39.実地演習
「良い天気で良かった」
私のハルバードのデビュー日だ、雨だと泣けてしまう。
今日は待ちに待った実地演習の日だ、王都の近くにある森で魔物との実戦を行う。
「お、新品じゃん」
指導騎士のカインが私の至高のハルバードを見て馴れ馴れしく触ってくる。
「ハルバードって、何から何までバラドと一緒じゃねえか」
ジェッド教官が私のハルバードを持つ姿を見て笑ってくる、この人はあまり相手にしたくないのに近寄ってくる。
「それでは始める。今日は4人一組で探索してもらう、組み合わせは成績上位6人をリーダーに我々が組み分けする。今回は初の実戦という事なので各班に教官騎士が帯同する」
唯一まともなオリヴィエが指示をする。というか上位6人って私も入るのか? 困った、ただでさえ無色の人の下につくのに抵抗があるだろうし、一番年下の私の言う事を聞いてくれるのだろうか?
「ウェルマ」
ここで聞き覚えのある声がする。どうやら私と仲良くしてくれているクラリスが同じ班のようだ、これはありがたい。
そして私の班のメンバーが集まったようだ。
「皆さんもよろしくお願いします」
「…」
うん? 挨拶をしたのに反応がない。これはダメなパターンかな? 顔を上げると育ちの良さそうな男性が不貞腐れたような表情をしている。
「ウェルマさん、よろしく。ほらローガンも」
爽やかな男性がローガンと呼ぶ不貞腐れた男を促す。こっちの爽やかな男性は上手くやれそうな気がする。
「僕はケルディム、こっちはローガンだ、今日はよろしく」
爽やか男性はケルディムという名前らしい、そして明らかに私を下に見ているのがローガンという名前だ。ケルディムとはやっていけるかもしれないが、ローガンの方はどうしたら良いんだ?
「チッ、ハズレかよ」
ローガンが小さく舌打ちをする、上手くやっていける自信がない。
「この班には私が同行する」
オリヴィエがやって来て私達の班と同行してくれるみたいだ。
「おい、なんでこんな小娘の下につくんだよ」
向こう側でも何やら揉めているみたいだ、見てみるとどうやらナフタの班みたいだ。ナフタも困った様子で喚いている男性を宥めている。
「向こうも大変そうだね…」
クラリスが呟く、喚かないだけ私の方はまだマシな方なのかな?
「ふん、実力差が分かれば黙るだろ」
向こうを見ていた私達にオリヴィエが近づいてくる。確かに、ナフタなら負けないとは思うけど。
「それよりも、自分の事を優先しろ」
確かに、私は人の心配をしている場合ではない。この班にも問題がありそうだ。
それにしても久しぶりの狩りだ、実は昨日からワクワクしていたんだよね。やはり私にはハンターの血が流れているのを実感する。
「オリヴィエ教官、森には何が生息してますか? それとメインとなるターゲットは何でしょう?」
こんな事ならハンターギルドで何が生息しているか調べてくれば良かった、それによって罠の種類を変えないといけない、でも騎士だから罠はダメか?
「そうだな優先ターゲットはダークハウンドだ」
山狗か、毒持ちだからあまりお金にならないな。
「マッドホーン」
よし、鹿なら角が高額で売れる! 肉も食べれる。
「ビッグブル」
来た! 大猪!! 肉に牙と売れる部位が一杯だ。
「あと奥には危険なキラーベアがいるから気をつけろ」
キラーベア!? いいね、肉に毛皮に爪に牙に骨に内臓と全てが売れる! 是非手に入れたい獲物だ。それにしてもターゲットは見事に害獣ばかりだな、目の前にウサギとか出てきても狩らないように気をつけないといけないな。
「それにしても、事前に情報を得ようとするとは大したもんじゃないか。慣れているのか?」
うん? いや違います。
「い、いえ、全て師匠と兄弟子からの受け売りです。それと魔物は討伐ですか? 生捕りですか?」
「んん? 生捕り? い、いや討伐で良い。生捕りする必要はない」
そうだった、ここは士官学校だ。みんなで騎士を目指しているんだった。いつもの癖で狩りをしようとしてしまった。
さてと、士官学校というくらいだから全員が騎士の上官クラスを目指しているんだよな。
ならば私には先にやらないといけない事がある。
「えっと、ローガンさん。一応は私がこの班のリーダーですので今回だけでも私の指示に従ってもらえますか?」
「あ?」
チームの和を乱す可能性がある人がいたら先手を打った方が良いよね。
「そのような反抗的な態度だと私も指示が出しづらいので、リーダーの権限でここに待機してもらう事になるのですが?」
私のような無色の小娘に言われたら激怒されるかもしれないな。ほら、ローガンの顔がみるみる怒りで染まっていく。
「何か調子に乗ってるみたいだけどな? 俺は王立軍の第4騎士団の」
「いえ、そうではなくて!」
言葉を遮る、このままではお約束の自分の出自を語り出しそうだ。
「このような場合、指示を聞かずに勝手をされると任務の遂行に支障をきたす可能性があります。それに魔物の討伐なので私達にも死傷の可能性があります。だから出来る限りその芽を摘みたいのです、オリヴィエ教官、よろしいでしょうか?」
「了承した」
「なっ!?」
こういう場合は毅然と対応しないと和を乱されて足を引っ張られる可能性がある。それにしてもオリヴィエもあっけなく了承したな、これにはちょっと驚いてしまった。
「ローガン・ベイ、お前は第4騎士団副師団長の推薦を受けていると言いたかったのだろう? ならばその名前を言う前に遮ってくれたウェルマ・ライアンに感謝するんだな。推薦者の名前を出すと言う事はお前の犯した失態は全て副師団長の名の下にやった事となる。人の名前に泥を塗るとはそういう意味だ、分かっているのだろうな?」
さすがオリヴィエだ、階級社会におけるツテという原理を良く分かっている。このままでは推薦してくれた人に恥をかかせる事になると暗に通告している。
「ま、待ってくれ、分かった、指示下に入る。悪かった」
おや、思ったより冷静な判断が出来るようだ。ローガンは育ちは良さそうだけど貴族っぽくない、お家の問題となる可能性があるから引いたんだろう。
それにしても士官学校が公平で本当に良かった。
わあああ!
一方、ナフタの方でも問題があったようだ。さっきナフタに文句を言っていた人がその場に倒れている。
「デントール・ディフトは待機でお願いします」
「了承した」
馬鹿な人だ、規律という言葉を知らないのか? この場の上官であるナフタに対して突っかかるなんて意味が分からない。そしてナフタの排除の申し出をすぐに了承したジェッド教官もたいしたものだ、少しだけ私の中であの人の評価が上昇した。
「良かったね、下手したらローガンもああなっていたよ」
「ちっ」
ケルディムの軽口にローガンは舌打ちする、この班にもまだまだ問題がおこるかもしれないな。
でも私は謝罪を受け入れたから彼を追い出す事は出来ないのが残念だ、これだからリーダーはやりたくないんだよね。
読んでいただきありがとうございました。
明日も投稿します。




