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56.上を見上げれば果てしなく

「よ、よろしくお願いします」


 いつもの私の装備を手にデルライザーの前に立たされる。


「ウェルマ、頑張って!!」


 ナフタの激励が辛い、私は本当ならやりたくなかった。このデルライザーという人はバラド師匠と同じ強者の臭いがする。


「殺れ、事故で済ます」

 ジェッド教官は黙って!

「アレを殺れば討伐報酬をあげよう」

 ベクターよ、デルライザーは何も悪い事はしていない。


「ははは、本当にバラドと同じ戦い方なんだな?」


 デルライザーが私の装備を見て笑う。


「バラド師匠をご存知なのですか?」


 私の質問に笑顔で頷く。


「ああ、よく知っている、この士官学校の同期だよ。まあ、バラドの方が年上だから俺のことを年下の癖に生意気な奴だと言ってなかったか?」


 同期? 知らなかった、つまり後ろにいるジェッド教官とも同期という事か、凄い年代だな。


「いえ、師匠は自分の事をあまり語ってくれなかったので」

「そうだったな、アイツは余計な事を喋らない奴だ。後ろにいるお喋りアホ教官とは大違いだ」


 お喋りアホ教官とはジェッド教官の事だろうな、物凄く同意してしまう。

 今のデルライザーとの会話で何となく緊張がほぐれた気がする。


「そろそろ良さそうだな」


 デルライザーが笑顔で剣を構える、どうやら私の緊張を見透かされていたようだ。

 一度大きく息を吸って大きく吐く


「よろしくお願いします!!」

「ああ、よろしく」


 大盾を前に後ろに重槍を構える。するといきなり私の前におり、盾に身体をぶつけてくる。


「さてと、力比べといこうか?」


 ジリジリと盾越しに押されていく。

「思ったより圧が弱いな、君も魔力を上手く使えないのか?」

 こっちは必死なのに喋りかけてくる。


「つ、つ、使えません」

「やはりか、そのムラっ気だけはどうにもならないか。無色の魔力持ちの欠点だな」


 この人は何でこんなに余裕なんだ? 私が必死で耐えているのに笑顔なんだけど? そして私が無色なのを知っているみたいだし。いや、おしゃべりアホ教官がすでにネタバラシしている可能性が高いと考えるべきか。


「ほらほら、その右手に持つ槍は飾りか?」


 盾越しに圧をかけられ、どんどん押し込まれていく。

「後ろに重心があると強い一撃が放てないか? そんな時はどうするか教わってないのか?」

 向こうはアドバイスしてくれる余裕があるみたいだ。悔しい、こんな時はどうするんだっけ。


『下がるな! 顔を上げろ! 歯を食いしばれ! 勇気を出して一歩踏み出せ!!』


 バラド師匠の教えを思い出す! そうだ、こんな時は勇気と根性だ!!


「こ、こんな時は根性で前に出ろと・・教わりました!!」

「はっ? 嘘!?」


 歯を食いしばり、顔を上げて前に一歩踏み出す。


「こんな時は! 勇気を出して一歩前に踏み出せと言われました!!」

「ははっ! マジかよ!!」


 デルライザーを押し返して軸足に力を込め、重槍を薙ぎ払う。


「えっ」


 だが槍が振り切れない、振り切る前に身体を入れられて途中で止められてしまった。


「いいね、燃えてきた」


 目の前に剣の柄の部分が近づいてくる。次の瞬間、弾けるような衝撃とともに顔面に激痛が走る。

「あ、やべ」

 デルライザーの素っ頓狂な声がする、私は顔面を殴られて後ろに弾き飛ばされる。


 ここで倒れたら追撃がくる、堪えなければ死ぬ!

 何とか踏ん張り、顔を上げて再び盾を前に構える。


「…凄え、本当にバラドと戦っているみたいだ!」


 デルライザーが子供のような笑みを見せて再び剣を構える。

 本当にこの人の足捌きが分からない、さっきと同様にいつの間にか私の目の前におり、簡単に距離を詰められてしまう。

 そして今度は上段から剣を振り下ろす、それを盾で防ごうとするが手応えが一切ない。これは以前ナフタが私にやった隙間を縫うような剣戟だ!


 槍で二撃目を避けようとするが腹部に激痛が走り、立つ事が維持できなくなりその場に倒れ込む。

 どうやら私は盾と槍の隙間を縫うような剣戟をモロにくらってしまったようだ、口を押さえないとお昼に食べた物を全部吐き出しそうだ。


「大丈夫!?」

 すぐにクラリスが駆け寄ってきて私に治癒魔法をかけてくれる。


「スマン、スマン、つい面白くなってしまった」


 デルライザーが謝りながら近寄ってくる。


「ありがとうございます」


 手を差し出されたのでお礼を言って立ち上る。さっきの雰囲気とは打って変わって優しい紳士の顔に戻っていた。


「ううう、手も足も出ませんでした」


 あまりの実力差に少しだけ落ち込んでしまう。普通に考えれば練習用の剣じゃなくて本物の剣だった場合、さっきの一撃で私は確実に死んでいた。


 バラド師匠は上を見上げれば果てがないと言っていたけど、まさに今それを実感している。


「ふむ、もう少しはやれると思ったんだが?」


 後からやって来たベクターがデルライザーに尋ねる。私に何か期待していた様子だ。


「アンタは人が悪い、試す行為も大概にしろよ? 恨みを買って後ろから刺されても知らないぞ?」


 デルライザーが睨みつける。

「実際手も足も出なかったんだから仕方ないだろ?」

 ベクターは反省する様子もない。

「まあまあ、無色の魔力持ちにムラッ気があるのは仕方がないですぜ」

 ジェッド教官が今にも喧嘩になりそうな2人の間に入る。


「それに最後の一撃、アレはマジだったろ?」

「…ああ、そうだな。久しぶりに思いっ切り剣を振った気がする」


 は? 学生相手に本気にならないで欲しい。


「君の名前は?」


 デルライザーが私の名前を聞いてくる。

「あ、ウェルマ・ライアンです!ウェットランド領出身です」

「そうか。ウェルマ、君の戦い方は間違っていない」

 改まってデルライザーが私を見る。


「君の師匠もそうだったが、古めかしくて華麗さはないが、確実に勝つための戦い方だ。極めれば誰一人として君に傷を負わせる事が出来ないだろう。誰かを守る為に絶対に倒れない、純然たる騎士の姿そのものだ。周囲に惑わされる事なくその道を突き進むと良い」


 ヤバい、泣きそうだ。

 ガッカリされたと思っただけに、こんな事を言われるなんて思いもしなかった。




明日も投稿します。

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