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196.北の大荒野を越えて

ようやく主人公のターンです(笑)

 ノースティラを出て大荒野を線路沿いに進み、私達は数日かけてようやくウィルヴァー公爵領へと入る事ができた。


「お尻が、お尻が痛いよぉ」

 シェスカは自分が美人だという自覚がないのだろう、お尻を庇いながら変な格好で馬に乗っている。

「ナフタ、怪我は?」

「たしか肋骨にヒビが入ってただけ、ちょっと痛いけどクラリスの魔法のおかげで大分楽になったよ」

 1番心配だったナフタは思ったより平気そうだ。それでもまだ馬に慣れていないので、とてもゆっくりと走らせている・・・正直言ってナフタの場合は自分で走った方が速い気がする。


「ねええ、クラリスぅ、私のお尻に治癒魔法かけてよぉ」

「ちょっと待って、私だって痛いんだから」


 シェスカが泣きながら懇願するが即却下される、そう言うクラリスは馬に乗りながら器用に大股を開いて自分のお尻に治癒魔法をかけている・・・ちなみにクラリスも美人に分類される顔立ちをしている。


「あっ!見て、あれって城壁じゃない!?って事は町がある!!」


 ここでナフタが遠くを指差す。おそらく地図にあるウィルヴァー領の最北にある関所の集落だろう。


「ようやくまともな物が食べられる」

「だよね!焼いただけの固い肉はもう嫌!」

「アレは臭くて不味いもんね」


 この3人のせいで遅くなっているのに何を言っているんだ?

 あまりに進みが遅すぎて避難キャンプで分けてもらった貴重な食料をすぐに食べ尽くし、食べる物が無くなったから私が狩りをして食べさせてやったのに酷い言い分だ。


「どうしようか?先を急ぐ旅だよ?私は寄り道しないで先を進んだ方が良いと思うんだけど」


 少し意地悪な提案をする、すると3人は絶望的な顔をして私を睨んでくる。

「ウェルマ?これは隊長命令です、今日はあそこで絶対に休みます」

 クラリスよ、こんなところで隊長権限を使わなくても良いと思う。別に対立するつもりはないけど3対1の構図になってしまった。


「一泊だけだよ?」

「「「やったぁ!!!」」」


 私は隊長ではないが3人は部下のように大喜びする。



「すいません、ノースティラから来た北部管領軍所属の者です」


 関所である城壁を通過するために守衛に話しかける、北部管領軍の軍服に身を包んだ若い女の子達が現れて驚かれてしまった。

「あ、ご、ご苦労様です。いや、ここのところこんな辺境の集落に変わった来訪者が色々とやって来るから」

 守衛が誤魔化すように笑う、おそらく来訪者とはノースティラから脱出した人達だと思う。呑気に笑っているのを見るとここには竜骸の情報は届いていないのか?

「ちなみにその来訪者とは?」

「え?大規模な商団の方々だよ、ありがたい事に色々と取引してくれて大感謝だよ」

 間違いなくベロー商会だろう。一般の人々からの支持が高いと聞くが、こうした事を幅広くやっているからだろう。


「何か複雑、あんな悪さをやっている癖にみんなから感謝されるなんて」


 村に入るとナフタが口を尖らせる。

「やり方が上手いんでしょ、裏の顔なんて誰も知らないし」

 クラリスが興味なさげに答える、確かにこの村にとって軍属の私達よりベロー商会のような商団の方が歓迎されるのは当然だろう。

「こればっかりは仕方ないよ、そんな事より馬屋にこの子達を預けて宿を探そうよ!」

「だね!久しぶりにベッドで休みたい」

 ここのところずっと野宿ばかりで交代で睡眠をとっていたので疲れ気味だ、安心してゆっくり寝たい気持ちはよく分かる。

 馬屋を見つけてタンダムJr.らを預け、私達は集落の中を散策する。


「あっ、あった!ゴメン、ちょっとここに寄ってく」


 とある施設を見つける、この集落にあるか心配だったけどあって良かった。

「ここは?立派な建物だけど」

 クラリスから尋ねられる。

「ここはハンターギルド、道中で狩った牙とか毛皮を換金出来るの。せっかく狩ったのに捨てるのは勿体ないもんね」

 看板にあるマークを指差して説明しながら中に入る、辺境の集落のわりに立派な建物だ。

「換金お願いします」

 受付の強面のおじさんに声をかける、そして自分のハンター証を確認してもらう。

「ブツを出しな」

 無愛想に言われ、牙や毛皮を机の上に置く。


「肉は道中で食べてしまったので無いです」

「ふむ、丁寧に剥いであるな・・・」


 真剣な表情で鑑定する、この瞬間はいつもドキドキしてしまう。

「これでどうだ?」

「あらっ、思ったより高額で引き取ってくれるのですね?」

 思ったより高くてびっくりしてしまう。

「北の大荒野で狩れるブツは質が良いから高く買い取る。この建物が辺境の集落に無相応だと思わんかったか?」

 なるほど、この集落の主要産業の一つなんだろう、何となく私の生まれた集落に似ていると感じたのはそのせいか・・・と言っても私の生まれた集落にはハンターギルドが無いからこっちの方が格は上だけど。


