12.ようやく帰宅
「はあ、疲れたな…」
サイアムがボソリと呟く。
「ねえ、みんなには黙っておいた方いいんだよね?」
エルダが不安そうにサイアムに聞く。
「ああ、そうだな、帰ったら母ちゃんと相談する。それからウェルマもみんなに言っちゃダメだぞ」
「うん」
この事を話せば家族がバラバラになってしまいそうで怖い。嬉しい出来事のはずなのに空気が重たくなってしまった。
「あっ、そうだ! ねえ! みんなにお土産買わないと!」
そんな空気を嫌ってエルダが明るい話題を振る、するとサイアムもようやく笑顔に戻る。
「ついでにお前達の服を買わないとな、ところでウェルマは何で公爵様のお嬢様と仲良くなったんだ?」
それは私も知りたい。私はベネルネスの時から人と打ち解けるのに時間がかかるタイプだと自覚している、なので初対面であんなに好かれるのは初めての体験だ。
「分かんない、絵本を見てただけなの」
「うーん、そうかぁ」
サイアムにとってはヒヤヒヤだろうな、下手したら親が責任を取らないといけないからね。
「それにしても、あのメイドさん、滅茶苦茶怖かったな、すっごい睨んでた」
エルダもあの殺気がこもった視線に気がついていたようだ、小さな子供相手にあんな睨まなくても良いのに。
「ねえ、公爵様の家に行かないとダメなのかな?」
はっきり言って私はオマケだ、エルダがお目当てだから私は別に行かなくて良い気がする。
「これを貰っているからな…断れないだろ」
お金の入った袋を私に見せる、確かに断ることは無理だな。
「でも姉ちゃんに悪いかも、私達だけ服を買ったらスネない?」
「うん、私もそう思う」
姉のサーニャだって女の子なんだから、きっと新しい服が欲しいと思う。
「ふう、そうだよな。今度みんなで来て買うか」
思わぬ出費にサイアムの溜息が止まらない。
このままお土産の砂糖菓子などを買い、馬屋に預けてある愛馬ダンダムを迎えに行く。そして私は再び籠の中で揺られながら帰路につくこととなった。
まだ日が明るいうちに集落に帰る事ができた。家に帰るとサーニャが迎えに来てくれ、遅れてミシェルもやって来た。ザックはまだ遊びに行っているようで帰っていないようだ。
「どうだった?」
「ああ、うん、後で話す」
サイアムは隠し事が苦手なようだ、思いっ切り顔に出てしまっている。
「サーニャお姉ちゃん! 私達に服を買ってくれるって! 今度みんなで行こうって!」
話を逸らすべくサーニャに服を買いに行く事を報告する、空気を読んだサーニャが笑顔で反応してくれた。
「服? 何で?」
「私がその、なぜか、偉い人の家の子と仲良くなってしまって、遊びに行くことになってしまったの」
子供の戯言と思っているのだろう、ミシェルもサーニャも信じていないような顔だ。
「いや、それがマジでさ、ウェルマが公爵家のお嬢様に気に入られたみたいなんだ」
「は?」
「本当?」
サイアムが大袈裟に言うからさらに胡散臭くなる。
「いや、マジで」
エルダも加勢し、ようやく信じてもらえたみたいだ。
「ただいま」
ここで泥だらけの長男ザックがようやく帰ってきた、よく見たら服が所々破けている。
「何だよ?」
「…お前の服も買わないとな」
サイアムがザックを見て小さくため息を吐いた。
その晩、何事もなく家族で夕食を終えた。いつも通り水で身体を拭いて寝室に入る。私達は3人で一部屋を使っており狭い部屋に簡素なベッドが3つ並んでいる。
「おやすみお姉ちゃん」
「おやすみウェルマ。エルダも早く寝なよ」
「うん」
いつも通りの姉妹の会話だ、サーニャの号令で一斉にベッドの中に潜り込む、そしてサーニャが灯りを消して部屋は真っ暗になる。
「…エルダ、大変だったんだね」
「え?」
真っ暗な寝室でサーニャがエルダに話しかける。
「…うん、だけど大丈夫だよ」
何となくサーニャは悟っているっぽい。
「そう…でも安心して。エルダとウェルマは何があっても私の妹なんだから」
「…うん」
以降、2人の会話はなくなった。ただ3歳児という私の体が睡魔という敵に抗うことが出来なかっただけで、あの後も2人の会話は続いたのかもしれない。
数日後、みんなで服を買いに行こうとなったのだが、
「嫌だよ! 女の中になんで俺1人行くんだよ!」
ザックが直前で駄々をこねはじめた。まあ、私達は3人いるから平気だけど、男の子はザック1人だからね、気持ちは分からなくはない。
「俺の服は適当でいいや!」
そう言うと逃亡してしまった。
「困った奴だなぁ」
サイアムが情けない声をあげる、
「いいよ、何か適当な服を買ってきて、男の子なんてすぐに汚すから高いやつじゃなくて良いからさ」
ミシェルと抱っこされた弟のウォルフが見送りに来てくれた。今日は3人なので…まさかの愛馬ダンダムに4人乗りはしないようだ。
ダンダムの鞍に荷台が付けられている。まあ、簡易的な馬車代わりなんだろう。
私達3人は荷台に乗り、サイアムはダンダムに乗る。本当にダンダムは偉大なる名馬だ、私達を乗せて軽やかに進み出した。
簡易馬車は道が整備されているのもあって想像以上に乗り心地が良かった。
「前の運搬用の籠よりこっちの方が良かったな」
「ははは、分かる分かる」
私の愚痴にエルダが頷いてくれる。今回、荷台には私達以外に換金用の毛皮や肉が積んである、前回はそれらを籠の中にいれたせいで狭くて大変だったけど、今回はそんな事もないスペースにまだ余裕があるくらいだ。
こうして見るとウェットランドの街は思ったよりも近いみたいで、遠くに大きな城壁が見えてきた。
「実は公爵様からすぐに便りがあったみたいなんだ」
ウェットランドの街に着いてサイアムが苦笑いをする。どうやら一刻も早くエルダに会いたいみたいだな。
「カルリお嬢様が早くウェルマに会いたいと癇癪を起こしているみたいなんだ、はははは」
あれ? 私!?
今日の19時に次話を投稿します。




