65.マクウェル卿の考察
「何だと?」
世紀の大発見だと胸を張っていたマクウェル卿が今にもキレそうだ。
「いや、その、別にダメとは言わないが、何と言えば良いか分からないが」
ゲルトバルトが頭を掻いて悩んでいる。
「あの、無色は無色なので魔法は使えないのは変わらないですし、魔力があると言われてもそれで私達の立場が変わる事はないと思います」
ゲルトバルトでは上手く説明出来なさそうだ、思わず私も口を出してしまった。
「そう! それだ!! 俺も無色と馬鹿にする奴らをぶちのめす為に今まで鍛えてきた、見返すためには地位が必要だと周りに言われて士官学校なんていうものを嫌々ながら受けたんだ。それを今さら実は俺が凄かった何て言われてもなぁ」
それに洗礼の儀式のような流れ作業をしながら目に見えない才能を見つけるのは難しい、ましてこのような光の集光装置を用意するのは不可能だ。
「そうか…これで報われない子供達が救われると思ったが」
オリヴィエが落胆した様子で呟く、本当に聖母のような女性だ。
「ふむ、言わんとする事は分かる、だが今さらという言い方はやめろ。生きている限り必ず次がある、時間を止める事は出来ないし過去に戻る事は不可能だ。生きている今が良くなると思えば良い、お前達の価値が目に見える形で実証された事に意味は必ずある」
マクウェル卿の言葉に息を飲む。価値が目に見えるという考えは無かった、この人は口は悪いけど良い人なのか?
「それに俺の研究を無駄とは絶対に言わせない」
ボソッと本音を漏らした!? 一瞬だけ良い人と思ったのに。
「それでは次だ、エルドラゴンの人間がいるから丁度良いだろう」
仕切り直してマクウェル卿が次の話に移る。すると助手さんが絵を持ってくる。
「実際に対峙したお前達の情報を元に書かせたが、この絵面での差異はあるか?」
見た目も色調も本物にそっくりな絵だ。
「間違いなくこの化け物です」
ジェッド教官が真面目に返事する、私とオリヴィエも同意して頷く。
「ではお前達はどうだ?」
今度はデルライザーとゲルトバルトに尋ねる。
「うーーーん、こんなにゴツくなかったが似ている気がする」
ゲルトバルトが必死に思い出そうとする。
「白い骨のような外殻など原形となるフォルムは酷似しています。ただ見た目や大きさ等はかなりの差異がありますね」
デルライザーの言葉にマクウェル卿は頷く。
「ウェルマ、コイツは死体を吸収していたんだったな?」
「はい、大量の死体を吸収すると与えた傷が回復し、体が大きくなった気がします」
私の返答を聞いてマクウェル卿は大きく息を吐く。
「もし、これが北で生まれた化け物なら数十年の歳月をかけて強くなったという事になる。どのような行動原理かは分からないが、エルドラゴン家の報告にあった死体の臭いを嗅ぎつけてやってくるという話に信憑性はあるのか? 山の民の伝承ではそのような話であったな?」
私の母ミシェルより教わったのは、戒めのような意味合いの御伽噺だ。乱獲や死体を放置して汚さないための教えを幼い頃より教わった。
ただ御伽噺だけに本当に実在するとは思っていなかった。
「だがこの話では、竜骸という化け物はただ単に死体を貪るだけの存在となる、しかし実際は人を襲ったのだろう?」
これには頷くしかない、私達は実際に交戦している。
「俺達と戦った奴は自分が殺した奴をすぐにその場で食っていたぞ? ただ殺さないと食えないみたいだった」
ゲルトバルトが頭を掻きながらデルライザーの腕を指差す、いったい何があったんだ?
「俺の腕はそいつに攻撃されて千切られた、その時にほぼ死に体だった俺を簡単に食う事が出来たはずだ。だが俺は食われる事なくこうして生きている。つまり死んだ者じゃないと食えないという仮説が立てれる」
デルライザーが失った腕を撫でながら仮説を立てる。
「一つ聞きたいのだが、竜骸には魔法が効かないという可能性があるが、どうなんだ?」
オリヴィエがマクウェル卿に尋ねる。確かに森で戦った時にシェスカの強力な雷の魔法が全然効いていなかった。
「何だと? それは初耳だぞ」
マクウェル卿が驚いている。
「北伐の時、奴は俺達のいた部隊の魔法攻撃を全く意に介していなかった。北伐の軍は魔法騎士中心の構成だったからな、そのせいで甚大な被害が出た。あの時ゲルトバルトが同じ隊にいなかったら全滅だったかもしれない」
「俺達もそうだ、ウェルマがいなかったら全滅だったろうな」
デルライザーとジェッド教官の言葉にシーンとなる。
「ふむ、なかなか興味深いな、早く調べてみたいものだなぁ、それで無能騎士団はいつそいつを捕縛してくれるのかな?」
マクウェル卿がオリヴィエの顔を覗き見る、悔しそうな顔で堪えている。
「…ああ! それで俺が呼ばれたのか!!」
突然ゲルトバルトが大声を上げる。
「お、お前…今気がついたのか?」
デルライザーが呆れている。
「おい、この男は士官学校を出たのだよな? あそこは馬鹿じゃ入れないよな?」
「ええと、少なくとも筆記試験は難しいと思います」
マクウェル卿に聞かれて私は答えあぐねる、少なくとも貴族教育の半分くらいの知識は必要だと思う。
「…昔は筆記試験での振い落としがなかったんだ。おそらくゲルトバルト殿は筆記試験がダメでも強さの突出のみで合格にした可能性がある」
オリヴィエが眉間を押さえている。どうやらゲルトバルトが試験が難関化した元凶だったようだ。
「そうか、そりゃあいい! ソイツをぶっ殺せば無罪放免って事かよ、分かりやすくていい! よしデルライザー、ジェッド久しぶりに相手しろ、久しぶりで体が鈍って仕方ない」
デルライザーから説明を受けてゲルトバルトは大いに張り切り始める。
「ちょっと待て」
「無理無理無理!」
デルライザーとジェッド教官が情けない声を上げる。
「いいな、一度ゲルトバルトの力を見てみたい。研究所の裏の広場を貸してやる、好きに使え」
「おお! やるじゃねえか!!」
マクウェル卿とゲルトバルトが意気投合する、一方のデルライザーとジェッド教官の顔色は真っ青になっている。
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