52.アカデミーからの依頼
竜骸襲撃事件から数ヶ月程経過した。
森の一掃作戦の決行段階でアカデミーの生徒2人が行方不明になったという報告があった。
その生徒2人はインヘリットと呼ばれる平民ながら濃い色の魔力を持つ子供であるが、普段の素行が悪く度々問題を起こす2人でアカデミー側も手を焼いていたと言う。そして今回は勝手に王都から抜け出したまま帰って来なくなってしまったのだ。
「それで、我々にどうしろと?」
エルバニア王国の8公の1つで、騎士団の最高権威であるエルドラゴン公爵家の当主ワイルダー・エルドラゴンは睨みながらアカデミーの使いの者に問いかける。
「ど、どうか騎士団より捜索の手配をしていただきたいのです。もしかしたらその2人がまた無断で森へ入って行ったかもしれないのです」
床に頭がつきそうなぐらいに頭を下げる。この者が悪い訳ではないので気の毒になってしまう。
「…分かった、学長とは古い仲だ。手の空いている者をそちらに行かせよう」
「ありがとうございます!!」
アカデミーの使いの者が去っていくとワイルダーは深く溜め息を吐く。
「大変ですね父上」
ワイルダーの隣に立つ青年が苦笑いをしている。
「ベクター、お前の手の者で誰か行けないか?」
「無理でございますね、第1騎士団は森の一掃作戦で手一杯なのをご存知でしょう?」
ワイルダーの息子でエルドラゴン家の嫡男ベクター・エルドラゴンが首を横に振る。
「まったく、こっちは森の掃除からドラゴンモドキの捜索で忙しいのに、何で素行の悪い問題児のお守りまでしないといかんのだ!」
「それならオリヴィエに行かせたらどうです? 子供のお守りが大好きでしょうし、それに何やら士官学校で入れ込んでいる生徒がいるそうです。行かせたら面白いかもしれません」
ベクターがニコニコしながら提案してくる。
「生徒…男か!?」
「いえ、違います」
即答されてワイルダーは残念そうに息を吐く。
「親としては早く結婚して欲しいのだがなぁ」
「無理でしょ?」
ベクターは苦笑いをするがワイルダーにとっては頭の痛い問題だ。
「姉妹揃って結婚しないつもりか?」
「まあ、そんな考え方は古臭いと嫌われますよ?」
再びベクターに笑われてワイルダーは不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「お前がオリヴィエのところに行け、私とは顔を合わせるのも嫌がっているだろ?」
「でしょうね。最初からそのつもりです」
この男は実の父親に対して辛辣な物言いだ。
「ついでに暗部も何やら動きを見せている、慎重に動け」
「存じております」
ベクターは平然と言ってのける、ワイルダーは眉間を押さえて怒りを堪え、自分の息子ながらひねくれて育ってしまったものだと再び溜息を吐く。
ベクターは一礼して退室する。部屋の外で待機していた2人の副官が駆け寄ってくる。
「久しぶりに妹に会いに行く、士官学校に連絡してくれ」
「はっ、すぐに手配いたします」
副官の1人が駆け足で去っていく。
「どういったご用件で?」
もう1人の副官が訝しむように尋ねる。
「また躾のなっていないアカデミーの子供が問題を起こしたらしい、今度は家出したから連れ戻して欲しいってさ。お願いばかりで、こちらに見返りがないから困ってしまうよ」
ベクターが溜息を吐く、副官もウンザリした表情をしている。
「それでオリヴィエお嬢様に?」
「ああ、さすがに第1騎士団を動かせないだろ。まあ、この依頼はついでだよ」
ベクターの満面の笑顔に副官の男は引き気味だ。
「ふふふ、噂では士官学校の新入生に大戦鬼2号が入学したらしいよ」
「なっ! 本当ですか!?」
副官の驚きの声をベクターは黙らせる。
「これは内緒話ね。その2号、かなり躾が行き届いているらしくて、制御不能の本物の大戦鬼とは全然違うらしいんだ」
ベクターの興味がアカデミーの生徒よりそっちに向かっている理由のを察する。
「魔法至上主義の時代遅れ共は見向きもしないだろうけど、目ざといマクウェルが接触したという噂もある」
8公と言えど旧態依然な家が多い、その中で革新派のマクウェル公爵が目をつけたとなるとエルドラゴン家としては黙って見ているわけには行かない。
「もし制御できる大戦鬼だと分かったら是非ともウチに欲しいからね。上手くオリヴィエが飼い慣らしてくれると信じているよ」
「…そんな事を耳にすればオリヴィエお嬢様は激怒しそうですね」
副官が呆れた表情をしている。
「言わなきゃ良いだけだよ! 君も黙っていなよ、怒ると本当に怖いんだから」
従者は兄妹でどうしてこんなにも違うものかと苦笑いする。
妹のオリヴィエは実直で真面目、芯の強い女性の代表のような人物だ。対する兄のベクターは表向きは紳士だが裏は腹黒くて策謀を張り巡らす貴族らしい人物だ。さらにもう1人の妹も性格が全然違うから困ってしまう、ただ普通はこれだけ性格が違うと仲が悪くなりそうだが兄妹仲はとても良好なのが不思議だ。
「若様、士官学校への連絡がつきました。午後からなら時間が取れるとの話です」
連絡を取りに行った副官が戻って来た。
「ふふふ、士官学校の校長先生がわざわざ連絡を取らないと士官学校に入れないなんて、世間に知られたら笑いものだな。まあ、名ばかりの校長先生だから仕方ないか」
「別に士官学校に行くだけなら、連絡なしで行っても問題ないと思われますが?」
従者の正論にベクターは何も反論できずに苦笑いするしかなかった。
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