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26.旅立ち

士官学校編のスタートです。

「頑張ってきなよ」

「うん!」


 士官学校の試験の日が近づく、出発の準備を終えると母のミシェルが見送りにきてくれた。荷物と言っても着替えと筆記具、参考書くらいだから大した量ではない。


「いつの間にかこんなに大きくなって」


 今の私はミシェルと目線が同じだ、普通にそこらにいる大人よりも背が高くなってしまった。


「これ以上は大きくなりたくない」

「ははは、どうだろうね。まだまだウェルマは育ち盛りだから、もっと大きくなるかもね」


 冗談としてもキツい。

「ねーちゃん、馬に乗って行くか?」

 弟のウォルフは動物の世話が好きだと言っており、自ら進んで馬の世話係をやっている。

 我が家の愛馬ダンダムは健在だけど、もう年寄りなので乗ることは出来ない。なので最近になって新しく若い馬を買い、我が家の馬屋には二頭も馬が住んでいるのだ。


「いいよ、いつも通り走っていくから」

「そ、そう」


 何か口元が引くついている。私にとってはもう普通になってしまったけど、馬を愛するウォルフにとっては違うらしい。


「よお、今日も走りか?」

「うん!行ってくる」


 集落の門番さんにも同じように聞かれる、もう風物詩のようになってしまったようだ。

 少しだけ準備体操をして走り出す。最初は長いと思ったこの道のりも最近では普通になってきた。タイムも日に日に縮まっているから、かなり足は速くなったと思う。


「おはようウェルマ、これも今日で見納めか?」


 走って通っていたのでウェットランドの門番さんとも顔見知りになった、そして残念そうに笑っているところを見ると私が王都の士官学校の入学試験を受けるというのも知っているようだ。


「合格すれば最後だけど、落ちたら帰ってくるよ」

「ははは、お前さんなら大丈夫だろ」


 なぜか私が合格するのを信じて疑っていないみたいだ。



 まずはウェットランド邸に挨拶に行く、本当にウェットランド卿にはお世話になりっぱなしだ、士官学校の推薦書まで出してくれた。


「ウェルマ・ライアンです」

「入れ」


 ノックをすると中から返事がある。

「失礼します」

 一礼してから中に入る。ゼフ・ウェットランドはすでに当主の座を息子に譲って隠居しているが今も元気だ、隣には奥様のマーリン夫人もいる。

「あのチビっ子がなぁ」

 ニヤニヤしながら私を見る。

「良い顔ね。頑張ってきなさい」

 マーリン夫人は相変わらず私を子供扱いだ。


「王都に着いたらこれを息子に渡しなさい、少しは助けになってくれるでしょう」


 マーリン夫人から手紙を渡される。ゼフ・ウェットランドとマーリン夫人の息子は王都にあるウェットランド邸に住んでおり、ウェットランド家の家督を継いで中央の政務を行っている。何度か会った事はあるが、ゼフ・ウェットランドに似て巨漢だ。

「これは私からだ」

「あっ!」

 渡されたのはウェットランド騎士団の制服だ。これを着ると父サイアムとペアルックになってしまう、だけど物凄く嬉しい。

「まあ、何だ。周囲が何と言おうとウェルマはウェットランドの一員である事は変わらん。頑張ってこい」

 ここまで良くしてくれるなんて思いもしなかった。

「ありがとうございます。頑張ってきます!」

 頭を下げて部屋を出る、改めて制服を見ると思わず口元が緩んでしまう。

 そして外にも見知った顔が見送りに来てくれる。


「お姉ちゃん!」


 私は真っ先に姉のサーニャのもとに駆けつける。いつの間にか身長は私の方が大きくなってしまったけど、大人っぽさでは全然敵わない、髪も伸ばしているし顔立ちも美人顔なので女として勝てる気がしない。

「いつの間にか追い抜かれてたね」

 22歳になったサーニャは感慨深く私を見る。

「今は身長どれくらい?」

 マイナさんが私を見上げる、いつの間にかマイナさんも追い越していた。


「今は172です」


 ちょっとだけサバ読んでみる…実は175だ。


「小ちゃくて可愛かった頃が懐かしいな」

 私も今からでも小さくなりたい。


「うーん、もう少し体重が欲しいな、身体の厚みが足りない」


 見送りに来たバラド師匠がデリカシーのない事を言う、冗談のつもりだろうが鬼のような強面の人が笑うと何か怖い。


「士官学校は完全に強いか弱いかの世界だ、魔力の色でどうこう言う奴は少ないはずだ。貴族がいないからな」

 バラド師匠の息子さんのガラム兄さんがアドバイスをくれる。この人も強面で鬼のような人だけど、私が受験する士官学校の卒業生だ。顔に似合わず頭も良く、試験対策などを叩き込んでくれた。


 そして密かにサーニャに好意を抱いているのを私は知っている。


「ガラム兄さん、サーニャお姉ちゃんの事、影ながら応援してます」

「なっ!?」


 どうやら私が気づいてないと思っていたようだ、強面の顔が真っ赤になるのが思ったより面白い。

 そして最後に父のサイアムを見る。


「お父さん、これを見て!」


 ウェットランド卿から貰ったウェットランドの騎士団の制服を見せる。


「ウェルマ…」

「私、頑張ってくるから!」


 サイアムは目を潤ませてソッポを向く。

 必ずしも今生の別れではない、試験に合格すればそのまま王都から戻ってこない。ただ不合格なら帰ってくるしかない、普通ならもう顔向け出来ないくらい恥ずかしい事だけどこの騎士団の制服を貰った事で意味合いが変わってくる。


 この制服にはウェットランド騎士団の誇りを持てという意味がある。

 そしてもう一つ、いつでもここに戻っておいでという意味も込められている。


 普通に考えて下級騎士の娘で、期待の薄い無色の小娘に騎士団の制服を渡す訳がない。これはゼフ・ウェットランドの個人的な好意から渡されたことになる、だから何があってもここでは私を受け入れてくれるという意味だ。

 私はウェットランド家の期待を一度裏切っているのに良くしてくれる、本当に感謝しか言えない。


「目一杯やってこい」

「うん!」


 サイアムと別れ際に抱き合う。そして次はサーニャ、そしてマイナさん。バラド師匠と抱き合おうとしたらなぜか拒否られ、ガラム兄さんと抱き合おうとしたらなぜかサーニャとマイナさんに止められてしまった。

 何か不完全燃焼な気がするけど列車の時間が迫りつつあるのでそのまま出発する。


 ウェットランド領からバーンヘイズ領へ、そこから王都までの鉄道に乗り換える事となる。

 本当に久しぶりの王都だ、期待と不安が混じりつつも列車へと乗り込んだ。


19時に次話を投稿します。

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