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168.城壁での攻防

作者は体調を崩して寝込んでました、皆様もどうか気をつけて下さい。

今週で年内最後の投稿とさせてもらい、続きは来年からになるのでよろしくお願いします。

ノースティラ・城壁



 城壁の屋上に着いたマリーダは焦りを隠せなかった。長距離砲撃だけなら何とか防げるが、同時に飛行型まで襲撃して来たとなると手の打ちようがない。

「諦めたらそこで終わりだな」

 自分に言い聞かせると遠くを見据える、自分が相手をした飛行型が旋回するように近づいてくる。理由は簡単だ、マリーダの最強魔法バリスタの狙いを定めさせないようにするためだ。前回それでマリーダにやられた苦い経験をちゃんと学習しているようだ。

「先に砲撃か!?」

 ノースティラへの直撃を防ぐために暴風を巻き起こし、竜骸の放った巨大なエネルギー弾の軌道をそらす。エネルギー弾は軌道をそれて離れた場所へと着弾して爆発する。

 しかし同時にそれはもう一体を視界から外す事を意味した。


「怯むな!総督を守れ!!」


 護衛の兵士達がマリーダの背後に陣取る。横目でチラリと後ろを見ると一瞬の隙を見逃さず、上空から飛行型の竜骸が降り立っていた。

 マリーダが与えた傷は完治しているようだ。あの後生物を身体に取り込んだのだろう、前よりも大きくなっている。


「ルガァアアア!!!」


 恐ろしい咆哮と共にマリーダの真横を猛スピードで何かが飛んでいく、思わず振り向いて確認すると竜骸の振り回した腕をモロにくらい、下半身だけ残された兵士の遺体が残されていた。

「く、くそ!!」

「待て、早まるな!しっかりと陣を組め!!」

 マリーダの制止を聞かずに兵士達が斬りかかる。竜骸はそれを草を刈るように薙ぎ払う、一撃で兵士達が遥か遠くへ吹き飛ばされてしまった。

 マリーダを守る兵士達は戦慄する。圧倒的な力の前になす術がなく、恐怖に支配されつつあった。


 ゴスッ!!


 突然風が吹き荒れ、竜骸の肩口に剣が突き刺さる。反撃を考えて無かった竜骸は避けることもなくモロに食らう。

「諦めるな!戦わなくては全て終わるぞ!!」

 マリーダの大声が響き、戦意を失いつつあった兵士達を奮い立たせる。


 ドォオオオオオオン!!!


 第二波が着弾しそうになるが、目の前に巨大な竜巻が発生してエネルギー弾の軌道をそらす。

「まったく、堪え性のない奴らだ」

 歯を食いしばってマリーダが仁王立ちする、長距離砲撃も目の前の竜骸も同時に対処する覚悟を決める。

「総督を守れ!!」

「壁になるんだ!」

 護衛の兵士達がマリーダの姿に奮い立つ、戦えなくてもマリーダを守る壁になる覚悟だった。

「少しだけ隙を作れ、すぐにバリスタをぶち込んでやる」

「「「はっ!」」」

 マリーダも兵士達の強い意思を汲んで止めようとしない。ただしそれは人間側の都合であって竜骸には関係ない、間髪入れずに襲いかかってくる。


 ガキンッ!!


 その一瞬であった、壁から飛び出した小さな影が竜骸の目に向けて剣を突き立てようとする。竜骸はそれを避けるために大きくのけ反って離れる。

「くそう、反応が良い」

 フワフワの癖っ毛が印象的な小柄な女の子が悔しそうに舌打ちする。

「ナフタ!よく来てくれた!!」

 希望の光に見えたのかマリーダが嬉しそうに名前を呼ぶ。

「マリーダ総督!ご無事で良かった!!すぐにみんな来ます!!」

 そう言うとナフタは目にも止まらない速さで竜骸の懐に潜り込む、そして先程マリーダが突き刺した剣をより深く刺さるように押し込む。

 竜骸はまとわりつくナフタを振り払おうとするが、すでにナフタは離れた場所にいる。そして再び近づくと刺さっている剣を強引に引っこ抜く、すると肩口から血のような体液が吹き出す。竜骸はそんな事お構いなしでナフタに向けて腕を伸ばすが、すでにその場所にはおらず、離れた場所でリズムを刻むようにステップを踏んでいた。