「ところでここの集落に泊まれる宿はありますか?」

「宿は2つある、流れの出稼ぎハンター共が使う安いボロ宿と普通の旅行客が使うような宿だ」


 ついでに情報収集をする、私としては安宿で良いけど3人は普通の宿が希望のようだ。

「あと何か有名な食べ物ってありますか?」

 せっかくなので美味しいものも食べたい。

「食いもん?ここらは獣肉くらいしか出ないぞ?」

 それは道中に食べまくった、肉ばかりだったから今は野菜が食べたいくらいだ。

「後は山で取れる柑橘類・・・なんだっけな?スッキリするような後味の良い食べ物だ」

 スッキリとした後味のよい食べ物?それを聞いてここでの食事が少し楽しみになってきた。


 お金を受け取ってハンターギルドを出る、そのまま教えてもらった宿を目指す。

 宿に到着し外観を見てみる、ノースティラや王都にあるような高級ホテルとは正反対のアットホームな家族経営の宿のようだ。


「4人です」

「部屋単位での料金です、今日はお客さんが少ないので個々にお部屋をご用意出来ますが?」


 突然やって来たのに丁寧に接客してくれる、もちろん大部屋で良いし料金もひと部屋計算で安くなる。

「お食事は?こちらで?」

「はい、お願いします」

 久しぶりの人が作ってくれたご飯が食べられる、そう思うと嬉しくなってしまう。


「それでは案内します、こちらへどうぞ」


 この宿の娘さんだろうか?可愛い女の子が私達を案内してくれる。

「大浴場はこちらです、食堂はこの突き当たりにあります」

「やった!久しぶりに身体が洗える!」

 大浴場と聞いてクラリスが嬉しそうに小躍りする、そのまま部屋へと案内される。

「広っ!!」

 思わず声を上げてしまった、大きな部屋に8つのベッドが並んでいる簡素な部屋だがとても広々としている。

「ベッドだぁ!!」

 思いっきりナフタが飛び込む、それに釣られて私達もダイブする。

「柔らかぁーーー」

 本来ならそこまで柔らかくないのだが、数日も野宿生活だった私達にとってそこは天国すぎだ。


「大浴場は今準備中なので先にお食事へお願いします。それから大浴場へは一般の方も入浴に来るのでご了承下さい」


 そう言うと宿の娘さんは出て行った。客の少なさからしておそらく宿泊より大浴場がここの収入源なんだろう、私達としては久しぶりに身体が洗えるので全然問題ない。

「くうぅ、先に身体を洗いたかったのに」

 クラリスが悔しがるがこれは仕方のない事だ、荷物を置いて言われた通り食堂へと足を運ぶ。


 近づくだけでお肉の焼けた良い匂いが漂ってくる。

「今日は新鮮な鹿肉だよ!」

 席に座ると元気の良いおばちゃんが料理を持ってくる、メインのお皿には大きな鹿肉がドンッと鎮座する。


「美味しい!」


 一口食べると柔らかい肉が口の中でとろける。

「柔らか!?」

「凄い美味しい!!」

 みんなも食べるとその旨さに感激する。

「ウェルマの料理と何でこんなに違うんだろ?」

 ナフタが余計な事を口にする、プロの料理人と私を比較してはいけない。

「ねっ!ウェルマの料理は『臭い』『固い』『不味い』の三重苦だもんね」


 な!?そんな風に思っていたの!?


「私らも大概だけどウェルマのは特に酷いよね、味付けせずにただ焼いてあるだけだし」

 火が通っていればきっとお腹を壊さないだろ!それに調味料なんて持って来てない!!

「良いの!私の料理は腹が満たされる事だけに特化してんだから!」

 自分の料理が下手なのは自覚しているので言い返せないのが悲しい。

「ものは言いようね」

「ナイスポジティブ!」

「遠回しに料理下手って認めてんじゃん」

 3人とも言いたい放題だ。


「デザートの柚子のソルベです」


 私達の部屋を案内してくれた女の子が今度は給仕をしている!?1人でどれだけ働いているんだ!?

「ソルベ?」

「果汁を甘く味付けして凍らせた氷菓です」

 ほう、アイスみたいなものだな?ハンターギルドのおじさんが言っていたのはおそらくコレの事だ。


 取り敢えず一口食べてみる。

 爽やかな味が口の中いっぱいに広がる、鼻を通るような酸味が癖になりそうだ。


 これは・・・美味い!!


 さっきまでの味の濃い肉料理が一気に浄化されていくようだ!


「これこそ料理の浄化魔法、そう浄化料理だ!!」


 思わず口走ってしまった。


「ぷっ、ふふ、浄化料理って・・・」

 クラリスはなぜか口を押さえている、吐くのか?

「さっきまで美少女だったのに、今の発言で一気に残念になるなんて」

 シェスカが何故か残念そうな顔をする。

「あはは、今日もウェルマの顔芸が出た!」

 ナフタが嬉しそうだ、それよりも顔芸って何?


「食べないなら全部私が食べてあげる」

「「「ダメ!」」」


 3人のデザートを取ろうとしたら慌てて口に運び始める、それを見て思わず吹き出してしまった。

 私達は一刻も早く王都へ戻らないといけないのに、こんな場所で寄り道している暇などないのに。


読んでいただきありがとうございました。


相変わらずのウェルマ達ですが最終章の始まりです。


また土日投稿のペースで進めさせてもらいます、なので次話は来週の土曜日に投稿します。



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― 新着の感想 ―
[一言] 血抜きとか冷やしたりといった処理せず料理したのかな
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