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46.新しい相棒

「オリヴィエ教官、ここは?」


 建物の中に入るとムワッとした熱気がこもっている。


「この前使っていた槍もここで作られたものらしい。それで以前のを戦闘でなくした事を話したらバラド殿が再発注しておいてくれた」


 なんと、プレゼントされたハルバードはここで作られた物だった。


「私はここを知らなかったが、ジェッド教官もこの場所を知っていた。どうやら知る人ぞ知る場所らしく、話ではウェルマやバラド殿のようなハードアタックタイプ御用達の工房らしい」


 ちなみにハードアタックとは力任せに武器を振り回す私やバラド師匠のようなタイプの事で、反対にナフタやオリヴィエのように剣の切れ味で勝負する技巧派をシャープアタックという。


「ついでに私の剣もここで注文しておいた」


 う、オリヴィエの剣は私が折ってしまった。

「す、すいません! あの、剣のお代は弁償します!!」

 あの時はハルバードを無くしたショックで剣を折った事を謝ることが出来なかった。


「ははは、弁償などしなくて良い。私はこれでも貴族なんだ、武器の代金などたいした額ではない」


 確かに、相手は8公の1つのエルドラゴン公爵家だ、私のような貧乏学生とは訳が違う。

 笑われながらも工房の奥へ進む。すると筋肉質なお爺さんが黙々と鋼を叩いていた。


「失礼、ハードリット氏か?武器を注文していたオリヴィエ・エルドラゴンだ」


 ガン、ガン、ガン、


 鋼を叩く音しかしない、返事がない。

「どなたでしょう?」

 すぐ横にお婆さんが立っていた、気配がなくて驚いてしまった。


「い、いや失礼、武器を注文していたオリヴィエ・エルドラゴンだ」

「エルドラゴン様!? ま、まあ! それは失礼しました!! お爺さん!! お客様ですよ!!」


 ガン、ガン、ガン、


 お婆さんの呼びかけに全く応えない。

「申し訳ありません、ああなると誰にも止まらなくて。よろしければこちらへどうぞ」

 お婆さんは諦めて私達を応接間へ案内してくれた。

「御所望の剣と槍は出来上がっております」

 お婆さんが細身の長剣を持ってきてくれた。

「ほう、美しいな」

 中庭で試し切りが出来るとの事で早速させてもらう。オリヴィエが構え、上段から滑らかな動きで切り落とす、巻藁はスパッと切れ味鋭く斜めに切り落とされた。


「素晴らしい切れ味だ、ただ少し重いかな」


 私も持たせてもらう、そんなに重たく感じないのは私がおかしいのだろうか?


「そちらは多少の刃こぼれはしますが折れないように特殊加工してあります。従来品より多少重たく感じるかもしれません」


 建物の中からさっきのお爺さんが出てきた。

「挨拶が遅れました、ハードリット工房代表のガストラルデです、先程の非礼をお詫びします」

 気難しい人かと思ったら普通に丁寧な人だった。

「いや、知らずに仕事場に入ってしまったのは私達だ、気にしないでくれ」

 ガストラルデさんは顎髭を触りつつ私達を見ている。


「エルドラゴン様と言えばこの国の頂点に立つ8公家の一つではありませんか、私どもが打つような無骨な武具をお求めになるとは珍しいですな、普通は華やかな装飾をあしらった物を好みますのに」


 確かに、貴族は装飾の綺麗な華やかな剣を好む。ここの武器はそれとは正反対でシンプルだ、言い方を悪くすると地味だ。それをオリヴィエがわざわざ使うのは不思議だ。


「そうだな、先日外殻の硬い魔物と戦う機会があった、その際に剣が折れて武器を失うという危機を経験した、それがあったからここの武器を使用したいと思ったんだ。それで、先に注文した槍の方は仕上がっているか?」


 オリヴィエの提案にガストラルデさんは首を傾げる、おそらく竜骸の事は伏せられているのだろう。


「出来上がってますが、エルドラゴン様がご使用で?」

「いや、私ではなくこの娘が使う」


 オリヴィエが私の肩を叩く、するとガストラルデさんは私を見る。


「し、失礼ですが、それはあまりに無理があるかと」


 まあ、これが普通の反応だよね。

「心配するな、持たせてみれば納得するはずだ」

 訝しむ目で私を見る。そして建物の中に戻り、私の得物を持ってきてくれた。

 というか重そうで大変そうだ、私は駆け寄って持たせてもらう。


 しっくりくる重さだ。しかも前回で刺さったまま抜けなくなった1番の原因と思われる斧部の反対側にある鉤爪の返しが緩くなって改良されている!


「試してみろ」


 オリヴィエが巻藁を指さす、今日は盾がないから両腕でしっかりと振り切れる。

 調子に乗って華麗にハンドリングでハルバードを1回転、2回と回転させて勢いよく横に斬り払う。

 手応えなく振り切れた? 切れ味が良すぎて巻藁が綺麗に真っ二つになってしまった。


「し、信じられん」

「こんな可愛い女の子が」


 2人とも目を見開いている。そしてお婆さんが私の事を可愛いと言ってくれた事は聞き逃さない! 嬉しい!


「見事だ、どうだ?」

「はい!素晴らしいです!切れ味が鋭すぎてインパクトの瞬間が分からないくらいです!」


 前回はここまでハルバードを使っていない。今更だけど斬撃を試さなかったのを後悔している。


「ガストラルデさん、良い物を作っていただきありがとうございます。ただ…前回ここで作っていただいたハルバードを私は無くしてしまいました、丹精込めて作っていただいたのに申し訳ありませんでした」


 これ程の物を私は簡単に無くしてしまった、今になって物凄く申し訳なく思えてしまった。

「ふ、ふふ、ははは! 今時珍しいお嬢さんだな」

 ガストラルデさんが頭を下げる私を見て笑い出す。


「昨今では魔力をこめる事で切れ味が良くなる魔法石の武器が主流なのにな、時代を逆行する儂の武器を使い捨てでなく、大切に使用してくれる者がいるとは思わなんだわ」


 これは以前バラド師匠から注意を受けていた。私のように魔力に色を持たない人間が、魔法石が組み込まれた武器を力任せで使ったら簡単に折れてしまうと言われていたんだった。

 魔法石の武器は、魔力をこめる事で頑丈になり切れ味が増すらしい。なので物凄く軽量化され、見た目が派手な装飾が可能になると言っていた。


「あ、エルドラゴン様の剣にはしっかりと魔法石が組み込まれているので安心して下さい」


 オリヴィエの持つ剣の柄の部分にしっかりとガラス玉のような魔法石が組み込まれており、魔法の影響を受けれるようになっていた。


「ふふふ、これだけ丈夫なら折れるような事はないだろう。良い、気に入った。これから使わせてもらおう」


 オリヴィエもこのシンプルな剣を気に入ったようだ。そして申し訳ない事に私の分まで支払いをしてもらってしまった。


19時に次話を投稿します。

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