ポーズを決めて
こんばんは
もしかして、おはよう?
それともまさか、こんにちは?
人によって眠りにつく時間はさまざまです
だけど、これを聴いてる人には、共通のあいさつがあります
『おやすみなさい』
そうですよね?
あなたは眠りたいのに眠れないから、
退屈な朗読を期待して、
これを聴いてくださってるのですよね?
まずはそれを意識しましょう
あなたは眠りたいのです
でも、眠れないのです
とはいえ、問題を解決しようみたいな考え方はお捨てください
力を抜いて
へにゃへにゃになってください
ねこや
いぬや
フェレットが
何度も体をひねって寝心地のいい姿勢を探すように
何度も
何度も
もぞもぞしてください
そのうち
落ち着ける姿勢が
やって来るはずです
左をむいて
ダメなら
右をむいて
それでもダメなら
真上をむいて
落ち着かないなーと思ったら
うつぶせという手もありますよ
腕の位置は決まりましたか?
膝を抱いて丸くなるもよし
だらんと投げ出すもよし
顔の下に敷いて枕 on 枕にするもよし
私は何も命令しません
あなたの好きな姿勢になればよいのですよ
姿勢は決まりましたか?
決まったひとはそのまま
まだ決まらないひとは、落ち着く姿勢を探しながら聴いてくださいね?
さぁ
眠りに入りましょう
渦巻きをイメージしてください
中心にむかって、ねこの毛みたいに柔らかい白い線が、シルクみたいな夜の中、
ぐるぐる
渦を巻いています
さぁ
そこに向かって
引き込まれて行きましょう
ぐるぐる
ぐるぐる
ぐるぐる
ぐるぐる
すうー
すうー
すうー
すうー
入って行きます
入って行きます
あなたは眠りの世界の中へ
入って行きます
私はそれを邪魔しないように
とても退屈な詩を朗読してあげましょう
詩のタイトルは……
うーん何にしよう
あんまり面白いと邪魔してしまうし……
よし
決めた
タイトルは『筋肉のほつれ』です
では行きます
しいな ここみ 作
『筋肉のほつれ』
こわばっていた 筋肉が
だんだんと 筋肉ではないものに 移り変わって行く
とても固かった あなたのアレが
ゼリーみたいに とろとろなものに なって行く
筋肉は 今はなくなってしまうけど
不安はない
起きれば すばらしい筋肉が
またムキムキと
立ち上がるのだから
それまで おやすみ
今は 休息の時
炎のようだった戦士も
水のようにからだを横たえて
匂いのない白鳥を その上に休ませて
綺麗な世界
クリーンな世界
汗臭い筋肉も
そんなに汗臭くない筋肉も
今は平等
ひょろひょろ男子の筋肉だって
マッチョ女子の筋肉だって
今は平等
だから不安もない
誰もがみんな 同じものなの
他人との違いなんて 今はどこにもないの
ほつれていく 世界の筋肉
世界樹の根のたもと 集まって行く
思わずしたためる俳句
眠りゆく 人流れ着く 筋肉さん
思い出す
ゆうべ二時間しか 寝とらんぜ
私は社会の エトランゼ
赤子産まれて チアノーゼ
やめて そんなの 言わないで
不安は 社会の 迷惑で
クリーンアップで 消去だぜ
いらないものを 洗い出せ
文化ぼうきで 掃いて出せ
そろそろ脚韻 飽きてきて
鐘が鳴る鳴る かねなり法師
もう聞こえない ツクツクボウシ
忘れ去られた 誰かの帽子
壁のポスター 犯罪防止
荷馬車に揺られて 売られる子牛
それを見送る イケメン王子
私は一人で トイレの掃除
あなたは はしゃいで 勤労奉仕
筋肉 起きれば みなぎる闘志
だから それまで おやすみ坊や
脚韻 途切れて あなたはもう 夢の中
ランラララン
ランラララン
夢の国
ケシの花咲く
夢の国
『いっ』『きゅう』『さん』
『にく』『きゅう』『さん』
『さん』『きゅう』『さん』
『よっ』『きゅう』『ふまん』
『ごく』『ろう』『さん』
あっ
これhiphopかも?
なんて言ったら
あの人に叱られる
さて
寝ましたか?
もう寝ました?
私はまだです
眠れません
どうしよう
明日も仕事なのに
なんて不安になること
考えちゃだめなんです
何も考えないようにしましょう
でも
人間って
何も考えないことが
とても難しい
なんてことを考えたらだめです
よけい眠れなくなってしまいます
あー
あーあーあー
意味のないことを頭に描く
意味ってなんだっけ
心に関係あることだっけ
頭がよくないのでわかりません
さて
ポーズが決まったので
私そろそろ眠れるはずです
頑張って
いや頑張ったらだめだ
力を抜いて
力を抜いて
元々バカな頭をもっとバカにして
おやすみなさい
おやすみなさいは魔法のことば
昔ママにそれを言われたら
もう寝るしかなくなった
おやすみなさい
おやすみなさい
明日は
きっといいことありますよ
こどもの頃のように
おやすみなさい