114.2人の想いが叶った日
翌日、私は王城へ向かうために準備していた。
「1人で行ける? 本当に大丈夫? ハンカチ持った?お金はある?」
なぜかサーニャが私より緊張している。
「前に行った事があるから大丈夫だよ」
一年前にも行ったし前世の時も行った事があるから問題ない、それでもサーニャは心配そうにしている。
「凄いな、ウェルマは王城に入った事があるんだ。私なんか遠目にしか見た事しかないぞ」
マイナさんが感心してくれる、やっぱり普通の平民は入れないもんなんだ。
「ウェルマ! 迎えに来たよ!!」
ん? 昨日も聞いた声が今日も聞こえる。
「カルリお嬢様!」
サーニャが笑顔で招き入れる、そこには綺麗なドレスを着たカルリが立っていた。
「あ、今日は士官学校の制服なんだ。カッコいいよね、その格好」
「あの……何で?」
普通に私達の輪の中に溶け込んでいるけど何でカルリがここにいるんだ?
「何でって?私の従騎士の未来がかかっているんですから付き添うに決まっているでしょ?」
気が早すぎる、まだ正式に決まった訳ではない。
「よろしくお願いしますねカルリお嬢様」
「やっぱウェルマだけだと心配だったのよね」
サーニャもマイナさんも酷い、どちらかと言えば私の方がカルリよりしっかりしてると思うのだが。
私の意見など通る事なく強制的に一緒に行く事になってしまった、そして外で待っている馬車に向かうと懐かしい顔が待っていた。
「貴方はバーンヘイズ様のお屋敷の執事さんでしたよね? お久しぶりです」
この人は幼い頃に行った時に申し訳無さそうに私達姉妹を送り出した執事さんだと思う。
「覚えていて下さったのですね。はい、バーンヘイズ邸にてウェルマさん達を送り出した者です」
深々と頭を下げられてしまった、慌てて顔を上げてもらう。
「よく覚えていたわね?」
サーニャに耳打ちをされる、どうやらサーニャは覚えてなかったようだ。
「あら? 今日はいつもの目つきの悪い侍女ではないのですね?」
マイナさんが笑顔で棘のある言い方をする、すると執事さんは苦笑いを返すしかないようだ。
「ジェマは来させません、使用人の身でありながらお嬢様の従騎士の人事に口出しましたからね。身の程を弁えるようにと謹慎処分となってます」
「まあ、そこまで増長してたのですね」
マイナさんが涼しい顔をしているが私はドン引きしている、いくら専属従者でも主の決める人事にまで意見するのはダメだろ。
「その、実はここだけの話ですが……エルドラゴン公爵様の御息女様がいたにも関わらず、士官学校の生徒さん達と同じように侮蔑したという話です。エルドラゴン様より苦言が呈されて、その犯人がジェマだと判明したのが大きな一因です」
エルドラゴン公爵家の御息女? オリヴィエの事か!? 振り向いてカルリを見ると物凄くニコニコしている。
「あの、まさか?」
「うふふふ、士官学校のみんなを馬鹿にした罰よ。私の願いを聞き入れて苦情を入れてくれるなんて、本当にオリヴィエ様って素敵よね!」
カルリの暗黒面を初めて見た!?
