40.狩りの始まりだ
色々とトラブルがあったが、ようやく王都の近隣にある森へと足を踏み入れる。
空気が湿っており、生臭い獣臭がする。懐かしい感覚だ、このまとわりつくような空気を感じると故郷の山を思い出す。
私は前衛なので先頭に立つ、装備は私の相棒のハルバードと士官学校で借りた丸型の盾ラウンドシールドだ。本当は大盾の方が良いんだけど、森の中では移動の邪魔になってしまう。私の後ろには身軽そうなケルディム、その後ろに魔法タイプのローガン、一番後ろはメイスを構えたクラリスが落ち着きなく周囲を見回している、その姿を見て場慣れしていないのが良く分かる。そして最後方には教官騎士のオリヴィエが目を光らせている。
近くに獣の気配があるが襲ってこない。本当なら罠を仕掛けて待つのが最善な気がするけど、私達は騎士なのでそれは使ってはいけなさそうだ。
「いるね」
ケルディムの声に緊張が走る、敵意は感じるがどこにいるかは確認できない。
グルルルルル
おや、この低い唸り声はダークハウンドだな。アイツらは毒持ちで集団で襲ってくるから気をつけないといけない。
「ローガンさんは土の魔法を使えますよね? 周辺にいる魔物の索敵は可能でしょうか?」
年上に命令するのって難しいな。いや、これでは命令ではなくお願いだ。
「ふん、そんな事もできないのか」
嫌な言い方をする。こっちだって手段を選ばなければそれなりのやり方があるって言いたい。
「向こうの茂みに3体、反対側に2体、正面に2体」
地面に手を当てて索敵をする、7体? 私の予想してた数より少ない、出来たばかりの群れなのかな?
「…少し後退します」
騎士らしくないけど安全策で罠を使おう。
ハルバードの刃の部分で自分の指を少し血が出る程度に切る。手拭いに私の血を塗りつけて手柄な石に巻き付ける、それをダークハウンドがいると思われる茂みに向けて放り投げる。
「ローガンさん、出てきたら合図をするのでお願いします」
あまり使わない手なのだろう、こんなので誘い出せるとは思えないようで、全員が私を訝しむ目で見ている。ただダークハウンドは目より鼻を優先して行動するので、この罠の実績は問題ないはず。
少ししたら目論見通りダークハウンドが3体ほど茂みから出てきた。
初手3体なら上出来だな。
「今です!」
ローガンの地の魔法が放たれてまとめてダークハウンドを倒す。ローガンは思ったよりも指示通りに動いてくれて助かるし、魔法の威力も中々だ。
「ケルディムさんは右へ、私は左に行きます。おそらく囲うために単体で回り込んでくるので待ち伏せして下さい」
ダークハウンドは頭が良い、私達との位置を測りながら囲うために左右に迂回するはず。
しばらくすると1体のダークハウンドが警戒しながらこっちに来る、今がチャンスだ。
屈んだ体勢からハルバードの突剣部分で突く。刺さった段階で立ち上がってそのまま体重をかけて深く押し込んで仕留める。
「ギャン!!」
反対側でもダークハウンドの悲鳴が聞こえる、ケルディムも倒す事に成功したようだ。
本当に母親のミシェルよりハンターの知識と技術を教わっておいて良かった。
「いきなり5体か」
オリヴィエがダークハウンドの死体を見て笑っている。
「ウェルマ、ケルディムさん傷をみせて」
クラリスが私の傷とケルディムの傷の治療をしてくれる、と言っても私は自分でつけた傷なんだけどね。
「ち、あと2体逃したな」
ローガンは全滅できなかったのが不服だったようだ。まあ、成果として上々だと思うけどね。
「追う?」
ケルディムが私に尋ねてくる。ダークハウンドの習性上、群れが解体したら残党は終わりだ。縄張り意識が高いので他の群れに合流することは基本的にない。
「深追いはやめて慎重に次の標的を探しましょう。まずは死体の処置です、放置しておくと他の魔物が寄ってきます。すいませんが皆さんは休憩していて下さい」
これを餌に次なる大物を狙っても良いけど、私はハンターじゃなくて騎士だからね。
「詳しいんだね」
穴を掘ってダークハウンドの死体を投げ込む。それをクラリスも手伝ってくれた。
「これはお母さんの受け売り。死体を放置しておくと危険なんだって、他の魔物を呼び寄せる可能性があるの。それと死体を喰らう竜骸という不浄の化け物を呼び寄せて、死体を求めて居座っちゃうんだって…まあ、その話は山の狩人の戒めだけどね。だから害獣を狩ったら持って帰るか、その場に埋めるかしないといけないんだって」
「ふーん、そんな伝承があるんだ」
クラリスも興味深く話を聞いている。
「それが真実ならこの森はとっくの昔に滅んでいるな。昔からこの森では魔物を討伐して死体を放置してきたからな」
ここでオリヴィエも話に参加する。
「いえ、本当に迷信なんで、単に狩場を綺麗にしようという戒めだと母は言ってました。それに無駄な命の刈り取りは自然を壊すだけで、後々自分の首を絞める事になると口酸っぱく言われました」
ミシェルはそういうのをしっかり教えてくれた、例え貴族に生まれなくても良い環境に恵まれたと思う。
「ふん、アカデミーの奴らにその言葉を聞かせたいわ」
憤慨するようにオリヴィエはため息を吐く。何かあったのだろうか?
「…いや、君達には関係のない事だ、気にするな」
何かを言いかけたが途中でやめてしまった。そこまで言ったなら気になってしまう。
「さてと、これからどうする?」
休憩を終えてケルディムが私に尋ねてくる。
「まだ時間はあるので奥に向かっても良いですか?」
ダメと言われたらこの周辺で狩りをするだけだが。
「判断は任せる、私は単なる引率だ」
オリヴィエは何も言わないらしい、少し心配していたローガンも戦闘になれば私の指示を聞いてくれるし、ケルディムもかなりの実力だ。クラリスのことを考えるともう少し奥に行って経験を積んでも良い気がする。
「もう少し奥に行きましょう。ただ慎重に進むことを前提としましょう」
19時に次話を投稿します。




