48.また呼び出されてしまった。
娘のアニスとの突然の再会には驚いた。当然のように私の事は眼中になかったし、逆に嫌われたかもしれない。それに息子のアレクシスとオリヴィエは婚約解消したと言っていたし、気になる事が多すぎて困ってしまう。
少しモヤモヤした気分になってしまったが、私は学生だからこちらもやる事が多すぎて困ってしまう。
「ウェルマ・ライアン、後で教官室に来るように」
授業後に座学のラス教官に呼ばれる、なんだか物凄くデジャブだ。
「ウェルマ、また何かやったの?」
ナフタに笑われる、特に何も問題を起こしていないと思うけど。
「何か壊したの?」
「誰かを殴り倒したとか?」
シェスカ、クラリスもだんだんと私に遠慮がなくなってきた。私は何も壊してないし、人を殴り倒すなんていう野蛮な事はやらない。
「失礼します、ウェルマ・ライアンです」
再び教官室のドアを叩く。
「おう、こっちだ。お前はウェットランド伯爵とは懇意にしているんだったな?」
「え? はい、援助してもらったりと、とてもお世話になっている恩人です」
ラス教官は考え込むように頷く。
「実はウェルマにウェットランド伯爵邸に来るようにという連絡があった。この士官学校は基本的に貴族からの干渉は受け入れない事になっている、一応本人の意思確認はするがな」
あ、そういう事か、私が自らの意思でウェットランド邸に行くには良いけど、外から呼び出されて行くのはダメなんだ。
「ダズム・ウェットランド伯爵様のお名前での呼び出しでしょうか?」
「ああ、それとゼフ・ウェットランド卿の名前と連名だ」
ゼフ・ウェットランド卿との連名? すでに隠居しているのに? 何か大変な事があったのかな?
「分かりました。週末に伺うように連絡しておきます」
「そうか、何かトラブルに巻き込まれたらすぐに学校に逃げ込んでこいよ」
ラス教官の言葉に苦笑いする、ゼフ・ウェットランド卿の名前があるから大丈夫だと思うけど。
週末になり、私はウェットランド家の騎士団服に着替えて出発する。
王都での生活は慣れたもので士官学校からウェットランド邸まで道に迷う事なく行ける。
「ウェルマ・ライアンです、連絡してあると思いますが?」
「伺ってます、どうぞ」
守衛さんとも顔馴染みになった。正直言って、私は前世では考えられないくらい社交的になったと感じる。これは下の身分になったから身に付いた私なりの処世術だと思う。
「ウェルマ・ライアンです」
「入れ」
ノックしてすぐに返事がある、ドアを開けて中に入るとダズム・ウェットランド卿がおり、もう1人見た事のない黒髪の青年がいた。どうやらこの場にはゼフ・ウェットランド卿はいないようで、久しぶりに会えると思ったので少し残念な気分になる。
「こちらの方を紹介しよう、ゼラム・マクウェル公だ」
ゼラム・マクウェル公? マクウェル公爵?
「え? あ、あの8公の一つのマクウェル公爵様でございますか?」
ダズムは難しい顔で頷く。
マクウェル公爵と言えば8公の一つで紫色を司る名家だ。金属加工などの工業や医薬に精通しており、この国の医術はマクウェル公爵家が牛耳っていると言っても過言ではない。それに確か鉄道で使われる蒸気機関などの発明は全てマクウェル家のものだった気がする。
マクウェル公爵の先代は知っているけど、今はこんなに若い人が当主をしているんだ。
「ふむ…この娘が竜骸という化け物と戦ったのか」
品定めするように私を見ている。
「ウェルマよ、近隣の森の事件、あれに関与したのは本当か? 先日父より聞いて驚いたぞ」
そうか、ウェットランド領にオリヴィエ達が出向いたからウェットランド卿達は知っていたけど、王都にいたダズムは知らなかったのか。
「はい、その、報告出来なかったのは」
「ふん、おおかたエルドラゴンの奴らが黙らせたんだろ? 相変わらず階級の分別がつかない奴らだ、平民など守る必要などないだろうに」
マクウェル卿が鼻で笑う。
この発言で私はこの人を嫌いになった、ダズムも同感のようで嫌悪感丸出しの顔をしている。
この人はいったい私に何か用があるんだ?
「マクウェル様、ウチの人間を馬鹿にするのは良い気がしませんな? わざわざ忙しい中、士官学校から呼び出しているのです」
嬉しい、ダズムが私のために怒ってくれている。
「ふん、其方も同類か。まあいい、竜骸について話せ」
偉そうだ、個人的にあまりこの人に言いたくない。私がダズムに視線を送ると仕方なさそうに頷かれた。
「竜骸は魔物の死骸を嗅ぎつけてやってくるとされてます、その死骸を吸収すると傷も塞がり、身体が大きくなっていきました」
森で対峙した竜骸と呼ばれる怪物の事を説明する、
「ふむ、粗方エルドラゴン家と士官学校からの報告と一致するな。まったく、面倒な調査を押しつけられた身になってほしい」
マクウェル卿がため息を吐く。マクウェル公爵家は分析や発明、研究などが本来の得意分野だ、おそらく国の上の方から今回の件を調査を命じられたのだろう。
前世ではマクウェル公爵の先代に私は診て貰った。病気が発症してから3年も生き長らえたのは先代のおかげだと思う。まあ、先代と比べて今の当主は少しどうかと思うけど。
「…それでウェットランド卿、この者は無色で間違いないのか?」
「はい、間違いありません」
何か私の方をジッと見ているんだけど? 貴方の仕事は竜骸の調査では? 私ではないはず。
「ふむ、パッとしないな。まあ、無色の者に撃退されるようなら竜骸というのも大した脅威ではないな」
むっ! 何て嫌な言い方をするんだ。
「…左様でございますね」
ダズムも酷い! あれ? 顔は笑っていない? むしろ怒りが滲み出てないか?
「ふん、無駄な時間だったな。早く無能な騎士団が竜骸を捕まえて欲しいものだ。解剖すれば面白い事になるのにな、ついでに無色のお前も実験台として連れて行こうか? 少しは役立つかもしれないし、実験に成功すればお前も魔法が使えるようになるかもしれないぞ?」
呼んでおいて無駄な時間とは、この若僧に一言文句を言ってやりたい! と言うか誰がお前の所に行ってやるもんか!
「(堪えろ)」
私にだけ聞こえるくらいの小さな声でダズムが囁く、ここは言う通り押し黙ったまま我慢する。そのままマクウェル卿は私達を一瞥して部屋から出て行った。
「…ふう、大変な人だ」
ダズムは自分の椅子に深く腰掛けて大きく息を吐く。
「ウェルマ、よく堪えた。あれはわざと怒らせる言動だ。まったく嫌らしい人間に目をつけられたものだ」
え? 私に目をつけた?
「わ、私には少しもそのような風には見えませんでしたが?」
するとダズムは首を横に振る。
「無色のお前が怪物を撃退したんだぞ? お前の力を試そうと挑発に近い発言をしたんだよ、ついでにわざと攻撃を受けてお前とウチに負い目を背負わせようという魂胆だ」
貴族怖い…
「父上からお前を守れと言われた理由が分かったわ」
本当にゼフ・ウェットランドには頭が上がらない思いだ。
19時に次話を投稿します。