「な、なんなんだあの子は、たしか士官学校の研修生だったよな?」

「何て動きなんだ」

「恐ろしくないのか!?」


 マリーダを守る側近の兵士達が驚きを隠せない。

「ナフタが剣老一派最後の宝石と呼ばれているのは本当だったな、剣老が惚れ込んだ理由がよく分かった」

 マリーダが感心しながらナフタの働きに目を細める。

「私は山からの長距離砲撃に備える、ナフタが危険になったら教えろ」

 マリーダが後ろにいる兵士達に指示を出す。本当ならナフタの芸術とも言える高速のヒットアンドアウェイを堪能していたかったが、マリーダにはやる事がもう一つあったので諦めて前を向き、いつでも長距離砲撃が来ても良いように構える。


「ナフタ、離れろ!!」


 今度は階段付近からの掛け声と共に巨大な雷が竜骸を襲う。

「ひゃー、シェスカ怖っ」

 いつの間にか離れた場所に避難していたナフタが冷や汗を拭う。

「あれぐらいナフタなら大丈夫でしょ」

 長い髪をなびかせてシェスカが剣を構える。

「やっぱり全然聞いてないか」

 土煙の中に竜骸の白い身体が見える。魔法が効かないと分かっていてもシェスカは悔しそうだ。

「お怪我は!?」

 シェスカから遅れてクラリスとリーリエがやって来てマリーダに声をかける。

「私は大丈夫だ、向こうに吹き飛ばされた者達がいる。生きているか分からないが見てくれ」

「「はい!」」

 1人はもう下半身のみしか残ってないので即死と判断できる、遠くに吹き飛ばされた3人のもとへ駆けつける。

「くっ」

 クラリスが悔しそうに舌打ちする、モロに攻撃を受けたのだろう身体がぐにゃりと不自然な方向に曲がって絶命していた。

「こっちは息がある」

 リーリエから希望の声が聞こえ、クラリスは駆けつけようとするが制止される。

「私一人で良い、クラリスは総督の側に行って!」

「分かりました!!」

 クラリスはすぐに戦線に戻る、ナフタ達に怪我人は出てないがやはりマリーダの消耗が激しい。

「マリーダ総督、魔力は回復出来ませんが体力なら回復出来ます」

「頼む!」

 すぐにマリーダに治癒魔法をかける。クラリスはマリーダの後ろに立ってその凄さを改めて実感する、北の山が光ったと思ったら火の玉のようなエネルギー弾が物凄い速さで近づいてくる。

「暴風よ!吹き荒れろ!!」

 目視できるくらいの濃い緑色の魔力がマリーダが放つ、突風が吹き荒れて近づいてくるエネルギー弾の軌道を強引に変えてしまい、そのままエネルギー弾はノースティラの離れた場所に着弾して爆発する。

「くそ、どんどん砲撃の位置が近づいてきている」

 あまりの凄さにクラリスは感動していたが、マリーダは焦りの色を見せる。昨日より近い箇所からの砲撃が来ているらしい。

「飛行型を倒し、早く避難を終わらせなければ不味いな」

 チラリとナフタ達の戦況を横目で見る、ジェッドやミネルヴァも参戦しているが効果的なダメージを与えられていないようだ。

「大丈夫です、もうすぐあの子がやって来ます!」

 クラリスの期待のこもった目で階段の方を見る、武器を取りに行くために出遅れてしまったもう一人の仲間が来るのを心より待っていた。


読んでいただきありがとうございました。

明日も投稿します。

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