21.特別な人間
「聖ロスローリアの名のもとに新たなる子供達に洗礼を与えん」
厳粛な雰囲気の中で司祭が聖文を読み上げる。私とカルリは礼拝堂に並んで座り、粛々と儀式を受けている。他の子が周囲をキョロキョロしたり、話しているのを考えると私達はとても大人だと思う。
私達は少々遅れて入ったので順番は最後の方だ、しばらくは他の子供達の儀式を眺める事となる。
「ビーク・リッタ、無色」
相変わらずほとんどの子供が無色だ、みんな落ち込んで項垂れている。今のところ一人だけ薄いピンク色の女の子が出たけど、今回は成績が悪そうだ。
「カルリ・バーンヘイズ、前へ」
とうとうカルリの番だ。前に行って礼符を受け取り、色を判別する大きな水晶玉に触れる。
「おおお、これは!」
司祭が驚きの声をあげる。気になって前を覗いて見ると水晶玉が眩しく光っており、美しく明るい赤色と見たこともない金色の2色に染まっている。
「信じられない、2色だ! しかも金色を帯びているなんて!!」
周囲が騒つく、特にロスローリア教の神官らが物凄く動揺をしているみたいだ。
「落ち着きなさい! 静まれ!!」
騒ぎが大きくなる前にウェットランド卿が巨体を揺らしながらやって来る。周囲を静かにさせ、守るように孫娘のカルリを連れて行ってしまった。
カルリの赤色は元々バーンヘイズ家の色だ、血筋もあるので当然納得できる。だけど金色というのは聞いた事がないし、そもそもそんな色があるのも知らなかった。
似たような色で黄色があって雷を操る魔法だ、だけどカルリのは黄色というより光り輝く黄金だった。
やはりカルリが特別な人間とは思っていたけど、本当に特殊な力を持っていた。しかも2色を持つなんて前代未聞だ。
カルリの退場でようやく落ち着きを取り戻す、というか次が私の番なんだけど物凄く嫌だ。
なんだろう…言い知れぬ不安が襲いかかってくる。
「次、ウェルマ・ライアン」
ついに私の名前が呼ばれてしまった。
「は、はい」
ドキドキが止まらない、不安で胸が押しつぶされそうになる。礼符を渡されて判別の水晶玉の前に立つ。
「水晶玉に触れなさい」
言われるがままに水晶玉に触れる、逆の手に持つ礼符を持つ手にも力がこもる。
「ウェルマ・ライアン、無色」
…え?
「無色…ですか?」
「これが色があるように見えるか?」
手で触れている水晶玉を見る、向こうが綺麗に見える透明だ。
「な、何かの間違いでは」
「間違いはない、次の子が待っているのだ、席に戻りなさい」
無理矢理に礼符を奪われて結果を書き込まれてしまった、そして司祭に席に戻るように強く言われてしまった。
「で、でも」
「戻りなさい」
さらに厳しめに言われて引き下がる。自分の席に座ると何かが切れたように放心してしまった。
言い知れない不安が的中した。
ずっと考えないようにしていた。
私は自分がベネルネスの生まれ変わりだと自覚していた、だからベネルネスだった頃の力も引き継がれているはずだと自分に言い聞かせてきた。
だけど時々思っていたのは、私が単にベネルネスの記憶を持って生まれただけなのではないかと思う時があった。
実は前世でも感じていた体内にある「魔力」というものを、ウェルマに生まれ変わってから全く感じなかったのだ。歳を重ねれば自然と生まれると信じ、極力それを考えないようにしてきた。
この国で無色のレッテルを貼られれば、その時点で道が閉ざされたと言っても良い。これで王都のアカデミーも行けないし、子供達にも会う事も出来ない。
そんな事を考えてしまうと目には涙が溜まり今にも決壊しそうだ、こんな場所で無ければ声を上げて大泣きしてしまう。
「以上で洗礼の儀式を終了する」
いつの間にか儀式は終わっていた。礼拝堂には私1人だけ取り残され、他の子供達はみんな帰ってしまった。
どうしよう、カルリに会わせる顔がない。彼女は私を騎士にすると言っていた。どうしよう、これでは期待に応える事が出来ない。
「ウェルマ…」
なかなか礼拝堂から出てこない私をサーニャが迎えに来てくれた。
「…無色だって、う、ゔう、う」
サーニャの優しい顔を見たら涙を堪える事が出来なかった、何とか堪えていた涙が一気に出てきてしまった。
「うん、うん」
優しく私を抱きしめてくれる。
「大丈夫だよ、無色だからって人は死にはしないよ。私も自分が無色だと知った時はとても落ち込んだんだよ、だからウェルマもいっぱい落ち込んで良いんだよ」
サーニャの声が湿っぽくなる。涙を止めようとしても止まらない、ついには声を出して大泣きしてしまった。
「ウェルマは頭が良いんだから大丈夫、いっぱい落ち込んだ後でも、ちゃんと前に進めるから大丈夫だよ」
背中を優しくさすられて慰められる。
少しだけ落ち着いてきた。
サーニャの背後にはサイアムが笑顔で私を迎えてくれる、こんな時には家族の温かさがあると本当に救われる。
その後ろにはカルリとヘレア夫人、ウェットランド卿もいた。
「残念だったわね。貴女は他とは違うと思っていたけど、やはりエルダが特別だったのね」
ヘレア夫人がとても残念そうに呟く。言葉にされなかったけど期待されていたのは感じていた、期待に応えれなくて本当に申し訳ない。
「…ごめんなさいカルリお嬢様、私はお嬢様の騎士にはなれません」
泣きそうな顔をしているカルリを見つけて謝る、別に騎士になる約束をしていないがとても悪い事をしたと思えてしまった。
「違う! ダメなの! ウェルマは騎士にならないといけないの!!」
カルリが突然泣きながら大声を張り上げる。
「ウェルマが騎士にならないと終わっちゃうの! ダメだよ絶対に私の騎士になって!」
その迫力に言葉を失う。
「見えたもん! ウェルマがいないと何もかも終わっちゃうんだ!!」
カルリが癇癪を起こし、慌ててヘレア夫人がなだめる。そのまま大泣きしながら連れてかれてしまった。
「身の程を知れ無色の下民が、もう二度とお嬢様に近づくな」
去り際にジェマが近づいて来て私だけに聞こえる声で吐き捨てる。
何も言い返せない、私は唇を噛んで堪えることしか出来なかった。
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