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23.エルダの悩み

 エルダが泣き止んで落ち着いたあたりで口を開く。


 最初は自分が色つきで浮かれていた。

 だけど次第に周囲から孤立していくような気がしており、公爵家の人間からはいかに自分が特別な存在で周囲と違うかを説かれているらしい。

 周囲と一緒ではない、自分は特別な存在、上に立つべき人間、みんなが羨やむ才能を持って生まれたと毎回言われているらしい。

 だけど自分が思い描いていた未来と現実があまりに違い、思考が悪い方へ向いていたんだろう。


 ここまでエルダが苦しんでいたとは思わなかった。


 公爵家にとって都合の良いように洗脳しようとしているのだろうか? 老獪な大貴族ならやりそうな手口だ、思い込みと味方意識を植え付ければ配下として絶対的な忠誠を誓わせる事ができる。

 ただ平民に生まれ考え方が染まっていくと、それがどんなに卑劣な手段なのかよく分かる。


「そう、だから公爵家の人と会いたくないって言ったのね」


 サーニャの言葉に少しだけ怒りがこもる、だけど私達がどんなに足掻いてもどうする事も出来ない。

「私は何があってもエルダ姉ちゃんの味方だからね」

 私が出来る事と言ったらエルダの味方である事しかできない、ウェットランド家も良くしてくれているが、貴族なんだから味方とは思わない方が良い気がしてきた。

「何かウェルマから励まされているし、本当に変な気分」

 私の励ましはあまり効果はなさそうだ、それでもいつものエルダに戻ってくれたので嬉しい。


「でも、私に用ってなんだろう? やっぱりカルリお嬢様のこと?」


 どうしても先日の事が気になってしょうがない。

「え? カルリお嬢様が来ていたの?」

 初耳のエルダが驚いている。サーニャは頷いてから、夫人が私を呼んだ理由を語り出す。


「奥様は私達の事をとても気にかけてくれている。だからウェルマの事を聞いた時はショックを受けていたわ。カルリお嬢様の事もあったし、話があるからウェルマを連れてくるように命じられたけど、内容は教えてくれなかった」


 うーん、マーリン夫人の期待に応えれなくて本当に申し訳ない。


「ねえ、カルリお嬢様はどうだったの? 凄かった?」

 小さな声でエルダが尋ねる。

「誰にも言わないでよ」

 おそらくあまり大っぴらに言ってはいけないのだろう、サーニャも小声になりヒソヒソ話になる。

「濃くて明るい赤色、そして光り輝く金色の2色よ。2色なんて前代未聞であり得ない事なんだって」

 私は目の当たりにしたから知っている、一方のエルダは純粋に驚いている。


「凄い、でも上には上がいてちょっと安心した」


 確かにカルリはエルダ以上だ、相手は8公家の公爵令嬢なんだから比べてはいけないけど、カルリの件は本当に凄い事だと思う。


「サーニャお姉ちゃん、カルリお嬢様はいるの?」

「もう帰ったよ。本当は今日までいる予定だったけど、泣いて癇癪が酷かったのと、金色の魔力を調べるために予定を早めて帰ったの。例の公爵家の人達は残っているけどね」


 もう一度カルリに会いたかったけど、このままもう会う事はないかもしれないな。私を騎士にっていう真意を聞くことが出来たら良かったのに。

「まあ、公爵家の人達が帰ったから奥様がウェルマを呼んだんだけどね。例のジェマっていう従女もいなくなったし」

 確かにあの人とは会いたくないな。さっきサーニャが言っていたけど、あんなに一方的に嫌われると私としても顔を見たくない。

「フォローするつもりはないけど、仕事に関しては凄く優秀らしいよ」

 サーニャが興味なさげに言う、何というか貴族社会に染まっている感じかな、その世界が全てだから私のような異分子が入り込むのを極度に嫌がってそうだ。



 3人で喋っていると時間が経つのが本当に早い、あっという間にウェットランドの街に着いてしまった。

 そのまま馬車はウェットランド伯爵邸まで直行し、入り口で停車する。

「こっちよ」

 サーニャに案内される、伯爵邸の裏口から入れるなんて思いもしなかった。


「おっ、ウェルマ、久しぶりじゃない、大っきくなったね!」


 突然、軽く頭をポンと叩かれる。私はその声には聞き覚えがある。

「マイナさん!!」

 久しぶりに会えて素直に嬉しかった、一緒にバーンヘイズ公爵邸に行った時にお世話をしてくれた従女さんだ。以前会った時より大人っぽくなっている。


「マイナ先輩、ウェルマをお願いできますか?」

「あいよ」


 サーニャは私をマイナさんに預け、再びエルダと共に外に出て行った。おそらく表から入ってエルダを公爵家の人達のもとへ連れて行く為だろう、そして私は公爵家の人から嫌われているので会わせない方が良いと判断したのだろう。

「ウェルマ、おいで」

「はい」

 裏口から従者用の通路を通って屋敷の中に入る、そのままウェットランド夫人の私室に案内してくれた。


「マイナです。ウェルマを連れて参りました」

「入ってちょうだい」


 マイナさんに大きな扉を開けてもらい中に入る。そこには内線通話器を手にして厳しい顔をしたマーリン夫人が立っていた、その表情は明らかに怒っているようだった。

「中で待っていて、先にエルダのもとに行ってくるわ」

 そういうと私とマイナさんを置いて部屋から出て行ってしまった、いきなりの出来事に私達はあっけにとられてしまう。


「うーんと…お茶でも淹れるか。座って待ってて」

 マイナさんまで出て行ってしまった。私は豪華な貴族夫人の部屋で一人待つ事となった。


 暇だ。


 ふと机の上にある新聞に目が行く、一面は各地でインヘリットの出現の異常事態の事が書いてある。そして先代王后のご逝去から8年の記事がある、ただ私には大して興味のない記事ばかりだ、何の気もなしに新聞をめくっていく。


「あ!」


 つい声を上げてしまった。

「アニス…」

 記事はアニスがアカデミーの入学試験で過去最高得点をとったと載っており、来年から首席でアカデミーに通うと書いてある。


 そうか、アニスはもうそんな歳になっていたのか。


 遠い世界の話だけど素直に嬉しい。

 アニスの写真が載っており、立派な姿をこうして見ることが出来た。


「私も頑張ろう」

「何が?」


 マイナさんがいつの間にか帰って来ており、私の恥ずかしい独り言を聞かれてしまった。

「っていうかウェルマって字を読めるの? アンタ本当に7歳なの?」

 普通の7歳は字が読めないの? いや、平民に近い育ちの私が字が読めることに驚いているのか?

「まあ、アンタが普通じゃないの知っていたから驚かないけど」

 何かマイナさんが勝手に納得してくれた。



明日も投稿します。

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