45.オリヴィエからの呼出し
あの実地演習から1ヶ月ほど過ぎた。
私のハルバートを盗んでいった異形のドラゴンの討伐が終わるまで森への出入りが禁止されてしまった。
死体から発生する毒の件も、その毒の有害性が立証されて死体の処理が行われる事となり、死体を放置する事を禁ずる条例を出すところまで話が進んだ。
あの後のオリヴィエ達の行動は迅速だった。各地のハンターらの伝承を全て調べあげ、それらの話と今回の件を示し合わせて国に報告した。
更に例の異形のドラゴンを「竜骸」と正式に呼ぶ事として王都近隣に潜む脅威として即時討伐令を公示した。今回、私も何かその件で聴取されるかと思ったがオリヴィエ達の配慮なのか、一切調べられる事はなかった。
「ウェルマ・ライアン、オリヴィエ教官が呼んでいるから教官室まで来るように」
授業終了後に座学のラス教官から呼ばれた。
「何かやったの?」
心配そうにシェスカ達が寄ってくる。私には心当たりがない。
「…あっ!剣!!」
クラリスが何か思い出したようだ。
「あ…そう言えば折っちゃったね」
ナフタ!?
以前、森で竜骸と戦った時に私はオリヴィエ教官の剣を折ってしまった。軽くて良い剣だから物凄く高価なのかもしれない。
「べ、弁償するなら私も少しは出すよ、お金ないけど」
ナフタが申し出てくれる、ナフタだってお金ないのに申し訳ない。
「いえ、折ったのは私だし、私が力任せに振り回したせいなんだから」
それにもしかしたら剣の事ではなくて別件かもしれないし。
「取り敢えず、行ってくる」
みんなに見送られて教官室へ行くことにする。
「失礼します、ウェルマ・ライアンです」
「こっちだ」
教官室に入るとオリヴィエが待っていた。
「色々と忙しくて遅くなってしまったな、行こうか」
「はえ?」
行こうか?どこへ?
「無くした武器を弁償すると言ったろ」
私が混乱しているがオリヴィエはいたって普通だ。
「時間が惜しい、行くぞ」
「は、はい」
流されるままにオリヴィエの後を追いかける。
「先日ウェットランド領に伺ってウェルマの師匠のバラド殿と会ってきた、そこでお前の持っていた特注のハルバートの事も聞いておいた。王都で手に入るらしく場所も教えてもらった」
最近見かけないと思ったらウェットランドまで行っていたのか?
「あ、あの、武器を弁償って、そのような事を私は」
「ウェルマは私達の命の恩人だ、それくらいの礼はさせてくれ」
断る隙を与えてくれない、だいたい特注のハルバートなんて、とても高価じゃないのか?
「それからウェルマのご両親とも竜骸について話を聞いてきた、なかなか考えさせるような内容だったな。それと山の教えをお前がちゃんと守っている事を話したら喜んでいたぞ。良いご両親だ、諦めずに自らの道を自分の力で切り拓いたお前を誇りに思っていると笑っていた」
ぐっ、今そんな事を言わないで欲しい。嬉しくて涙が出てきてしまう。
「まあ、ジェッド教官とバラド殿が酔っ払って取っ組み合いの喧嘩をしなければ…よき旅だった」
いい歳して喧嘩したの? 本当に何やってんだか。
「あの、もし私の家の事を調べたのなら、姉の事も知ってますよね?」
「ああ、サーニャだったか? バラド殿の御子息から結婚を申し込まれたと言っていた」
え? 違う、聞きたいのはそれじゃない…けど、
「え!? ど、どうなったんですか!? それで、上手くいったのですか!?」
オリヴィエがニヤニヤしている。
「ははは、面白いなウェットランドは。そこで突然ウェットランド夫人が待ったを言い出してな、便乗してなぜかジェッド教官までも反対して面倒臭いことになったんだ…それでバラド殿と取っ組み合いの喧嘩が始まってな」
ジェッド教官の話はどうでも良い、と言うかあの人は何しに行ったんだ!?
それでマーリン夫人が? 何で?
「ふふふ、今の中途半端な立場のままなら結婚は許さないと言ってな、ガラム殿が上級騎士にならないと結婚は許さんと喝をいれたんだ」
なる程、マーリン夫人なら言いかねないな、サーニャの事を気に入ってくれているからガラム兄さんには大変だな。
まあ、ガラム兄さんの実力なら大丈夫だろう。昇級審査を受けに王都に来るなら会えるかもしれないな。
「えっと…実は聞きたいのは一番上の姉の事ではなくて、下の姉の事なんです」
不思議そうな顔をされる。あれ? エルダの話は聞いてないのか?
「あの、名前をエルダ・ライアンというんですが聞いてませんか?」
オリヴィエは顔を横に振る、もしかして秘密だったのか? どうしよう、秘密として有耶無耶にして黙っていても良いけど、ここで引いたらずっと何も分からないままになりそうだ。
「…私の姉はインヘリットで、アカデミーに入学したんです。その後、会いたくても行方が分からなくなってしまい」
オリヴィエに近づいて小声で尋ねる。
「アカデミーに? エルダ・ライアン? 今はいくつぐらいだ?」
「19です、私より4つ上です」
考え込む、一生懸命思い出そうとしているようだ。
「ウェルマはインヘリットという言葉を知っているのだな?」
頷くと周囲を警戒しつつ口を開く。
「4年前で19歳というと第一世代のインヘリットだ。おそらくだが調べても何も出てこない、彼らの代は特に大貴族達から教育をしっかり受けている者達だ。言い方は悪いが躾がしっかりされた犬だ、能力も高く知能も高く、上の言う事をきく、なので国の上層部としては使いやすい、この意味はわかるな?」
ここで教官から貴族の顔にならないで欲しい。つまり彼らは国家の機密に関わるポジションにいる可能性が高い、だから以前ダズム・ウェットランド卿が慌ててアージュ夫人を止めていたんだ。
「…分かりました、これ以上は聞かないようにします」
「そうだな、それが賢明な判断だ」
何をしているかは心配だけどこれ以上は聞かない方が良さそうだ、ウェットランドでも話題にならないところを見ると、意図的に隠されているのかもしれない。
困ったな、調べる手段が無くなってしまった。どこか別のルートで探すしか手はなさそうだ。
「着いた、ここだ」
オリヴィエが立ち止まる、顔を上げるとそこは武器屋には見えない工房のような建物であった。
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