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2.これは誰?

 暗い海の中に沈んでいくような感覚だ、これが死後の世界なのだろうか?

 だけどそれに対して全く恐怖はない、体は相変わらず動かないが苦しくはない、むしろ温かな優しさに包まれているような感覚だ。

 まるで母の優しさに包まれているみたいだ…


 だがその幸せが長く続かないのが私の人生のようだ。


 温かな海から突然寒い外の世界に投げ出されてしまった。


「よく頑張った、可愛い女の子だよ!!」


「おぎゃあああああ(寒い、暗い、誰か助けて!!)」


「おお! 元気の良い泣き声だ」

「いいから! 早く産湯を用意しな」


 すぐに私はお湯の中に入れられ体を温められて、綺麗に洗われているのは分かる…でも、

「ふぎゃあああああ(誰! ここはどこ!! 貴方達は誰! 目が、目が開かない!)」

「おお、おお、元気よく泣きよる、この子は元気があって良い!」

 私の質問に答えずに抱き抱えている女性はただ笑っている。

「おぎゃああああああ(何で目が開かないの! 真っ暗よ! 助けて!!)」


「うるせえなあ」

「エルダ、アンタの時の方がうるさく泣いてたわ」

「また女かぁ、俺は弟が良かったなぁ」


「ふぎゃあああああ(何なの、何が起きたか誰か私に教えてぇ!!)」



 しばらく体は動かず、ベッドの上に寝かしつけられる日々が続いた。

 ただ目は見えるようになった、どうやら瞼が上がらなかっただけでちゃんと目は見えている。

 見慣れない天井が見える。目の前には赤ちゃんをあやすためのオモチャが吊ってあり、カラカラと音を立ててグルグル回っている。

 自分の手を見ようとするが上手く体が動かない、首が動かせないので一生懸命に手を上げる。

 明らかに自分の手ではない。長く細かった指は見る影もなくフニャフニャな小さな手だ。


「ううあう(何が起こっているの?)」

「ねえ、チビが起きたよ」


 生意気そうな赤毛の女の子が私のベッドを覗き込んで、頬をツンツンしてくる。

「チビじゃないでしょ。エルダの妹でもあるんだからちゃんと名前を呼んであげな、それより母さん呼んできて」

 同じく赤毛の女の子が私の顔を覗き込む、こちらの方が穏やかで幾分大人のようだ。

「おはよう、ウェルマ。今日はご機嫌だね」

「うあう?(ウェルマ?)」

 ウェルマ? 誰? 私の名前はベネルネスのはずでは?

「母ちゃん、チビが起きた」

「今日は静かに起きたね」

 生意気な女の子の方が母親を連れてきたみたいだ。


 あれ? 母親?


 母親は私を抱き抱える、首が座っていない赤ちゃんを優しく抱き込むような抱き方だ。

 懐かしい、私もアレクシスやアニスを抱き抱える時にやっていたなぁ…


 あれ? 私が今それをされている気がするんだけど?


 母親は大柄な女性で、印象的なのは燃えるような真っ赤な赤い髪色だ。なるほど、赤毛の女の子達の母親なのは間違いない…と言うか私の母親でもあるのか?

 丁度よく窓ガラスに私の姿が見える。


 あれ? これは誰だ!?


 薄く赤い髪が生えており、ぷよぷよの体の赤ちゃんが大柄な女性に抱き抱えられている。


 まさか、これは…私なの?


 私は…赤ちゃんになってしまったの!?

「ふぎゃああああ(ななな、なんて事なの!!)」


「あ、また泣いちゃった」

「コイツ、すぐ泣く」

 この2人の女の子よく見たら母親そっくりだ。と言うか2人は私の姉なのか?

「よしよし、お腹がすいたんだな」


「おぎゃあああぁぁ(違う! お腹すいてない! この状況を誰か説明してぇ!!)」



 ああ、泣いても叫んでも誰も助けてくれない。


 あの後、お腹いっぱいになった私は不覚にも寝落ちしてしまった。

 ベッドから天井を見上げる、この風景にも段々と慣れてきた。

 自分の小さな手を見る、自分は本当に赤ちゃんとなってしまったようだ。しかも前世のベネルネス・グランマーレの記憶が残ったまま生まれ変わってしまったようだ。


 取り敢えず現状を確認をしなくてはならない。

 まず私はこの家に何人目かの子供として生まれ、ウェルマという名前を名付けられた。

 私の上には2人の姉がいる事は確実だ。2人といくつ離れているか分からないが、小さい方の姉とは歳は離れてなさそうだ。

 確かもう1人男の子がいたと思うが一度も私に会いに来ないのは何でだろう? まあ、難しい年頃なのかもしれない。

 母親は姉達同様に赤毛の大柄な女性で、私を抱き上げる腕がとても硬くて筋肉質だ。

 父親はここにいないようだが、最初にそれっぽい声を聞いたから、おそらく出産の時にいたと思われる。ただそれ以降一度も声を聞いてないので会いに来てないみたいだ。


 そしてこの家の中を観察してみる。

 普通の一般家庭っぽいのか?どう見ても貴族ではなく質素な生活をしている。家の作りも古くて決して裕福とは思えない、何やら姉達が母親のことを手伝っているのがその証拠だ。

 母親も働いているみたいで、私が泣き出すと姉達が母親を呼びにいくようになっていた。


 ここがどこなのか、私が何者かも分からない。

 ただ私はベネルネスからウェルマという赤ちゃんへと生まれ変わってしまった。

 私はそれを受け入れるしかないようだ。ただ稀有な事に私は前世のベネルネスとしての記憶を持っている。

 それが何を意味しているかは分からない、だけどこうなった以上私はここで生きるしかないのかもしれない。


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