13.ウェットランド伯爵
「サーニャお姉ちゃん似合う!」
長女サーニャは背が高く体型もスマートなのでどんな服でも似合いそうだ。私が選んだ服を戸惑いながらも着てくれた。
「なんか大人の人っぽい」
エルダも見惚れているみたいだ。サーニャは本当に美人だ、とても10歳とは思えない。ちなみにエルダも見た目はかなり良い、こうして着飾ると2人ともどこかのお嬢様みたいだ。
「どうだ? 決まったか?」
無粋な父サイアムが覗きにやってくる。
「おお…? サーニャか!?」
サーニャを見てサイアムが驚いている。
「凄えな、馬子にも衣装というが、本当だな!」
父よ、それは褒め言葉じゃない。
「うん、エルダもウェルマも似合っているぞ」
私とエルダをついでのように褒める、本当に無粋な父親だ。
「これも!」
私は服をもう一着サイアムに渡す。
「ん? これは大人用だろ?3人には大きすぎるだろ?」
「お母さんの!」
そうミシェルは私達以上に毎日同じ服を着ている、服のサイズは調査済みだから大丈夫なはずだ。
「…そうか、そうだよな、母ちゃんにも買っていこうな」
涙目になりながらサイアムは服を手に取る。私の知る限りサイアムはミシェルに対して何もしていない、正直言って酷いくらいに何もしていない。せめて娘の私達だけでも何かしようと3人で相談していたのだ。
「それでだな。これから領主様に挨拶に行くんだ」
昼食を食べながらサイアムが言いづらそうにしている。
「私も行っていいの? 私が聞いてはいけないお話があるんでしょ? 1人で外で待ってようか?」
サーニャがツンとした返事する。1人だけ除け者にしてたので怒らせたと思ったのかサイアムが狼狽えている、本当に情けない父親だ。
「エルダに色があったんでしょ?」
「し、知っていたのか?」
私達3人でサイアムに冷たい視線を送る。
「バレバレだよ!」
「気を利かせて聞かないようにしてたんだからね!」
「あっ、ケーキ来た!」
私だけ別の方向を向いていたようだ。
「うふふふふ、おいしい」
「…」
みんなで私を見ている気がする。
「ね、言ったとおりでしょ?」
「うん、確かに顔が変わった! 凄い、まるで別人!!」
「うんうん、やっぱりウェルマは可愛いいなぁ」
くっ! また甘いケーキの誘惑の前に私の顔が崩れてしまったのか!? すぐに顔を作り直さないと。
「あら? いつものウェルマに戻った」
「えー、もう終わり?」
失礼な姉達だ、いつもの私ではダメらしい。
食後のケーキを堪能した私達はそのままウェットランド伯爵家の本宅へと向かうことになる。
「公園?」
「いや、これが領主様の家だ」
エルダの質問に答えるサイアムも初めて来たのか口元が引き攣っている。目の前には大きな壁に囲まれた大邸宅が私達を待っていたのだ、壁の中は庭園があって何棟もの建物が建っている。何となく懐かしい、貴族だった頃を思い出してしまう。
「サイアム・ライアン下級騎士、こっちだ」
見覚えのある怖い顔のおじさんが私達を待っていた、確か上官のバラドって人だったかな?
「怖い顔の人だ」
「こら、エルダ」
ボソボソとエルダとサーニャが言い合っている。
「…そんなに怖いか?」
「そ、そんな事はないと思います」
バラドさんは気にしていたようだ。サイアムが気をきかしてフォローするが、私でもこの人の顔は怖い。
「お前の娘か? ふふふ、全員が真っ赤だな」
バラドさんが私達姉妹を見て笑っている、だいたい初対面の人はそう言う。しかも髪型がショートカットで全員一緒なので大中小でしか判別出来ないくらいだ。
「長女のサーニャです」
サーニャは10歳だけど本当にしっかりしていると思う、しっかりとバラドさんに頭を下げて挨拶をする。
「ふむ、とてもお前の娘とは思えないくらいしっかりしているな…どうだ? ウチの小僧と会わせてみるか?」
「いえ、そんな畏れ多い!!」
何とも情けない、嫌ならしっかりと断って欲しい。やはり大人の世界だから上からの命令は断れないのだろうか?
「それではついてこい」
バラドさんに連れてかれて屋敷の中に入る。懐かしい空気だ、広い空間に沢山の装飾品や絵画が飾ってある。
「御当主様がいらっしゃるまでここで待っていろ」
バラドさんがウェットランド卿を呼びに部屋から出て行く、サイアムらは部屋の広さと豪華な品々に恐縮しっぱなしだ。
「この部屋だけでウチより広い」
「凄いね」
確かに我が家より広いかもしれない、
「ザックを連れて来なくて良かったぁ」
サイアムは胸を撫で下ろしている。この場にザックがいたらどうなっていただろうか? 想像しただけで恐ろしい。
「よく来たな」
ここで巨体を揺らしながらウェットランド卿がやって来た、隣にはキツそうな貴婦人も一緒にいる。
「おや? 今日はちゃんとした格好ではないか」
私とエルダを見て和やかに笑う、こんな朗らかな人だったかな?
「はっはっはっ、それに赤髪の娘がもう1人追加で増えておる」
サーニャに視線を移し、大中小が揃っている事に笑いが堪えられないようだ。
「長女のサーニャ・ライアンです」
「ほう、なかなか躾がなっているな」
丁寧な挨拶を受けてウェットランド卿はご機嫌な様子だ。
「旦那様?」
隣の貴婦人がウェットランド卿を睨む、すると肩をすくめて黙ってしまった。
私はこの人に会った事がある。まあ、ベネルネスの時に茶会と夜会で2回ほど話した事があるだけだけど。
「マーリン・ウェットランドよ」
マーリン・ウェットランド伯爵夫人だ、性格がキツくてその威圧的な視線に立ちすくんだ記憶が蘇る。
「…貴女がウェルマ?」
いきなり私を睨む、何で私なの?話題の中心はエルダじゃないのか?
「孫娘のカルリのお気に入りらしいけど…」
ああ、マーリン夫人にとって孫娘の交友関係の方が重要だったか。
「はじめまして、ウェルマ・ライアンです」
3歳児に圧をかけないで欲しい。頭を下げるのでどうか許して下さい。
「マナーのなってないそこらの子供とは違うと聞きましたが、誰かに教わったの?」
どうしよう、前世の知識とは言えない。




