると驚いた表情をしている。


 そしてアルバレスを見る、若い頃のような鋭さはなく、とても穏やかで優しい笑みを見せている。面影はそのままに圧倒的に今の方が落ち着いていてカッコ良い。


 私はあのまま生きる事が出来たらこの人の側にずっといられた…共に年をとっていく事を一緒に喜べたのに、なんで私は遠くから見ることしか出来ないのだろうか? やりきれない思いが胸に重くのしかかる。


 ウェルマ・ライアンとして生きていこうと決めたのに、どうあっても前世のベネルネスだった頃の事を鮮明に思い出してしまう。


 過去が呪縛のように頭から離れないのはなぜだろう? そこまで私は過去に執着しているのだろうか? 分からないけど今の自分を思い知る度に心が辛くなっていく。

 今にも泣きたくなるような気持ちを抑えようとするが嫌でも昔を思い出してしまう。

「貴方が王城にいるのは珍しいですね」

 いつも不遜な態度のマクウェル卿もアルバレスの前では畏まっている。


「娘のアニスが両殿下の新たな教育係に拝命された、初日だから私も顔だけ出してきた」


 娘のアニスが殿下の教育係に!? 凄い! 大抜擢じゃないか!!


「両殿下という事はお二人の教育係に?」

 オリヴィエの質問にアルバレスは頷く。両殿下? お二人? そう言えば大昔にバーンヘイズ公爵邸で見た新聞に王家に双子の男女の王子が生まれたという新聞の記事を思い出した。


「お二方ともに今から将来が楽しみな才能だ、アニスが教えられる事などたかが知れていると思うけどね」


 謙遜気味にアルバレスが笑う。

「ふん、頭だけは良いから問題ないだろう」

 マクウェル卿が鼻を鳴らす、というかアニスの事を知っているみたいだけど?

「ははは、アニスとの婚約の件、今一度再考してくれたのですかな?」


 は!? アニスとの婚約!? マクウェル卿と?


「何を言う、そこにいるエルドラゴン家のじゃじゃ馬とご子息のアレクシスの婚約が頓挫した時点でグランマーレ卿の目論みは破綻したではありませんかな?」


 意味がわからない、アレクシスとオリヴィエの婚約が頓挫したらマクウェル卿との婚約がダメになった?というか私はこの話を聞かない方が良いのではないのか?

「あの件は私の見通しが甘かった、何度でも謝罪をしよう」

 アルバレスが謝ろうとすると2人揃って止める。


「いやいやいや、待って下さい。あれは私個人の問題ですのでアルバレス様が気に病まないで下さい」


 オリヴィエは焦って声がうわずっている。


「その通りだ、だいたいアニス嬢と私は性格が壊滅的に合わなさすぎる、一緒になってもお互い不幸になるだけですよ」


 マクウェル卿も珍しく取り乱している、この人のこんな姿を見れるとは思わなかった。

 というか私の存在はあまりに場違いすぎる…私はここにいてはいけない気がする。


「あ、あのオリヴィエ教官、私は先に帰ってます」


 小声でオリヴィエに伝える。


「君は?」


 その時、アルバレスと目が合ってしまった。真っ直ぐに私の目を見て声をかけられてしまった。


読んでいただきありがとうございました。

次話の投稿は1日おいて明後日にさせてもらいます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ついにこの日が来てしまいましたか!この後の展開が非常に気になります。
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