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144.ナフタの想い

久しぶりのあの人も再登場します。

「その男がゲルトバルトさんだったとして、何でノースティラに来ているんでしょう?確か第一騎士団が身元を引き受けたとオリヴィエ教官から聞いたのですが」

 私の疑問にミネルヴァが難しい顔をしている。

「実は奴は第一騎士団から出奔(しゅっぽん)して行方不明になっている。ジェッドが必死になって探していたがノースティラに来ていたとは思いもしなかった」

 ゲルトバルトが行方不明になっていたとは知らなかった、ずっとジェッド教官の姿を見かけなかったのはゲルトバルトを探していたからなのか。


「ウェルマはそのゲルトバルトって人を知っているの?」

 ナフタの質問に私は遠くを眺め、思い出したくない過去を辿る。

「一対一をやらされて10メートルくらい派手にぶっ飛ばされた・・・思いっきり手加減されて」

 あの恐怖は今でも忘れられない。

「奴は間違いなくこの国で一番強い男だ。今回の件は出会い頭の事故だと思え、普通に生きていれば会う事はない」

 ミネルヴァもあの人の恐ろしさを知っているようだ。


「そう言えば、バーウィックが剣老一派を雇ったのはベロー商会の用心棒を殺すためだって言ってたよね?」

 シェスカが思い出すように呟く、するとクラリスも一緒に頷く。

「そうそう、じゃあそのゲルトバルトっていう人がベロー商会の用心棒をやっているって事?」

 思わずミネルヴァと視線が合ってしまった。

「くぅ、これ以上厄介事が増えないで欲しいのに。いや、まさかとは思うが・・・」

 口元を押さえてミネルヴァが何かを考え込む。


「剣老一派は弟子同士の絆が強い事で有名だったな?」


 ミネルヴァの強めの言葉にナフタは頷く。

「最近はギスギスしてますが、前までは頻繁に兄弟子達が稽古をつけに道場に来てくれました。みんな笑顔だった、みんな真剣に剣の腕を磨いていた。だから人から命令されて誰かを殺すような剣なんて学んでこなかったのに」

 一枚岩だと思われた剣老一派の綻びは相当大きそうだ、こんな悲しそうなナフタを見ていられない。


「・・・ナフタ、落ち着いて聞け。昨日、殺人があったのは知っているな?北部管領軍所属の人間が巻き込まれた」

 言葉を選んでミネルヴァが話を続ける、それにしても機密情報っぽいのに私達に言ってもよいのか?

「実は殺された被害者の全員が剣老一派だ」


「えっ!?」


 ナフタにとってショックな事実を知らされる、ここまでくると同情してしまう。

「独自の情報網があって何かを掴んでいたのかもしれない。ただ彼等が安易な敵討ちをするような人間とは考えたくないが、剣老一派の仲間意識を考えると・・・」

 話を最後まで聞かずにナフタが駆け出そうとする、私はそれを後ろから抱き抱えて止める。

「離して!離せ!!離せぇ!!!」

 拘束を振り払おうとナフタが暴れる、後頭部で頭突きをされ、肘が顔めがけて飛んで来るが我慢する。


「落ち着け!!」


 ミネルヴァの一喝で空気が凍りつき、暴れていたナフタの動きが止まる。そして次の瞬間ナフタは大粒の涙をこぼして嗚咽をし始める。


「どうして、どうして、こんな事って、うううぅぅぅ」


 その姿を見て思わず前を向かせて抱きしめてしまう。すると顔をうずめて声を殺して泣き出す、釣られて私まで泣けてくる。

 感情が昂るにつれて抱きしめる力が強くなってしまう。


「く、くるしい・・・」


 しばらく落ち着くまで抱きしめていたが、私の胸の中でナフタの弱々しい声が聞こえる、腕を緩めると涙と鼻水でグシャグシャの顔のナフタがぎこちなく笑っていた。

「落ち着いた?」

「うん・・・私が行っても何も出来ないのにね。ゴメン、痛かったよね?」

 確かに今更になって顔が痛くなってきた。

「ほら、治療するよ」

 クラリスが私の肩に手を置く、鏡をみるとナフタの頭突きと肘打ちで顔が痛々しく腫れあがり口元が切れていた、この顔で外を出歩くのに勇気がいる。

「ゴメンなさい」

 別の意味でナフタが小さくなってしまった、申し訳なさそうに私の治療を見守っている。


「・・・私はお師匠様の道場で学んだ事が全てだった」


 落ち着いたのか、ポツポツとナフタが口を開く。

「剣老一派の人達はみんな優しくて、お兄ちゃんとお姉ちゃんがいたらこんな感じなんだなって勝手に思ってた。その中で沢山の人達から慕われるお師匠様が太陽みたいで、お師匠様を真ん中にみんなが仲良くしてた」

 涙こそ落ちてないがとても切なそうな顔で続ける。

「私の家が貧乏で借金の取り立てが来るのを毎日怯えてて、お父さん達は毎日毎日働きに出て家にいなかったから、私が一番年上のお姉ちゃんだったから弟達を守らなきゃって思ってた。その時に手を差し伸べてくれたのがお師匠様だったの。私に生きる術を教えてくれた・・・私に、私に頑張れば何とかなるって教えてくれた」

 再びナフタの感情が昂ってきた、心配になって立ちあがろうとするがミネルヴァに止められる。ナフタは呼吸が荒げていたが、持ち直して大きく深呼吸をして顔を上げて再び口を開く。


「お師匠様には返しても返しきれない恩があるし、お師匠様の囲ってみんなが笑顔だったのを取り戻したかった。私は一番下っ端で一番弱いけど」

「それがナフタの信念であり、剣を持つ理由なのだな?その言葉に偽りはないな?」


 ミネルヴァが強めの言葉を投げかける。ナフタは戸惑いの表情を見せるが、再び大きく息を吸って心を落ち着かせる。そして決意を込めて頷いた。

「ナフタに特別に調査許可権を与える。ウェルマ、シェスカ、クラリスの3名も同行しろ」

 ミネルヴァの懐の広さに感服してしまう、たかが研修生の私達に行動する権利を与えてくれるとは思わなかった。

「・・・よいのですか?」

 ナフタが恐る恐るミネルヴァに聞き返す、するとミネルヴァはナフタの両頬をパチンと両手で叩く。

「背筋を伸ばせ!お前の信念に基づいた判断だ、やれるな?」

「・・・はい!!」

 ナフタが背筋を伸ばして大きな声で返事をする。


「失礼します、参謀長にお客様です」

「うす、久しぶりです」


 ここでミネルヴァの執務室にリーリエが入ってくる。そこには見慣れた顔が横に立っていた。

「ジェ、ジェッド教官!?」

 突然の珍客に驚いてしまった、ミネルヴァも意外だったのかジェッド教官を見て驚いていた。

「ん?何だお前ら揃いも揃って?まさか、何かやらかして揃って叱られているのか!?」

 私達4人が集まってミネルヴァの部屋にいた事にジェッド教官が変な勘違いをする。そして今度は私の顔をジッと見ている。

「・・・喧嘩か?相手は誰だ?」

 なぜか私の顔を見て殺気立つ。ナフタにやられた顔を見て勘違いを更に加速させる。

「まったく、タイミングが悪い・・・で、何しに来た」

 ミネルヴァが軽蔑する目でジェッド教官を睨みつける。

「え?何か扱いが雑じゃねえ?あれ?俺が悪いの?」

 周囲の空気に気がついたのか今更になってジェッド教官が狼狽え始めた。


読んでいただきありがとうございました。

明日も投稿します。

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