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運の命と書いて運命。そんなものはドラマや漫画の中でだけで使われる便利で都合の良い言葉。男女の出会いだとか、何でもかんでも後付けしてやればいい。
そういうものだと考えていたけれど、存在するというのなら。思えば、平凡な私が王女となった時点でそれは尽きていたのかもしれない。
10歳になった時だ。漸くというか、お姉ちゃんが結婚した。私は嬉しかったのと同時に、別の涙を流した。夜な夜なアレな声は聞いたことがあったからそうなんだろうなとは思っていたけど、くっつくまでは私にもチャンスはあるのかなってずっと思ってたから。いや、結婚しなかったらしなかったで、その可能性は私の方からお断りか。
「おめでとう」
私は心からそう言えただろうか。私の目はちゃんと二人を祝福しているだろうか。眩しさで目を細めていないだろうか。
結局私はお姉ちゃんにはなにも敵わないままだ。憧れの存在、ああそういえば、前にもそんな人がいたような、その人にも勝てなかった。
それともう一人。あれは特別と、人づてに聞いた。特別というよりは特殊と言った方がいいか。その子とはあれッきりだ。何故今になって思い出した。
15歳、私は成人扱いとなる。この国は私のお母さんが初代女王、つまりは国を興した人物で、王であるお父さんではなく、女王が主となっている。その後を継ぐのは当然、第一王女であるお姉ちゃんのはずであったが。
「本当はあの子が女王になるはずだったんだけどね、どうも向いてないから私がなったのよ。お転婆で、それもあなた以上の。今もしょっちゅう国にいないでしょ?でね、次はあなたにお願いしたいの」
心の中は凄い歓喜だった。屋台が出揃うお祭り騒ぎで間違いなし、お姉ちゃんに勝てるものがやっとできた。お姉ちゃんもおにいちゃんも喜んでくれる。私に大役が務まるかなんて不安は、二人が支えてくれる、その言葉でどこかへ飛んでいった。
でも他にもあった。女王となる以上、世継ぎを残すため、相応しい相手との結婚だ。お姉ちゃんが大分行き遅れな年齢で結婚し、まだ子供もいないから気長に待つと母が、私も焦ることはないとは言われていた。けど問題はそこじゃない。相手が問題だ。だって私にはまだ好きな人がいるから、どうしても諦められないから。軟派で不誠実な人間であったならどれほど良かったか。
私はあの日初めて見た。うちには、夜になると怖く見える人形があって、でも昼間はとても可愛いもので、その小さな手みたいな自分の手、私がこの世で生を受け初めて見たもの、そして青い瞳の彼。その笑顔に私の真ん丸な瞳が吸い寄せられた。刷り込み、という言葉ある。正しくそれだ。私の心にきっちり刷り込まれたその笑顔が、今も張り付いて離れない。言い換えれば一目惚れだ。
「センカ様、御目通りが叶いまして至極光栄に」
センカ、前と同じで花を名に、これが私の今の名前。かつての名は父さんが、この名はおにいちゃんが。二人と同じ男が女の前で跪き震わせる、その唇で発せられたことが酷く不愉快。
この一年間、謁見と称して、数多の男を見てきた。媚びを売ることしかしない、つまらない男ばかりだった。漫画雑誌のグラビアなんか見てデケーとか言って、クラスでバカばっかりやってた男子の方がマシだと言えるレベル。こんなだから初恋もこっちで終わらせた。うんざりするような変化が多かったが、喜ばしいこともあった。
叔母になった私は先に女王位を授かることを決めた。その子が大きくなるまでの繋ぎとして。私の頭の中から結婚という二文字は消えていた。
更に月日が流れ、その日が来た。この世界には乾季は無いが、雨季に近いものがある。普段滅多に雨が降らないのだから乾季ではとは思うが、乾くほどではないから、ということらしい。その辺の考え方は今でも良く分からない。とにかく、いつもと変わらない青が行き届いた空だ。
場所は二人が結婚式を挙げた城の奥深く、何でもここで二人が最初に結ばれたのだとか。だから私にとって、女王となるのにこれほど相応しい場所はない。未練と引き換えに、私は女王になるのだ。
王冠というものは無く、ただ母の言葉により、私は王位を継承した。目蓋の裏に映る白い光と拍手に包まれ、その盛大さが消えた後、ゆっくりと目を開けると、そこには「彼」がいた。
「お待ちしておりました。では、私と共に参りましょう。――――様」
彼が何を言っているのか脳どころか、耳に入ってこない。私の瞳を照らすのは、笑顔の太陽ではなく、月のような柔らかな笑み。お姉ちゃんそっくりの胸を貫くのは赤い瞳。
私はその時初めて、運命という言葉を受け入れた。
打ち切りではなく、このお話はここでおしまい。読んでいただき、ありがとうございました。
さ、さんぶ書くか(まだ書いてない)