53.刑務所にて
ウェルマの出番は次回からです。
王都外れにある刑務所。
「よお、ゲルトバルト。元気そうじゃないか」
片腕の男が両手に拘束具をつけた大男に声をかける。
「デルライザーか、何の用だ? ついに釈放か?」
「いや、悪いが釈放じゃない。俺は所詮は見せかけな男爵位だ、お前を解放するにはもっと出世するしかない」
デルライザーは苦笑いをして肩をすくめる。
「何だよ、まだ牢獄暮らしかよ。世の中が平和になりゃ用無しか? たかが貴族を優しく撫でたくらいで牢獄行きなんて世知辛いなぁ」
ゲルトバルトが大きく溜め息を吐く、この様子からすでに何年も刑務所生活を送っているのがよく分かる。
「…いや、もしかしたら近くお前の出番があるかもしれない」
デルライザーの言葉にゲルトバルトは反応する。
「覚えているか? 北の征伐戦争の最後に現れた人型ドラゴンの化物。そいつが王都周辺に現れたかもしれない。しかも士官学校の実地演習中に襲われたらしい」
「…ほう。それは面白え」
ゲルトバルトが凶悪な笑いを見せる。
「面白いか? まあ、いい。特徴が北の征伐の時の化物と酷似している、その件で俺とお前の意見を求めるように提案書を出しておいた。上手くいけば上から声がかかるかもしれない」
「アイツらが俺の意見を聞きたいと思うか? 呼ばれるとしたらお前だけだろ?」
ゲルトバルトは皮肉を言いながら笑っている。
それがこの国の姿であり、英雄的な戦果をあげた男が牢獄に入れられているという現実であった。
「…お前が虐げられている現実を許せない人間も少なからずいる。もう少し我慢しろ、必ず何とかしてやる」
デルライザーが励ますように声をかける、しかしゲルトバルトは鼻で笑う。今みでどうにもならない現実を嫌と言うほど味わってきたからだ。
「いいから聞け、俺がここに来たのはマクウェル公爵がお前に興味を持ったからだ、マクウェル公爵だぞ? 8公の一角が俺の提案書を見たんだ、まだ望みはある。きっと声をかけてくれるはずだ」
「マクウェル? あの偏屈ジジイが死んでから息子が継いだんだろ? そんなもんアテになるかよ」
酷い口ぶりに慌ててデルライザーは止めさせる。
「滅多な事をいうな、マクウェル公爵は革新派だ、旧体制派の貴族とは考え方から全然違う。いいな、近いうちにお声が掛かるはずだ、その時お前は絶対に従順な態度でいてくれ」
面会時間が迫ったのか言い終わる前に窓が強制的に閉められる。
「お時間です」
「…分かった」
デルライザーは立ち上がって退席する。
デルライザー・ガーランドは元々は騎士であり、北の征伐戦争で多大な功績を挙げて爵位を賜った新興貴族だ。
ただしその功績は友人であり当時の部下であったゲルトバルトの功績がほとんどであった。
だがゲルトバルトのその英雄的な功績は認められずに全てデルライザーのものとされてしまった、その理由はゲルトバルトが賤民の出自であり、魔力に色が無かったからだ。
魔力至上主義の貴族達からしたら無色の男が最大功績など許せるものではなく、ゲルトバルトの活躍は全て揉み消されてしまった。その処置にデルライザーは憤りを持って抗議していたがゲルトバルト本人に宥められて渋々と功績を受け入れた。
その後もゲルトバルトへの理不尽な扱いにデルライザーは不満を抱いている。しかし爵位を持っているとはいえ所詮は末端の下級貴族、不満を声にしても上に声が届く事はなかった。
それでもあの時の事は今も忘れられない。死を目前とした恐怖は今もデルライザーを震え上がらせる。
北の部族の死骸から突如として現れた人型のドラゴン。圧倒的な力で部隊は屠られ、その際にデルライザーは片腕を失った。名ばかりの貴族大隊長は役に立たず、そのせいで多くの仲間達の命を失った。
