62.2人の距離
「むあああ!! モフモフって私の髪の毛のことかぁ!!」
教室棟から出るとナフタが奇声を上げて地団駄を踏む。
さっきの教室で貴族令嬢から言われた事をあの場では我慢していたけど今頃になって怒りが爆発したようだ。
確かにナフタは小柄で癖毛だ、髪質が柔らかいのでフラフワしており私としては小動物みたいで可愛らしいと思うのだが、本人はそれをとてもコンプレックスにしている。
「貴族って凄いですね、簡単に人を買うとか言うんですね」
1番縁遠いであろうクラリスが信じられないモノを見たような言い方をする。
「すまんな、嫌な思いをさせてしまった」
オリヴィエは悪くないのに私達に謝ってきた、すぐにナフタは恐縮して怒りをおさめる。私的には懐かしい感じだったので嫌な気分にはなってないが、1番の被害者であるナフタはちょっと気の毒だと思う。
「本当にアカデミーに通う事にならなくて良かったよ。普段からあんな感じだったら私はその行方不明の2人組の気持ちが分かっちゃうかも」
一応シェスカはハイルベンド侯爵家の人間だ、ここに通う可能性もあった訳で、士官学校に通えて本当に良かったと言っている。
「シェスカ、今のはどういう意味だ? 例の2人の気持ちが分かるのか?」
オリヴィエがすぐにシェスカの言葉に反応する。
「はい、ああやって自分の物差しで言われて、それに従わないとダメだと言われたら嫌な気分になりますよ。まるで私がハイルベンド家に初めて行った時の事を思い出してしまいました」
そう言えばシェスカは平民から突然貴族になったんだ、行方不明になった2人の気持ちが1番理解出来るかもしれない。
「オリヴィエ教官、クラスメイトから聞くより、彼等と同じ立場の人間から話を聞いた方がよくないですか? シェスカの言った事はとても大切な気がします」
私の言葉にオリヴィエは納得した表情で頷く。
「そうだな、私は相手の立場で物事を見てなかった、少し視点を変えて調査をしてみるか…」
「じゃあもう一度生活指導の教諭のところに行きますか?」
私の提案にオリヴィエは首を横に振る。
「いや、今日はここまでにしよう」
まだ日も高く時間的に余裕があるのに調査を終えるのか?
「そろそろ撤退しないとあの露店が閉まるだろう?」
「あっ!」
オリヴィエはあそこのアイスクリームがどうしても食べたいようだ。
「よし! 行くぞ!!」
「「「はい!!」」」
ナフタもシェスカもクラリスもノリが良い。
アカデミーから出るために城門へと向かう。私達は部外者なので入門許可証を返して外に出ないといけないのだ。
「あっ!!」
ここでクラリスが声を上げて立ち止まる。突然立ち止まるので私はクラリスにぶつかってしまった。私の鼻とクラリスの後頭部が同じ位の高さなので思いっ切り鼻を打ってしまった。
「痛たたたた、何? どうしたの?」
顔を上げるとクラリスも倒れており、痛そうに後頭部を押さえている。
「ご、ごめん。ちょっとビックリしちゃって」
ビックリ? 何に? クラリスの視線の先を見ると複数の生徒の一団がいる。どうやら1人の少女を中心に複数の男女が囲っているみたいだ。そしてその少女の視線は私達の方を向いて固まっている。
私は彼女を知っている。
美しい金髪に赤い瞳をした少女。
背が高くなり大人っぽくなっていても一目で分かった。
私の初めての友達カルリ・バーンヘイズ…私を信じてここまで導いてくれた大切な人。
向こうも私に気が付いているみたいで、突然の出来事に状況が把握出来ずに固まっている。
だがそれも一瞬の出来事だった。すぐに口角が上がり、見開いていた大きな目は細くなり、穏やかな笑みを私に向ける。
私も自然と笑顔になったと思う。久しぶりに会えたからだろうか? それとも約束を守れたからだろうか?
私の中に幸せな気持ちが溢れてくる。
そのままカルリ達の一団は城門の外へと移動していってしまった、どうやら帰宅途中だったようだ。
「巫女様だぁ、本当にまた会えるなんて」
クラリスが胸の前で両手を合わせて乙女のような表情になる。
「巫女様?」
もしかしてクラリスが言っていた予言の巫女って?
「うん、聖ロスローリアの生まれ変わりとも謳われている予言の巫女カルリ・バーンヘイズ様よ!ああ、アカデミーに通われていると聞いていたけど、まさか会える日がくるなんて!」
クラリスがトリップ状態になる、本当に恋する乙女のような顔をしている…私とカルリの関係は言わない方が良いのかな?
それにしてもカルリが予言の巫女ってどういう意味なんだ?
「バーンヘイズ公爵家の令嬢か。彼女が学年のトップに君臨しているから今年の新入生は平和なのだという話を聞いた事がある。確かに見事な風格だったな」
オリヴィエも感心している。確かに美しさは当然磨きがかかっていたけど、溢れんばかりの気品と風格はさっき話していた令嬢達とは比べものにならない気がする。
「住む世界が違いすぎるね」
「ねっ! 別次元の人って感じがする」
ナフタとシェスカも素直な感想を述べる。本当にその通りだ、私が今いる場所からはカルリはあまりに遠すぎる、恩返しするにはもっともっと頑張らなくてはいけないな。
「さて、我々も帰るか」
オリヴィエの言葉でトリップしていたみんなが正気に戻る、私達にはこれからアイスクリームを食べると言う重要ミッションが残っているんだった。
アカデミーを出て数分歩いた大きな公園。アイスクリームの露店は私達を待っていたかのように同じ場所で店を開いていた。
「待ってたぜ?」
店主はニヤリと笑う。いや、待っていたの!?
「限定の栗のアイスクリームを5つくれ」
オリヴィエは思ったよりスイーツ好きのようだ、普段とのギャップが大きすぎだ。
「ほら、サービスしとくよ!」
コーンの上にアイスが山盛りに盛られていく。この時点で私のヨダレが止まらない。
すぐに口に入れたい衝動を抑えてまずは外観を観察する、栗のクリームは絶対的に美味しい、それがアイスクリームと見事に調和している。
意を決して一口食べてみる。
一言で言えば最強だ! 甘い栗のクリームとアイスが口の中で混ざり合い至高の衝撃が私を襲う。
「ウェ、ウェルマ?」
「生きてる? 大丈夫?」
「顔が変、顔が変わった!?」
しまった! 私の悪癖が再び出てしまった。しかも仲の良い3人に目撃されるとは。
「世の中には甘い物を食べると顔が変形する人間がいると言う事だ…本当に美味いな」
そういうオリヴィエだって甘い物を食べると顔が変形している、私の事を笑えないはずだ。
「こんな美味しい食べ物、生まれて初めて!!」
クラリスは大袈裟だ。
「これは…ウェルマが美少女になる理由は分かる」
ナフタ、お前に私の何が分かる?
「ねえ、もう一回美少女ウェルマを見たいから食べてよ!」
シェスカが変な事を言い出す。
「私も見たい!」
「早く食べて」
ナフタとクラリスまで悪ノリしてくる。
「べ、別に美少女になんてならないって」
自分がどんな顔で食べているかなんて分からない、そんな劇的に変わらないと思うんだけど。
「…おいしい」
「「「きゃーー!」」」
公園内で若い女の子の黄色い声が響きわたる。私はいったい何の辱めを受けているんだろうか?
読んでいただきありがとうございました。
明日も投稿します。




