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30.私のやり方で

「ナフタさん頑張って!」


 声をかけると笑顔を返してくれる、その後ろ姿はとても凛々しい。


「ほう、あれが噂の剣老の愛弟子か」


 近くにいた女性騎士が小さく呟く。剣老? どこかで聞いたことがあるような気がする。

「相手はアイツだ」

 シェスカが小さく舌打ちをする。よく見るとハイルベンドの妨害部隊の1人だ、身体が大きくてとても強そうだ。

 ナフタは長剣を手にして構える。力の抜けた自然体だ、何となくバラド師匠のような強者の空気を纏っている。男もそれをすぐに感じたのかニヤニヤしていた顔が急に引き締まる。


「始め!」


 いきなり男は電撃の魔法を全開で放つ、目に見えるような強力な魔法だ。しかしナフタは一瞬のうちに後退して距離を取っていた。

 しかし距離を取るのは男にとっては好都合だ、男はリーチの長い槍と電撃の魔法を使える、長剣のナフタには不利だ。


 だがナフタは剣を構えると物凄いスピードで駆け出した。男が距離を取るために魔法を使おうとするが、それより先にナフタの剣の方が早く届く。

 防御する間もなくナフタの剣が男の腹部を殴打する、あまりの威力に男は悶絶する。だがまだ戦闘中だ、男は立て直そうと顔を上げる、そこにはすでに上段に剣を構えたナフタがいた。後はそのまま振り下ろせばナフタの勝ちだ!


「まいった!!」


 降参の言葉が一瞬早かった、ナフタの剣が目と鼻の先で止まっていた。


「勝者218番!」


 圧倒的な勝利だった。しかも寸止めまでしたのだから実力差がありすぎたようだ。

「ナフタさん凄い!」

 駆け寄ると恥ずかしそうに笑顔を向けてくれた。


「ちょっとムキになっちゃった」


 照れ隠しに笑うが、その実力は本当に凄い、正直言って彼女と模擬戦で当たらなくて本当に良かった。

「ナフタさんが私の相手じゃなくて良かったわ」

 今私が思っていた事をシェスカが代弁してくれた。本当にそうだ、私も勝てる気がしない。それに剣老の愛弟子といった女性騎士の言葉も気になる。


 剣老か? どこかで聞いた事があるような気がするんだけど思い出せない。


 それにしても私の番はまだかな? 全く呼ばれないのだけど?


「最終戦、81と300!」


 嫌だ! 何で私が最後なんだ? しかも相手はハイルベンド妨害部隊のリーダー格みたいな人じゃないか! 意地悪そうな人だから出来る事なら避けたかったのに。

「頑張ってウェルマさん!」

 みんなから応援されるが、それに応える余裕はない。


「好きな武器を選んでこい」


 審判をしている騎士に言われ武器倉庫の中へ入る。沢山の種類が並んでおり、取り敢えず良さそうな武器を持ってみるがどれもしっくりこない。

 私はダッシュ力がないからリーチがあって威力のある重い武器が良いんだけど。取り敢えず探しながら広い倉庫の奥へ進む、誰も使っていないような武器が埃をかぶっている。


「うん! これにしよう。あ、やった、盾がある!」


 武器庫の一番奥にずっと使われていない盾があった。みんな身軽な装備をしていたから不安だけど、使っても良いのかな? 理由を言えばOKかな? 聞いてみよう。


「すいません!私、無色なので盾を使っても良いですか?」

「「「…」」」


 ダメなのかな? 周囲全体が静かになってしまった。次の瞬間、全体でドッと大きな笑いが起きてしまう。


「あはは、アイツはバカなのか?」

「自分から弱点を晒してやがる!」

「ははは、馬鹿だ、馬鹿がいる!!」


 え? 私が笑われているの? すると呆れた様子で審判をしている騎士が口を開く、

「倉庫の物は何を使っても構わない。それから自分の手の内を晒すのは減点だ」


 あっ!! そういうことか!! あんな大声で聞いてはダメだったんだ!!


 恥ずかしくて隠れてしまいたい、いきなり恥を晒してしまった。

「それから、自分を蔑むような事を口にするな」

 また審判に怒られてしまった。マズい、今ので落ちたかもしれない。いや、いけない! 弱気はダメだ! まだ模擬戦が始まってもいない。

 すぐに倉庫に行って、武器と盾を手に取って戻る。


「…本当にそれでいいのか?」

「はい!」


 何か審判に困惑顔をされてしまった。どうしてだろう? リーチが長くて威力のある重槍と、魔法対策で体全体をカバーできる大盾を考えて選んだのに?


「すまん審判、武器を変える」


 相手が私を見て武器変更を言い出した。さっきまで大剣を持っていたのに普通の長剣に切り替えてきた。そして私を見てニヤニヤしている。


「準備はいいな。では始め!!」


「よろしくお願いします!」

「…」


 あれ? 挨拶をしたのに無視された!?


 意地悪そうな人だから私を怒らせる作戦かもしれない、それに対して怒っても仕方ないので大盾を前に押し出し重槍を後ろに構える、私は私のやり方しか出来ない。


「いいぜ、ハンデだ、魔法は使わないでやる」

「ありがとうございます!」


 これはありがたい提案だ、魔法を使われなければ私にとって戦いやすくなる。

「ははは、馬鹿はめでたいな、頭がスカスカか?」

 いきなり走り込んで剣を振る、私はそれを盾で受けようとする。それを見越していたのか、フェイントで素早く背後に回ろうとする。


 ガキン!


 金属同士がぶつかる音がする、もちろんこれくらいのスピードなら対応できる。

 それに威力もバラド師匠やガラム兄さんに比べて全然軽い。

 あの2人は遠慮なく殺意を持って剣を振り下ろしてくる、しかも私の心が折れるまで何度も何度もだ。それに比べたら全然たいしたことはない、そして見るとなぜか相手の方がダメージをくらっているんだけど?


 焦ってはいけない、時間はある、私は一瞬で距離を詰めれないのでジリジリと近寄っていく。


「く、来るな!」


 この光は!?

 全身をカバーできる大盾を選んでよかった、電撃を間一髪で防ぐ、少し痺れたけど問題なく動ける。

 それにしてもハンデで魔法を使わないと言ったクセにいきなり使うなんて! 勝負の世界では口も武器になると言っていたガラム兄さんの言葉に感謝しないといけない。


 仕切り直して盾を前に再びジリジリと距離を詰める、もう少しで私の射程に入る。でも相手は防具をつけてないから全力で振り切ったら死ぬか大怪我を負わせる可能性がある。確か殺害したり大怪我をさせると失格だったな、しかし私の未熟な腕で上手く手加減できるだろうか?


 だけどさっきのナフタの試合を見てヒントを貰った。


 私も寸止めすれば良いんだ。

19時に次話を投稿します。

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