64.毛のない男
本当に久しぶりの王城だ、ベネルネスの時でもあまり訪れた記憶がない。
ちなみに何でマクウェル卿に会いに来るのに王城まで来ているかと言うと、マクウェル家の研究施設が王城内にあるらしく、ここでしか調べられない事があるらしい。
「よお、ウェルマ」
どこかで聞いた事のある声がする、そちらを見ると先日の訓練で私の事をボコボコにした北伐の英雄デルライザーが満面の笑顔で手を振っていた。
「気持ち悪いからやめろ!」
ジェッド教官が私の心の声を代弁してくれた。
「こんにちはガーランド様」
「いやいや、デルライザーで良い。ガーランドは後付けの家名だ、そこまで誇りを持ってない」
訓練の時とは比べものにならないくらいに優しく穏やかな感じだ。
「おい、アイツは来てんのか?」
「ああ、暴れ出さないように拘束されている」
ジェッド教官とデルライザーがコソコソ話をしている、アイツとは誰のことだろうか?
「えっと…オリヴィエ嬢は本当に一緒に来るのか?」
デルライザーがオリヴィエをチラリと見る。
「ええ、あの男が失礼な事を言ったら叩き切る」
「剣は没収ね」
ジェッド教官がオリヴィエから剣を回収する。
「じゃあ殴り倒す」
「それもダメ」
ジェッド教官が大人の対応をしている!? この人がこんなに頼りになるとは思わなかった。
「こっちだ」
デルライザーに案内してもらい王城の外れにある研究室へと足を運ぶ。
「やっと来たかノロマめ」
研究室に入ると白衣を着た青年が腕組みをして待ち構えていた。
「お久しぶりですマクウェル様」
私は悪くないと思うけど頭を下げる。
「何度か呼び出していたんだけどなぁ? どこかの誰かさんが途中で止めていたのかな?」
私の横に立つオリヴィエに言っているみたいだ。
「いえいえ、ウェルマは士官学校の生徒です。貴族からの接触は一切禁止なのですよ。分かっていただけませんかね?」
オリヴィエも負けていない、初っ端からギスギスしている。いきなりコレでは参ってしまう。
「ウェルマ、こっち来てくれ。会わせたい奴がいる」
2人のバチバチギスギスもどこ吹く風でデルライザーが私を呼ぶ、私はここからすぐにでも脱出したいので喜んでデルライザーの方へ向かう。
案内された部屋には坊主頭で巨体の男が背中を向けて座っていた。
その男は両腕を拘束具で封印されているが、遠目からでも分かるくらい筋肉隆々で圧倒的な存在感を放っていた。
口には猿ぐつわをされており喋る事が出来ないので静かにただ待っているだけのようだ。その猿ぐつわをデルライザーが外すと首をコキコキと音を鳴らして私の方を見る。
目が合っただけで戦慄が走る。
一瞬で絶望的な力の差を分からせられた気分だ。
「何だ? この娘は? お前の子供? 全然似てねえけど」
坊主頭の男は私を一瞥するとデルライザーに尋ねる、髪の毛だけでなく眉毛もないので物凄く顔が怖い。
「ははは違う違う、以前話したお前の同類だよ」
どんな話をした!? こんな怖そうな人と私が同類なんて嫌がらせにも程がある。
「ほー」
あまり私に全然興味なさそうなんだけど。
「よお! 思ったより元気そうじゃねえか!」
ここで後からやって来たジェッド教官が明るく声をかける。
「こんなにサッパリして、ようやく反省したか暴れん坊よぉ」
ジェッド教官が坊主頭を撫でてジョリジョリと良い音を鳴らす。
「久しぶりのだなぁジェッド、この頭は反省した訳じゃなくて調べる為に毛をよこせって言われたから全部くれてやっただけだ」
知り合いなのか坊主頭の男も笑っている。
「俺は髪の毛だけで良いと言ったはずだ、全身の毛など必要ない、本当に全身の体毛をよこしやがって!」
ここでマクウェル卿とオリヴィエも入ってきた。
「全身!?」
オリヴィエが変な言葉に過敏に反応する。
「見るか? ツルツルやぞ!?」
「「やめろ!」」
デルライザーとジェッド教官が揃って坊主頭を叩く。何なんだこの状況は? 誰か説明してくれないかな?
「はあ、面倒くさい、さっさと始めるぞ。取り敢えず調査の結果を見せてやる。ウェルマと筋肉ハゲ、この水晶を触れ」
筋肉ハゲ? 私は名前で呼んでくれるだけマシなのか!? 助手と思われる人達が三つの水晶を運んでくる。
「おい、拘束具を外さないと触れねえよ」
坊主頭の男がキレる。するとマクウェル卿がパチンと指を鳴らすと拘束具が一瞬で外れてしまった。
「良いのか? 暴れるかもしれんぞ?」
「その時はその時だ、さっさと触れ」
顔色を変えないマクウェル卿に坊主頭の男はニヤリと笑う。
「俺の名前はゲルトバルトだ、アンタの親父には少しだけ世話になったから言う事を聞いてやる」
ゲルトバルトと名乗った男はマクウェル卿の言う通りに水晶に触る、私もそれに倣って水晶に触る。
何も変わらない、最初は判別の水晶かと思ったけど違うのか?
「これは単なる判別の水晶だ、ただ一つだけ分かった事がある。おい、お前もこれに触れ」
助手と思われる男性も呼び出されて私達と並んで触る。
「ちなみにその男も無色だ。おい、カーテンを閉めろ」
マクウェル卿の命令でカーテンが閉められて部屋は真っ暗になる。
「この状態で集光装置で水晶に光をあてる」
何がやりたいのか私には見当もつかない。
「あっ!」
オリヴィエが小さく声を上げる。
「分かるか? うちの無色の人間が触れている水晶には全く変化がない、それに対してゲルトバルトとウェルマの水晶は向こう側がハッキリと見えるほどに澄んだ透明なんだ」
今まで気がつかなかった、水晶本来の濁りのようなものが全て無く、本当に何もない透明だったのだ。
「おかしな言い方になるが、無色と言うよりお前達2人は透明という色を持っていると言って良いだろう」
透明という色?意味がわからない。
「これは、凄い! 大発見じゃないか!」
オリヴィエが興奮気味だ、おかしいな?マクウェル家の事を嫌っていたのではないのか?
「…」
一方、私の隣に座るゲルトバルトは何か戸惑いの色を見せている。
「あの…どうしたのですか?」
コソッと小さな声で聞いてみてしまった、もしかしたら私と同じ事を思っているのかもしれない。
「ん? ああ」
少し考えた様子だったが、口を開く。
「いや、これに何の意味があるのか俺には全然分からないのだが?」
「「「…は?」」」
うん、私も同じ事考えていた。
読んでいただきありがとうございます。
明日は休みで明後日の土曜に次話を投稿します。




