表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/228

1.私が失いたくないものは

新作です。

どうか優しい目で読んでいただけるとありがたいです。


 私の人生は良いものだったと言えるだろうか?


 大国エルバニア王国の侯爵家に生まれ、18の時に婚約者の男性と結婚した。

 結婚相手はエルバニア王国で8つしかない公爵家のうちの一つグランマーレ公爵家の嫡男で、世間からは「冷徹」と呼ばれるアルバレス・グランマーレだ。口数は少なく表情はほとんど変わらず、笑っている姿を一度も見た事がないのがその名の所以(ゆえん)だ。


 ある人は私に同情的な視線を向け、ある人は私を嘲笑うような顔をする。ただ私もほとんど笑わないし口数は多くないので似た者同士だったと思う。

 政略結婚だったし、世間から私達は愛のない仮初の夫婦だと思われていただろう。


 私が20の時に念願の子供を授かった、嫡男となる男の子だ。周囲は大喜びで浮かれていた、一方の私は周囲の歓喜をよそに公爵家に嫁いだ責務に応えられた事に安堵していた。

 そして私達夫婦が表情を変えずに平然としていたので周囲は不思議がっていた。私としてはかなり喜んでいた、しかし周囲からしたら全然嬉しがっているように見えなかったようだ。そして夫のアルバレスも相変わらず表情を変えなかったが、口元が少しだけ上がっていたのを私は知っている。


 何も知らない周囲の人は冷たい男だと陰口をたたいていた。だけど私は10代で婚約し、結婚して2年3年と一緒にいるのでアルバレスという人は感情表現が苦手なだけで、とても理解があり、さりげない心遣いの出来る人だと知っていたので周囲の言葉など気にも留めなかった。


 そしてその1年後には2人目の子供を授かった、今度は可愛らしい女の子だ。

 女の子が生まれたのを一番喜んだのがグランマーレ家の義父母だった、夫のアルバレスを含めて男子家系だったので義母様は特に喜んでくれた。毎日のように会いに来て子供達を愛でてくれる。私の事も気遣ってくれてとても褒めてくれた、あの時は本当に嬉しかった。


 子供達はすくすくと成長し、日々大きくなっていく姿に目を細めていた。

 第一子の嫡男アレクシスは父アルバレスに似て端正な顔立ちをしており頭も良くて将来が楽しみだ。

 第二子の長女アニスは残念な事に私に似てしまったのか、表情が堅く人見知りが激しかった。身内には笑顔を振り撒くが、他人を前にすると表情を一切変えずに黙ってしまった。その姿がまるで幼い頃の自分を見ているようで恥ずかしくなる。

 だけど2人とも健康に問題もなく、頭も良さそうだし、見た目も非常に良いので一安心だった。


 その頃が幸せな絶頂期だったかもしれない…



 だが不幸は突然にやってきた。



 心臓が脈打つのが日に日に弱くなっていくのを感じ、身体に力が入らなくなっていく。


 それは巷で流行っていた原因不明の病だった。


 病が感染る可能性があるので子供達と会う時間は限られ、子供達の成長より自分の身体が弱って行くのだけが実感できた。

 多くの名医や治癒魔法の名手に診てもらい、様々な治療法を処置されたが、良くなる気配は一切なかった。とある名医の話では不治の病で、現段階で治す手段が無いと最終宣告までされてしまった。


 その後、私の闘病生活は2年目にも及んだ。


 私の身体は痩せ細り体力は衰えていく、逆に子供達は日に日に大きくなっていく。

 長男のアレクシスは幼いながらに気丈に振る舞い、兄として妹のアニスを一生懸命に支えている。アニスも私の前では笑おうと必死に笑顔を取り繕っている。

 まだ8歳と6歳の子供に悲しく辛い思いをさせてしまった。


 この頃になるとベッドに寝たきりになり、歩く事も体を起こす事さえも出来なくなってしまった。

 命に終わりが近づきつつあり、残された時間が少なくなってくるのを悟ってしまう。

「アレク  アニス   顔を見せて」

 数少ない子供達と会える日だ。もしかしたら今日で最後かもしれない、そう思うと2人の愛すべき子供達の顔を焼き付けておきたい。

 私を覗き込む2人の顔には不安と悲壮感に溢れている。

「アレク、貴方は偉大なるグランマーレの血を受け継ぐ者です。そのような弱い姿は見せてはいけません」

 アレクの頬をつたう涙を拭う。


「涙を拭いなさい、お父様の背中をよく見て強くなりなさい。貴方がグランマーレなのですから」

「は、母上! 僕は、僕は」


 感情が決壊したのか、大粒の涙を落としながら私に何かを訴えようとしている。だけど私は笑顔でその先を遮った、今思えば本当に酷い母親だと思う。


「アニス、貴女には一杯教えたい事があったのに、一緒に色々にやりたい事が沢山あったのに」

「お母様、お母様、お母様!!」


 淑女とは程遠い姿を晒している、涙をこぼしながら私にしがみついている。

「今はまだそれでも良い、ですが貴女には気高く気品あふれる淑女となって欲しい、貴女は私と一緒で表情が固いので心配です」

 私の言葉は耳に入っていない、突っ伏したまま大泣きしている。

「そろそろ面会時間を終わりましょう」

 執事のセバスがアレクシスとアニスに立つように促す。2人とも聞き分けよく立ち上がる。本当に素直で良い子供達だ。

「…セバス、どうか、どうか2人をお願い、2人を良き道へと導いて」

 2人とも執事のセバスに懐いている、彼は私がグランマーレ家に嫁ぐ前から仕えている古株だ。セバスなら2人を良き道へと導いてくれるだろう。

「奥様…」

 複雑そうな顔で私を見る、

「弱気はなりません。どうか心を強く持って下さい」

 諦めつつあった私を激励するような言葉をかけてくれる。こうして叱咤激励してくれる人が近くにいるのは良い事だ。


「…旦那様は?」

「公務でございます」


 セバスが悲しそうな顔をする。

「そう  さすがは旦那様です、どうか私の事で気に病むことのないように配慮して」

「はい…」

 セバスの返事を聞くと目を瞑る、身体が怠くてすぐに意識が遠くなっていく。



「ベネルネス」


 これは夢の中だろうか?目を開けると旦那様…いや夫のアルバレスが私の手を握っている。

「ふふふ、久しぶりですね。私の名前で呼んでいただいたのは、アルバレス様」

 良い夢のはずなのに何でそんな悲しそうな顔をするのだろう。

「いけません、アルバレス様にそのような顔は似合いませんわ」

 手を伸ばすと私の手を握る、その手に暖かな温もりを感じる。


「申し訳ありません…」

「謝るな、謝らないでくれ」

 涙を堪えている顔など初めて見た、気高く強く美しい顔が悲しみに染まっていくのに胸が苦しくなる。


「愛してます、アルバ 最後に会えてベネルは幸せです」

「ベネル!!」


 私の幸せな夢はこれで途切れてしまった。

 私の愛する家族達、私の誇りであったグランマーレ家、どれもこれも全て失いたくない私の全てだ。

 どうかみんなが健やかであるように願い、私は深い眠りにつく事にした。

 


「氷の貴婦人」ベネルネス・グランマーレ。


 グランマーレ公爵家夫人。

 28歳の若さにして永眠。



読んでいただきありがとうございました。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] エッセイから飛んできました うん ふつーに書けてると思いますけど。 事情もよく分かりますし 特に 「謝るな、謝らないでくれ」のシーンは良かったです 特にこれと言って治すところも無いよ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