60.今も変わらない場所
「お! この前のお嬢ちゃん、今日は食べてかない?」
アカデミーに向かう途中で声をかけられる、振り向くとこの前食べたアイスクリームの露店のおじさんがいる。
「この時期限定の栗のアイスがあるよ!」
は? 何? 限定? 栗?
足が勝手に意思とは違う方向へ動き出す。て、手が、手が勝手に、アイスクリームの方へのびていく。
「何をやっている?」
オリヴィエの声がする、私の腕を掴んで離さない。ここでようやく現実に引き戻された。
「す、すいません、アイスが、アイスクリームが食べたいんです!!」
あれ? 私は何を言っているんだ?
「それは見ればわかる。だが今は勤務中なのだぞ」
でも期間限定が…
「うわ、美味しそう!」
「期間限定だって!?」
「栗のアイス!?」
ナフタ達がすでに露店に群がっている、私もあそこに行きたい。みんなの声を聞いてオリヴィエが近づいて行ってチラリとそれを見る。
「…帰りに買ってやる」
「「「やったぁ!!!」」」
やはりオリヴィエも女子だ、アイスクリームの誘惑には勝てないようだ。
寄り道をしてしまったが、アカデミー周辺へと近づいてくると段々と記憶が蘇ってくる。落葉樹の並木道も、周辺の建物もそのまんまだ、どうやらこの辺りに大きな変化は無いようだ。
そしてこの落葉樹の並木道を進んで行くと、大きな城壁に囲まれた古い建物が見えてくる。
「デカい…」
ナフタが呟く、今の私が見てみても理解不能な大きさだと思う。士官学校と比べたら雲泥の差だ。
「こっちだ」
オリヴィエの後をついて行き、城門の受付へと向かう。私達は部外者なので入門許可証が必要らしい。
守衛のお兄さんが私達を見て驚く、騎士と言うには若すぎる女の子が士官学校の制服を着てやって来たのだから驚くのは無理ないか。
「ここに名前を書いて」
どうやら小娘相手でも仕事はちゃんとやってくれるみたいだ、自分の名前を書くと入門許可証を渡してくれる。
「校内ではそれを常に付けておいてくれ、それで帰る時にここに返すんだ」
オリヴィエから説明を受ける、外部から入る時はそういうシステムだとは知らなかった。
「まずはアカデミーの生活指導の教諭に話を聞く」
オリヴィエの後について行く。私がいた頃の先生はもういないだろうなぁ、懐かしく思いながら職員室のある棟へと向かう。
「広すぎ」
シェスカが校内を見渡して溜息を吐く、と言うか校内は馬車移動OKだから歩いて移動した事はなかった気がする。
「ここだ」
大昔の記憶そのまんまの建物が今も変わらず目の前にある、アカデミーの中は20年以上経ってもあまり変わっていなかった。
「失礼、アカデミー校長から依頼を受けた第1騎士団所属のオリヴィエ・エルドラゴンだ。この者達は助手をしてもらう私の教え子達だ」
オリヴィエに紹介されて一人一人が挨拶する。生活指導担当の教諭は私達を一瞥する、あまり興味がなかったのかすぐに視線をオリヴィエへ戻す。
「生活指導担当のアルバラです、この度の第1騎士団からの派遣に感謝いたします」
アルバラはオリヴィエのみに感謝を述べているみたいだ。まあ、私達のような小娘にそんな事はしないか。
「それで、件の生徒は?」
「はい、資料を用意してあるのでどうぞ」
オリヴィエが資料を受け取り開いて私達にも見えるようにしてくれる。行方不明になったのはガバーとリッギルという2人の男の子のようだ。ともに16歳で2人とも平民出身、ガバーは農民の息子でリッギルは私と同じ下級騎士の息子…おそらくこの2人はインヘリットと呼ばれる突然変異の子供なのだろう。
「2人とも素行が悪くて、平気で講義を無断欠席するような問題児でして…」
講義か、普通の平民の男の子からしたら退屈かもしれないな。アルバラは大きく溜め息を吐いて更に愚痴を続ける。
「我々も手を焼いてまして困っているのです。ただし、魔力に関してはとても優秀でして、正直言って我々よりも上なのです。なので暴れだしたら我々で抑えられるかどうか分からないのです」
以前オリヴィエが言っていたけど、アカデミーに入学したインヘリットの子供達が問題を起こしているとは聞いている。アカデミーは魔法が主なので、インヘリットの生徒の方が優秀なパターンがあるのか。
「貴族のお子様ばかりの頃は良かったですよ。しっかりと教育が行き届いていて、常識をしっかり理解してましたから。ここ数年で彼等のような高い魔力を持つ平民の子供が現れて、自身を貴族に匹敵する力を持っていると勘違いし出してまして。最近では自分達を選ばれた人間だと言い出す始末です」
まるでアルバラの愚痴に付き合わされているみたいだ。オリヴィエも同様に感じているのか、ほとんど聞き流しているようだ。
「それで、この2人の担当教諭と話せるか?」
オリヴィエは本当にアルバラの愚痴に関心がないようだ、話が切れた隙に本来の目的を話す。
「は、はい、今は教室棟にいると思います。呼びましょうか?」
「いや、我々が足を運ぼう、連絡だけしておいてくれ」
そう言うとオリヴィエは立ち上がり部屋から出る。
「ふう、私達は教諭のお悩み聞きに来た訳じゃないのに、必要のない事までベラベラと」
オリヴィエが大きく溜め息を吐く。
「何か、かなり鬱憤が溜まっているみたいですね?」
シェスカが素直に思った事を口にする。
「そのようだな、前に来た時も愚痴ばかり聞かされた気がする。それにしてもアカデミーはそろそろ対策を練らないと本格的に不味いな、貴族の子供達が怪我でもしたら親が出てきて大問題に発展しそうだ」
オリヴィエの言葉に全員が息を飲む。確かにそうだ、ここには大貴族の子供も通っている。
本来なら政治や魔法を学ぶ場所だけど、社交界の人脈を広げるのを目的として来ている生徒もいる。
だけどインヘリットの平民出身の子供達の出現で、今までが貴族だけだったものが崩れつつあるようだ。
先生達の愚痴も増える訳だな。




