49.ゼラム・マクウェル
マクウェル公爵。
この国の8公の一つで、紫色を司る家として有名だ。
紫色の魔力は金属加工や薬などの製薬から医療器具まで多岐に渡って利用されており、この国の医療を牛耳っていると言っても過言ではない。
更には鉄道の動力となる蒸気機関などの産業の発明もほぼマクウェル家の功績であり、名だたる天才発明家や名医を多く輩出している。8公の中でも特殊な存在とも言える。
今回の竜骸の調査もマクウェル家の当主自ら行うという事は、国王からの勅令なのだろう。
そしてこれらはダズムの推測だが、士官学校の生徒である私が竜骸と対峙したが、私が学生であるために士官学校側が私の召集を拒否した。
その代わりに調査報告書を提出したが、マクウェル卿はそれによって真実が隠されたと思って嫌がった。そこに私がウェットランド家の傘下にいるのを知って話を持ちかけてきた、ウェットランド家にとってマクウェル家は石炭や鉄鉱石の1番の取引相手で上得意様なので断る事が出来なかった、そこでゼフ・ウェットランド卿に相談した上で今日の席を設けたようだ。
「本当にありがとうございます」
ダズムに深々と頭を下げる。
「安心はするな、立場は向こうの方が上だ。顔を覚えられた以上、今後何らかの接触があるかもしれない」
怖い事を言わないでほしい。
「薬の人体実験を裏でやっているなどの黒い噂の絶えない人だ、十分に気をつけろ。おそらくバーンヘイズ家はアテにならない、最悪の場合はウェットランド家で庇いきれない事もあるが、良いな?」
こればっかりは仕方がない、ダズムが申し訳なさそうに政治的な判断を下すが、本当にありがたいと思う。
「勿論です。私などにそのような気を回さないで下さい」
今回の件でやり口は分かった、わざわざ向こうから会う事はないとは思うけど挑発に乗らないようにしないと。
「お前は本当に賢いな…一つだけ聞いてよいか?」
改まってダズムが真剣な表情になる、私も畏まって背筋を伸ばす。
「お前は騎士になってどうするつもりだ?」
唐突な質問に固まる。
「姪のカルリに言われて騎士になりたいと言うのは前々から知っている、だがお前がカルリの騎士になれる事は絶対にない。分かっていると思うが、無色の人間はどんなに頑張っても下級騎士までしかなれない、カルリの騎士となるなら最低条件として中級以上の騎士でなければならないだろう。賢いお前ならそれくらい分かっているはずだ、なぜ無駄だと分かっているのに騎士を目指す?」
そんな事は最初から知っている。さらに言えば私はバーンヘイズの家人達から嫌われている、どんな手を使ってでも私を排除してきそうだ。
「…私が騎士になるのはカルリ様の願いです」
あの時、カルリが私を手放すなと言っていたのは側に置きたいという意味だろう。でも最後は私に何としても騎士を目指すようにマーリン夫人に訴えていた。
「カルリ様は私が騎士である事に意味があると言ってました。これから先に何が待ち受けているのか分かりませんが、私はカルリ様を信じて前に進む事を心に決めています」
「幼い頃の約束か? いつまでもそれに拘らなくても良いだろ…」
ダズムが大きくため息を吐く。
「縛りのない平民なんだ、お前はお前の道を進めば良いだろう。幸いな事に俺の妻や父母、さらに俺もお前の事を気に入っている、ウェットランドに戻ってくれば私達が厚く受け入れる、自ら貴族の諍いに足を踏み入れなくても良いだろうに」
ダズムの言葉には優しさに溢れている。
「まあ良い、今まで通り自分の道は自分で決めろ」
「本当に…ありがとうございます」
深々と頭を下げてお礼を言う。すると目の前のテーブルの上に何やら小袋が置かれる。
「休日に手間を取らせた、これで帰りに何か美味いものでも食べて帰れ」
おお! お駄賃をくれた!! 休日が潰れたけどこれは嬉しい!
お駄賃をありがたくいただき、ウェットランド邸を後にする。何て太っ腹なんだ、私の中でダズムの株が爆上がりだ。
「よお、遅いじゃないか」
ウェットランド邸を出ると不意に声をかけられる。声の方向を見る、まさかのゼラム・マクウェル卿が待ち伏せをしていた!?
「8公様を待たせるとは、大したもんだなぁ?」
私を観察するように視線が上下する。
「口を割らないように釘を刺されたか? まあ良い、取り敢えず馬車に乗れ」
本当に油断した、今日はもう接触はないと思っていたけど甘かった。警戒して裏口から出れば良かった。
「それとも言う事がきけないか?」
捕まった以上逃げ道はない、言う通りに馬車に乗るしかない。
「出せ」
馬車は動き出してしまった。中から外は見えない、いったいどこに連れてかれるのだろう?
「わ、私は士官学校の生徒ですよ? さ、攫うのはどうかと思うのですが?」
「構わん、お前は所詮は平民だろ? 1人や2人いなくなっても問題ない」
このクソ差別主義者が!
「ふふふ、安心しろ殺したりはしない。ただ前から無色の魔力持ちに少し興味があるだけだ、大切なモルモットだから簡単には壊さないさ」
モルモット!? まさか改造とかするつもり!? そう言えば魔法を使えるようにしてやるとか言っていた。
「どうするつもりですか? まさか、このまま」
「んーーー、女としての興味はない。まず俺は自分より背の高い女と並んで歩きたくない」
ひ、酷い! デカい女差別だ!!
「そうだな、研究するなら…体の一部を貰おうかな?」
体の一部? 髪の毛とかで良いのかな?
「そうだな…じゃあ、歯を貰おう! 歯を全部抜いてくれ」
「嫌です!!」
なに簡単に歯を抜けって言ってんだ!!
「じゃあ爪を剥いで」
コイツはサイコパスなのか!? とにかく拒否する為に高速で首を横に振る。
「せ、せめて髪の毛とかでは?」
「えーーー、つまらん」
つまるつまらないの問題じゃない! 私はこれ以上関わりたくないんだ。
「じゃあ髪の毛を全部抜くか」
「ふざけんな!!!」
しまった、ついにキレてしまった。
「ははは、なかなかノリがいいじゃないか! 面白いな、気に入ったぞウェルマ・ライアン!!」
突然の大笑いに驚いてしまった。マクウェル卿はさっきまでの見下すような表情から、普通に若者らしい無邪気な笑顔に変化していた。
「そうだな、その長くなった指の爪をもらおうかな」
私の手を持ち、指の先に手を当てる。すると爪が短くなり綺麗に磨かれていた。
「取り敢えずのサンプルとしてはこれで十分だ、足りなくなったら呼び出すから必ず来るように」
馬車はどこかで停車する、そのまま扉が開くと士官学校の前であった。
「ああ、俺の呼び出しを無視したらお前の名前を叫びながら士官学校に乗り込むからな」
サラッと爆弾発言をして馬車は走り去っていった、私はとんでもない人に目をつけられてしまった。
読んでいただきありがとうございました。
明日も投稿します。