「さあ! 行きましょう!!」
カルリに手を引かれて馬車に乗り込む。
幼い頃からこの光景は変わらない。
カルリが私の手を引いて先を歩く、私達の関係はこうやって始まったんだ。
「後で王子様と王女様を紹介するね」
「それはダメですね」
私が即答するとカルリは不思議そうな顔をしたまま固まる。
「私がカルリ様の従騎士をする理由はなんでした? 王家に負い目を持たせて好き勝手させないという意思表示ですよ」
「あ、そうか! うーーん、あの2人は私達の味方だと思うんだけどなぁ」
それに私のような平民が王族と会うなんて、ロクな事にならなさそうだ。
「到着しました」
執事さんが声をかけてくれる、馬車のドアを開けてもらい私が先に降りてカルリをエスコートする。
「うふふ、夢みたい」
「残念、私は女ですよ」
2人してニヤニヤしてしまう、取り敢えずお互いのニヤケ面を直してから王城へ入る。
私達2人が思い描いた光景がまさか現実になるなんて思いもしなかった。
「研究施設って王城の外れにある大きな建物だよね?」
「はい、知っているのですね」
前を歩くカルリが声をかけてくる、どうやら場所は知っているみたいた。
「ねえ、ところでウェルマは何で私の後ろを歩いているの?」
「それは立場を弁えないといけないからです、公的な場所なので特に気をつけましょう」
後ろからでも不機嫌そうに頬を膨らませているのが分かる、だけどこんな所で2人で横に並んで歩いていたら変な噂がたってしまう。
ただ不機嫌そうなカルリだが歩く後ろ姿はどこか軽やかで、長い髪がリズムを刻むように揺れている。そういう私もなぜか足取りが軽くなってしまう、こうやってカルリの後ろを付き従うだけで幸せな気持ちで満たされていく。
渡り廊下を抜けて一度外に出る、目の前には大きな建物が見えてきた。
「ごめんください」
中に入って声をかける、すると白衣を着た助手さんがやって来た。
「ウェルマさん!? 目覚められたのですね、本当に良かった」
この助手さんは以前の実験の時にいた私と同じ無色の人だ。
「ありがとうございます、ご心配をおかけしました」
「どうぞ、所長がお待ちです」
助手さんに案内されて奥へと進み、すると前と同じ実験室に通された。
「ああ、カルリ様にウェルマさん、いらっしゃいませ。準備をしてますので少しだけお待ち下さい」
今度はアカデミー生徒だったレミオが会いにきた。
「そう言えばレミオさんはなぜここに? 前も病院にマクウェル様と一緒にいましたけど?」
「あ、ウェルマさんは眠っていたから知らないんですね」
レミオとカルリが顔を見合って笑っている。
「アカデミーはまだ全館閉鎖よ。前回の時に色々とやらかしてしまったからね。今も大掛かりな捜査が入っているみたい」
そんな大事になっていたのか、それでは地方から来ている人は大変だ。
「だから僕はマクウェル様にお願いしてここで勉強しているんだよ。知り合いの何人かは士官学校に勉強をしに行っているよ、さすがに訓練をやるのは無理みたいだけどね」
それでマクウェル卿の下にレミオがいるのか。
「あら? でもレミオさんは料理人になりたかったのでは?」
実家がレストランと聞いていたし、授業後に大衆レストランで働いていたのはその為だと思っていた。
「ははは、あれはアカデミーに僕の居場所がなかったからだよ。貴族の奴らは当然で、平民の魔力持ちの奴らまで紫色の魔力を馬鹿にされていたからね。だから別に親のレストランを継ぐとかは考えて無くて、将来的に新しく自分の店を持てればくらいに軽くは考えていたけどね」
私には理解が難しい考え方だな、ずっとレミオが調理人になりたくて努力しているのかと思っていた。
「ただマクウェル様に出会えて考え方が変わったんだ、傷を癒したり、敵を倒すのだけが魔法じゃないって教えてくれた。僕の人生をこんなに変えてくれる人がいたなんて思いもしなかったよ」
さっきと打って変わって希望に満ちた表情をしている。マクウェル卿のような人が誰かの将来に影響を与えるなんて思いもしなかった。
「うふふ、良かったですねマクウェル様」
「え!?」
カルリが嬉しそうに声をかけ、レミオが慌てて振り向くとマクウェル卿は氷のような冷たい顔をして立っていた。
「貴様、いい加減にしないと本当に強制送還するぞ?」
「もももも、申し訳ありません!!!」
読んでいただきありがとうございました。
明日も同時刻に投稿します。




