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34.思い出すは地獄のような日々

「えっと…実を言うと私も師匠から教えてもらっているけど良く分かってないの。ようするに魔法は使えないけど魔力はあるって事みたい」


 今でもあの謎掛けのような言葉を思い出す。


 魔力に色がないと魔法を使うという感覚がない。だけど無色でも多少は魔力を持っており、いわゆる火事場の馬鹿力のように無意識に身体強化などで魔力を使っているらしい。

 それを意識的に制御しようと試みたが、魔力を感じないのでどれだけやっても上手く制御出来なかった事を説明する。


 そしてあの時…バラド師匠は私に魔力を使わせる為、死に差し迫った状況を作るべく徹底的に私を追い込むという鬼の手段に出たのだ。


 あれは今思い出しても恐怖しかない、私が思い出して恐怖で震えているのを見てみんな困惑している。


「ゴメン、修行を思い出してしまった」


 何かみんなが息を飲んで緊張している。


「ど、どんな修行?」

「…死に差し迫った状況を作るために徹底的に追い込まれた。あれはシゴキではなくて虐待よ! 追い込まれれば自衛本能で魔力を使えるようになると本気で信じていたのよ!」


 私に重い鎧を着させて、大きな盾を持たせて山で生死を賭けた本気の鬼ごっことか、鎧を着せて盾を持たせて一歩も動かずに攻撃を耐えろとか、鎧と盾を装備させたまま激流を渡らせたりとか…普通に考えたらあり得ない! 鬼の所業だよ、鬼の皮をかぶった鬼だよ!

 思い出すだけでも恐怖で震えてくる。


「体力試験の時は?」

 ナフタに尋ねられて首を横に振る。

「模擬戦の時は?」

 再び首を横に振る。

「私は本当に魔法を使ったかどうか分からないの。だから最終的にそんな不確定なモノをアテにするな! 自分の力で何とかするようにしろって言われた。だから更に地獄の訓練を課せられたわ! じゃあ、今までの訓練は何だったのって尋ねたら、教え方が分からんから思いつきでやったと言われたわ!!」


 もうっ、嫌だ! 本当に思い出したくない!! 捲し立てるように吐き出してしまった。


「ウェルマの師匠、ヤベェな」

 シェスカも相当フランクになったな、口調が貴族令嬢のモノではない。

 過去を思い出して熱くなってしまった、私の身の上話ばかりになってしてしまった。

 と言ってもそろそろハンターギルドが終わる時間だ、彼女達の話はまた次の機会に聞かせて貰えれば嬉しいな。


 ハンターギルドの食堂を後にして宿に戻る。

 井戸の水を貰って体を拭いてから就寝する、今日はさすがに疲れたのですぐに眠りにつく事が出来た。



 翌日は雨だ、試験当日が本当に晴れて良かった。

「ううう、こんな時に癖っ毛は嫌だよ」

 ナフタの癖っ毛がモワモワになっている、これは少し気の毒になる。ウェーブがかかって可愛らしいと思っていたけど、こんな日は大変そうだ。


 雨は昼過ぎには止んだが、どんより曇っていてすぐにまた降ってきそうだ。それをチャンスと思って士官学校へと走って向かう、士官学校に着いたらウェットランド卿へ報告と感謝の手紙を書いて、実家にも手紙を書いて、王都のウェットランド邸に報告も行かないといけない、やる事は一杯だ。

 そんな事を考えていると士官学校に到着する、受付を終えて寮へ向かうとオシャレで綺麗な建物が見えた。


「え? これが寮?」

 ナフタが唖然としている。

「こんな所に住めるの?」

 クラリスも建物を見上げて大きな口を開いている。

「行ってみよう」

 ドキドキの入寮だ。中に入ると寮母と思われる体格の良い女性が私達を迎え入れてくれた。


「寮母のマザクだよ、3年という短い間だけど、貴女達の世話をさせてもらうからよろしくね!」


 豪快に笑いながら招き入れてくれる。部屋は二人で一部屋だ、私はシェスカと同じ部屋のようだ、一つ離れた部屋を見るとナフタとクラリスが同部屋みたいだ。

「これって受験番号順じゃない? ウェルマは81でしょ? 私は79だから」

 シェスカがどうやって部屋割したか気がつく、そう言えばクラリスは199でナフタは218だったかな。

「私達の部屋の真ん中に入って、ナフタ達の部屋の向こう側にも誰か入るみたいだよ」

 確か女性は8人合格したっけ? つまりこの一画は今回の女性合格者が割り振られているようだ。


「ねえ、入ってみようよ」


 せっかくなので中を拝見する。左右にベッドが用意されており、カーテンで仕切れるようになっている。私の実家の寝室と同じくらいの広さだろうか? 私にとっては十分すぎる設備だ。ベッドもふかふかで柔らかい、これは良いモノだ!!


「やっぱこれくらいの部屋がいいよね!」


 シェスカが貴族らしからぬ事を言う、私が不思議そうな顔をしていると苦笑いをしながら教えてくれた。


「私って7歳までは普通に平民として育ったの、母親は男の家に行ったきりでほとんど帰ってこなかったし、ボロボロの集合住宅でいつも一人だったんだから」


 なんか壮絶な幼少期だな。

「7歳の洗礼を受けた途端に周りの態度が一変してさ、いきなり貴族に引き取られて大変だったんだから」

 洗礼の儀から人生が一変して翻弄されるのは姉のエルダと一緒だな。


 そう言えばエルダは元気だろうか? もうアカデミーは卒業したと思うけど全然音沙汰がない。何とか連絡が取れないかな? 王都のウェットランド邸に報告に行った時に聞いても良いかな?

 そうと決まれば早速行動に移そう。荷物から騎士団の制服を取り出す。

「え? ウェルマ? その服」

 シェスカが制服を見て驚いている。

「ふふふ、まだ正式ではないけどね。ちょっと領主様に報告しに行ってくる」

 こうして見ると私でも立派に見える、そこへナフタとクラリスが部屋に入ってくる。

「カッコ良い! ウェルマはもう騎士だったの?」

 違うけどそう言われると嬉しくなってしまう。

「実はお世話になっている領主様に報告しなきゃいけないの、なので少し出掛けてきます」

 颯爽と出かけようとしたものの外は大雨だった。これは折角の私の一張羅が汚れてしまう…


「あれ!? もう行ってきたの!?」

 みんなに驚かれるが、今日は止めておくと理由を言わずに誤魔化す。

 本当は雨でこの服が濡れるのは嫌だから止めたとは言えない。


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