運良くゲルトバルトがその場にいたおかげで撃退する事が出来たが被害は大きかった。だがその報告は無能な上層部により捻じ曲げられた真実が報告されてしまった。
皮肉にもそのおかげでデルライザーは片腕を失いつつも化け物を撃退した英雄と祭り上げられてしまった。
もし王都近隣の森で襲撃されたのが例の化け物で、士官学校の演習中に襲われたのなら被害は軽くないはず。幸いにも士官学校には旧友が役職に就いている、王都へゲルトバルトに面会に来たついでに連絡したらすぐに会う約束を取れたのは幸運だった。
「おう、久しぶりだな片腕の英雄様よ」
「やめろ、張り倒すぞ」
相変わらず掴み所のない男だとデルライザーは思った。ジェッド・ブラッドリーは士官学校の同期で伯爵家の人間ながらずっと騎士をしている変わった男だ。
「ゲルトバルトに面会に来たついでだ、それがなきゃ王都なんて来ない」
「貴族嫌いなのは相変わらずだな、お前自身も貴族のくせに」
別に貴族嫌いではないが、デルライザーは反論するつもりはない。
「それで何の用だ?」
「近隣の森で襲われた化け物について聞きたい、もしかしたらそいつが北の征伐で生まれた可能性がある。お前が話せる範囲で良いから教えてくれないか?」
デルライザーの真面目な顔にジェッドも真剣な表情になる。
「俺が知っている化け物なら、そいつは北の部族の死骸の山から生まれた、あの時はゲルトバルトがいたおかげで俺は命拾いした」
「その事は上に報告したのか?」
普段からは想像出来ない程ジェッドの反応は真剣そのものだ。
「提案書を出したらマクウェル公爵様が興味を持ってくれた、今度ゲルトバルトと一緒に面会するかもしれない。その時、お前も制止役として付き合ってほしい」
「同期の中で2番目に強いお前が止められない相手に、この俺が役立つと思うか?」
2人して乾いた笑いが止まらない。おそらく2人ではゲルトバルトを止められないと言うのが共通認識のようだ。
「それにしても被害は軽くなかっただろ?」
「おお、4人も怪我人が出た」
4人も? たった4人? デルライザーは耳を疑う。
「からかっているのか? たった4人の訳がないだろ?」
「いやいや、本当に4人だ」
イラッとした様子でデルライザーが答えを要求する、するとニヤリと笑ってジェッドが声を潜める。
「ウチの生徒にヤバいルーキーが出てきた。ゲルトバルトと同じ無色の魔力持ちだ。しかも何とあのバラドの愛弟子だ」
デルライザーはジェッドの言葉に耳を疑う。
「バラドって、あのバラド・ダグラスか? アイツは魔力第一主義だろ? 無色は足を引っ張るからと言って嫌っていただろ? アイツが無色を弟子にしたというのか?」
「おう、その通りだ。アイツが鍛えに鍛えた愛弟子がウチに入学した、可愛らしい女の子なんだが、その子がドラゴンモドキを1人でぶちのめした」
ジェッドは日頃から軽薄で物事を冗談めかして言うが、普段見せないような真剣な表情に嘘偽りが無いように感じる。
「ゲルトバルトよりヤバいかもしれないぞ? 純粋で素直で勤勉な怪物だ。その子がゲルトバルトみたいに化物を力だけでねじ伏せたんだ、言葉だけじゃ信じられないかもしれないがよ」
大袈裟に身振り手振りでジェッドは説明する、その顔は昔と変わらず面白いオモチャを手に入れた子供のようだった。
「…見に来るか? お前も気に入るはずさ」
ジェッドからの提案にデルライザーは躊躇する、この年になって再び士官学校に足を踏み入れて良いのだろうか?
読んでいただきありがとうございます、明日も投稿します。
この後、19時くらいに短編小説を投稿する予定です。良かったらそちらも読んでみて下さい。




