37.士官学校の1日
ここで士官学校の1日を紹介しよう。
早朝、士官学校の外周を走る。それは上級生も同じようで、そこで私の体力は全然まだまだなのを実感する事になった。体力に自信があったナフタも同じ事を思ったようで悔しそうな顔をしていた。
外周が終われば待ちに待った朝食だ。現在、士官学校は総勢で96人在籍しており、その中で女性は18人だ。
私達の住んでいる寮は女性専用で、18人がここで共同生活をしている。私のような裕福ではない人間にとって、無料でご飯がお腹いっぱい食べれるのはこの上ない幸せだ。
午前中は基本的に座学中心だ、語学や算学を含めた一般教養を学んでいる。ここは私にとっては問題はない、普通に知っている事を復習している感覚だ。私の隣の席のナフタは難しそうに頭を抱えているので、普通一般では難しい分類に入るのだろう。
午前中は目一杯頭を使ったので、午後からは身体を目一杯使う。
午後からは体力作りや実技を鍛える事となる。純粋に体力に関しては女性の中では私とナフタが一番上と思われるが、男性の中に混ざると真ん中くらいになってしまう。やはり体格差と筋力差は生まれ持っての差が大きい。
次に実技だ。武器を使った訓練は問題ないが、やはり魔法を用いた訓練だと私は何もやる事がない、なのでひたすら体力トレーニングを1人で黙々とやる事になる。ちなみに士官学校で無色なのはやはり私一人だけで、他の人はみんな何かしらの色を持っているようだ。無色で合格する人が珍しいとは聞いていたけど、どうやら本当の話だったようだ。
そして武器を用いた魔法が必須ではない訓練から私も参加できる。
ここで私は指導騎士のカインさんから、とても面倒な人に目をつけられたと言われた理由をようやく理解した。
「よう、バラドはお前にどんな訓練をしてたんだ?」
突然、指導騎士長のジェッド教官が訓練に割り込んできた、それに対して担当教官のオリヴィエが困った顔をしている。
ただ断る事が出来ないのでバラド師匠との修行の一つを説明する。
まずは地面に二歩分の円を描く。
「えっと、盾と武器を持たされて、師匠達の攻撃を耐えるという修行をしました。師匠達は全力で攻撃します、それに対して私は心が折れるまで頑張れと言われました」
「…」
あれ?何かみんなの反応がおかしい。
「え? マジ?」
ジェッド教官の口元が引き攣っている。
「そ、そんな原始的な訓練は聞いた事がないぞ、単なる虐待ではないか!」
オリヴィエまでドン引きしている。
「…試しにやってみるか?」
「え!?」
ジェッド教官のせいで授業が変更となってしまった、私としては普通に訓練の方が良かったのに。
仕方なく武器倉庫に大盾と重槍があるのを知っているので取りに行く。
「重くないの?」
シェスカとクラリスが心配そうな顔をしている。
「最初だけね、重さに慣れれば平気だよ」
私の言った慣れるという意味が理解できないのか、二人は難しそうな顔をしている。
「それで良いのか?」
オリヴィエも心配そうに私の元に寄ってくる。
「後はフルプレートの鎧とフルフェイスの兜があれば良いのですが」
さすがに鎧と兜は無かった。
「それは防御のためか?」
「はい、それもありますが…本当は重りの役目と視界を悪くする為です」
バラド師匠の重い攻撃の前では鎧はあまり意味がない、盾で完全に防がないと酷い目にあうと身に染みている。
「おい、誰か腕試しをしたい奴がいたらこっちにこい!」
ジェッド教官がとても楽しそうだ、クラスメイトが集まって来たので、私に修行のルールを説明するように言ってくる。
「えっと、私はこの円の中から出ません、武器を持ってますが反撃はしません。皆さんは攻撃をどんどん攻撃してもらい、私はただそれに耐えるだけです。ただ鎧を着てないので魔法は無しにしてくれると嬉しいです」
「それだけか?」
ジェッド教官に頷く、
「よーし! それじゃあやってみよう!!」
ジェッド教官が本当に楽しそうだ。
もう、今から断る事は出来なさそうだ。でも久しぶりの感じに心が熱くなっている気がする。
「よろしくお願いします!!」
声を張り上げて頭を下げる。そして盾を前に重槍を後ろに構える。
「よろしくお願いします!」
誰も言い返してくれない中、ナフタだけ挨拶を返してくれた。これは嬉しい、だけどいきなりナフタと戦うとは思ってなかった。
ダッ!
ナフタが瞬時に円の中に侵入する。模擬戦の時の技だ、力を込めて前で盾を構える。
ガキンッ!
凄まじい金属音が鳴り響く! ナフタは小柄なので体重は軽そうなのに一撃が重い。そしてすぐに次の攻撃が待っている。
剣が上から振り下ろされる、再び盾でそれを受けるが力を抜かれたのか威力はまるでない。
「これは切り返し!?」
流れるような動きで振り下ろしから斬り上げに移行する、まさに盾の隙間を縫うような攻撃だ!
ガッ!
軸足を入れ替え、後ろに構えていた槍で斬り上げを受ける、剣を弾かれたナフタは体勢を崩して距離をとり直す。その隙に再びナフタの方を向いて盾を前に槍を後ろに構えて次の攻撃に備える。
一方のナフタは私が攻撃しないのと円から出ないのを思い出し、いきなり剣を手放してしまった。
「痛ったあ、手が痺れてもう無理。硬い岩を叩いているみたい」
手をぶらぶらさせて痺れをとっている。顔は笑ってはいるけどナフタの闘争心は萎えていない、それを感じとると構えは崩さない。
「本当に凄い、同い年でこんなに尊敬できる人は初めて」
警戒を解かない私をナフタは褒めてくれる。
「次は俺だ」
ナフタの横に合格者最年長28歳のギリーさんが大剣を持って準備している。おそらくこのクラスで一番強くて経験豊かだ。
「はい! よろしくお願いします!!」
私の挨拶を他所に大きな身体を翻して大剣を振り下ろす。
ガンッ!
「ぐっ」
盾と金属がぶつかる音がして、芯にくる衝撃が襲いかかってくる。あまりの威力に思わず声をあげてしまった。
これは大人の男性の腕力に任せた攻撃、師匠達の攻撃に近い威力だ。
すぐに追撃に備えて構えるが来ない? ギリーさんが後退して苦い顔をしている。
「あり得ん、何だその硬さは!? 普通はインパクトの瞬間に衝撃を逃すだろ」
信じられない物を見るような目で私を見ている。私は何か間違っているのだろうか?
読んでいただきありがとうございました。
明日も投稿します。




