189.報いたいのなら
一週飛びましたが北部管領軍編、ラストスパートです!
そこには凄惨な修羅場が待っていた。
やはり泣き声の主はナフタだった。泣きながらも励ますように声をかけており、その横でクラリスが必死になって治療をしている。
おそらくクラリスは身を削って限界まで魔法を使用しているのだろう、顔色は悪く大量の鼻血によって襟元から赤く染まっている。
「クラリス、ナフタ」
声をかけると涙と鼻水で顔がグチャグチャになっているナフタが顔を上げて私達に気がつく、一方のクラリスは聞こえてないのか一心不乱に治療を続けている。
「ヴァルマァァ!ジェズガァァ!!」
泣きながらナフタが駆け寄って来て私の胸の中に顔を埋めてくる。
取り敢えずシェスカにナフタを任せる、こういう事はシェスカの方が向いている。そして私は現状で一番危険そうなクラリスの様子を見に行く。
目は充血して焦点が合っていない、限界以上の魔力を使っているから意識が朦朧としているのかもしれない。
「クラリス!!」
肩をゆすって大きな声で名前を呼ぶ、するとようやく気がついたのか私の顔を凝視する。
「ウェルマ?ウェルマなの?」
やはり意識が朦朧としている、これ以上魔法を使わせるのは危険だ、強引に治癒魔法を止めさせようとするが止めようとしない。
「クラリス!落ち着いて!!これ以上やったら貴女が死んでしまう!」
強引に私の方を向かせる、すると力が抜けて脱力してしまった。
「どうしよう、私が、私の力が無いから、私のせいで死んじゃう、お父さんも、お母さんも、また助けられない・・・私が」
うわごとのように呟く、記憶も混濁しているようでかなり危険な状況だ。
「シェスカ!お願いこっちに来て!!」
クラリスを横にしてシェスカを呼ぶ、こっちの非常事態を察してナフタも一緒にやってくる。
「危険な状況よ、クラリスをお願い」
そう言ってうわごとを繰り返すクラリスを任せ、治療対象に目を向ける。その顔に見覚えがある、ベネルネスの叔父であるマクシミリアン・ロスウェルソンだ。
人懐っこい性格で寂しがり屋でナフタが誰もよりも尊敬していた好々爺はそこには無く、薄汚れた格好で今にも死にそうな老人が横たわっている。
左足が切断されて血痕を見るとかなりの出血量だ、ただクラリスの治癒魔法のお陰で血は止まっている。だがこのままでは失血死する可能性が高い、クラリスはそれを分かっていたから身を削って治癒魔法を使い続けていたんだろう。
「問題はどこまで回復しているか・・・そして今から避難キャンプに連れて行って体力が持つか、それと避難キャンプの医療設備で助けれるのか、途中でまた出血しないか・・・」
状況を整理しつつ自分の軍服を脱ぎ、傷口を保護するように巻く。
「この まま、 捨てていけ」
処置している私に弱々しく語りかけてくる。
「そんな事は出来ませんよ。ナフタのためにも、そして死ぬ気で頑張った私達の隊長の努力を無駄にするつもりはありません」
思えばマクシミリアンとまともに話したのは初めてかもしれない。
「儂はここで 逝かなければ なら ない」
「そんなのダメ!!」
言い終わる前にナフタが遮る。
「お師匠様にはまだ沢山教わりたい!私に生きる術を教えてくれた、私は師匠に今までの恩を返せてない!!みんな、みんながお師匠様を待ってる、だから、だから、生きて、生きて、またみんなと笑って下さい!!!」
必死に生かすために励ます、その様子を見てマクシミリアンは困ったような笑みを見せる。
「デルライザーの 言ったとおりだ 儂は この北の地で 多くの命を奪った。人から頼まれて殺しを請け負った、そしてまた同じ過ちを繰り返した。 そこには人生をかけて磨き続けた己の剣はない、デルライザーに手も足も出なかったのは当然だ」
マクシミリアンが苦しそうに自分の胸中を吐露する、ナフタは再び目に涙を溜めている。
それにしてもマクシミリアンと戦ったのはデルライザーだったか、師弟の争いにナフタが心を痛めるのは当然か。
「・・・最後の仕舞いが デルライザーで良かったのかもしれない。ずっと目を背けていた現実を 突きつけてくれた。儂は 誰かの ために 剣を振りたかった、父上やベネルネスのためなら修羅や鬼に なれると思っていた」
ん?何でここでベネルネスの名前が出てくる??
「あの時 ベネルネスの生まれ変わりのデミリーが 儂を見て恐怖で怯えた顔・・・まるで ベネルネスから拒絶されたようだった・・・積み重ねた罪のツケが回って来たのだと ようやく分かった」
デミリーが私の生まれ変わり?
何か話がややこしい事になってないか?
ベネルネスは私で私はここにいる。
全然似ていないだろ?デミリーの方がよく笑うし愛嬌がある、対してベネルネスは無表情で愛嬌が無くて他人に全く興味を持たないつまらない女だ・・・何か自分で言っていて悲しくなってきた。
「多くの命を奪い 迷い迷った挙句に 己の剣に意味を見い出せなかった愚か者の末路だ 父上やベネルネスには本当に申し訳なかった、何も助けれなかった、何も成すことが 何も出来なかった」
「うぐっ、うぐっ、うう」
私の隣で耐える事が出来なくなったナフタが大粒の涙をこぼし始める。
何だろう・・・この人の為にナフタが悲しんで泣いているのに、この人はナフタに対して何で言葉をかけてあげないんだ?
モヤモヤした気分になる・・・マクシミリアンは過去の人への想いを語るのみで、最期というのならせめてナフタにも言葉をかけてあげるべきではないのか?
「全ての報いは これで終わる」
「そんな訳ない!終わらないだろ!!」
我慢出来ずに思わず大声をあげてしまった。
「アンタが報いなければならないのは、必死で生かそうと命懸けで治療した私達の隊長と!アンタのために心を痛めて、涙を流している目の前の女の子だろ!ちゃんと見ろ!目を背けるな!!」
死にそうな老人の胸ぐらを掴んで無理矢理目を合わせる。
「ベネルネスは死んだ過去の人だ、過去の人に報いたって何も解決しない、死んでいるんだから!!もうこの世にいないんだからアンタの言葉が伝わる訳がないだろ!言葉が伝わるのは生きている人間だけだ!デミリーに謝りたいなら生きて目の前で頭を下げろ!!過去の過ちをを償いたいのなら生きて見える形で償え!!」
全員がポカンとしている、イライラが爆発したとはいえ私は何て事を言ってしまったんだ・・・今更ながら恥ずかしくなってくる。私の顔は怒りと恥ずかしさで真っ赤だったと思う、誤魔化すようにマクシミリアンを抱き抱える。
「失礼します、今から全力で避難キャンプまで走ります。向こうなら医療スタッフがいるので生きる可能性が一気に上がります」
「ま、待て儂は」
まだ何か言おうとするので思いっきり睨む、するとバツが悪そうに目を背けられた。
「私は先に行ってるから、私の装備とクラリスをお願い」
「え?」
ポカンとしているナフタとシェスカをそう言い残し、返事を待たずに死に損ないの老人を抱き抱えて北の大地を走り出す。
目指すはノースティラから南西に離れた場所にある避難キャンプだ、道中死に損ないの老人が悲鳴みたいな声をあげるが気にしない事にした。
今回のウェルマの発言は不快に思われる方がいるかもしれませんが、頭に血が上ったウェルマのありのままの言葉なのでどうかご容赦ください。もちろん後にちゃんと反省させます。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
明日も投稿します。




