第八話 スキル検証と呪いのミサンガ
【疫病神】スキルの検証をすると決めた私は、ひとまず安全な場所をということで、コマリちゃんと一緒に外へ向かった。
……けど。
「検証って……どうすればいいんだろう……」
森の近く、ただ一面雪化粧された真っ白な広場で、私は立ち尽くしていた。
不幸と疫病を呼び寄せるスキルって、どうすれば試せるの……?
「うーん? とりあえず、どばー! って思いっきりスキル使ってみるのはどう?」
「そ、それは流石に危ないよぉ……」
まともに制御出来たこともないのに、それを解き放ったりなんてしたら何が起こるか分からない。
下手すれば、今この地域一帯を襲ってる大寒波だって私のせいかもしれないのに……。
「じゃあ、何か小さなものにスキルを込めてみるとか? ほら、さっき見つけたお守りも、おかーさんに編んで貰いながら、私がスキルを込めて作ったんだよ!」
えへへ、と笑いながら、腕に結んだミサンガを見せてくれる。
確か、コマリちゃんのスキルは【地母神】、幸福と豊穣をもたらすスキルだったよね。
その力が籠ったお守りなら、本当にご利益がありそう。
それと同じ物を私が作ったら……。
「……不幸を招く呪いのミサンガになりそう……」
ずずーん、と肩を落としながら、溜息を溢す。
下手したら、作ったが最後捨てても捨てても戻ってくるとか、そんな恐ろしげな物が出来ちゃうんじゃ……うぅ、考えただけで怖くなってきた。
「捨てても戻ってくるミサンガ!? なにそれすごーい! 作って作って!」
「い、いや、出来ると決まったわけじゃないよ……?」
まさかの反応に、私はたじろぐ。
コマリちゃん、怖い物知らずだなぁ……でも、お陰で私もやってみようって勇気が湧いて来た。
「よしっ、やるぞー……!」
ひとまず、そこらへんの雪を掘り起こして石ころを用意し、そこに力を込めてみる。
スキルの力を抑えるんじゃなく、何かに向かって使うなんていうこと自体初めての経験だったから、最初は戸惑ったけど……次第に慣れて、ちょっとずつ込められるようになってきた。
よし、この調子で……。
「……あれ?」
そう思っていたら、石ころが風化するようにサラサラとした砂に変わり、風に乗って飛んでいってしまった。
……ど、どういうこと!?
「も、もう一度……!」
再び雪の中に手を突っ込み、取り出した石ころにスキルを込める。風化。
もう一度。今度は粉々に砕けた。
もう一度。風化。
もう一度。粉砕。
風化。粉砕。風化。風化。粉砕。風化。風化。粉砕……。
「コマリちゃん、期待に応えられなくてごめんね……私、呪いのアイテムすら作れなかったよ……」
さっきよりも一段と暗い影を背負いながら、深く気分が落ち込んでしまう。
無機物相手に力を使うと壊れるか腐り落ちるっていう新事実は発覚したけど、正直全然嬉しくない。こんなのどうやって使えばいいの……?
すると、「うーん」と何やら考え込んでいたコマリちゃんが、ポンと手を叩く。
「そうだ、じゃあ今度は私の時みたいに、編み物しながら込めてみようよ! それなら上手くいくかもしれないよ!」
「ええっ! でも、私のスキルを調べるためだけに糸を無駄にするなんて……」
「大丈夫、無駄なんかじゃないよ! ずうっと使わずにいるより、シルフィに使って貰った方がおとーさんもきっと喜ぶから!」
「お父さん……?」
さっき、ミサンガを編んでくれたのはお母さんだって言ってたけど、お父さんが糸を作ってるのかな?
そもそも、ここに来てから一度もコマリちゃんの両親を見ていないような……まさか……。
そんなことを考えている間に、場所は再び家の中へ。私が寝泊まりさせて貰っていた部屋はベッドが壊れて使えないから、コマリちゃんの部屋だ。
「持ってきたよー! これで動くミサンガ作ろう!」
「あ、うん……」
目的が変わってるような……桃色の毛糸玉を渡されながらそんな風に思うけど、コマリちゃんが楽しそうだからまあいいかと思い直す。
私が役に立ちたいのは、コマリちゃんだから。コマリちゃんが楽しんでくれるなら、それでいい。
……だからって、呪いのアイテム作りで盛り上がられるとこう、ちょっと複雑だけど。
「それで……ええと……」
両手にそれぞれ編み針と毛糸玉、目の前にはワクワクが止まらないコマリちゃん。
すぐにでも作ってあげたいのは山々なんだけど……その……。
「わ、私……編み物、したことなくて……どうすれば……」
「あ、そうだったんだ。じゃあ、私が教えてあげるね!」
「えっ……」
コマリちゃん、編み物出来るの……!?
いや、その、バカにするわけじゃないんだけど、意外というかなんというか……。
そんな言い訳を並べているうちに、コマリちゃんは自分用の編み針を用意し、目の前で実演してくれた。
「これをね、こうやってね……」
「こ、こう……?」
ある意味予想通りというか、コマリちゃんはあまり編み物は上手じゃないみたい。指先の動きが辿々しくて、見てるとハラハラする。
でも、やり方だけは何となく分かったからその通りに進めてみれば、ひとまず少しずつ形にはなり始めた。
「うん、そんな感じ! 後はそれをしながらスキルを込めるんだよ! こうやって……むむむ~!」
「なるほど……? むむむ……」
コマリちゃんと並んで、覚束ない指使いでスキルを込めながら編み進めていく。
ルンさんはご飯を食べた後、一人で狩りに出掛けていったから、今この家にいるのは私達だけ。
しっかり教えてくれる大人もおらず、ああでもないこうでもないと話し合いながら行う作業は遅々として進まない。
でも、それだけゆっくりとやっているのが良かったのか、さっきの石ころみたいに風化することもなく。
何時間もかけて、どうにかミサンガを編み上げることが出来た。
「や、やった……」
ふう、と大きく息を吐き出し、出来上がったそれを眺める。
正直、初めて作っただけに出来映えとしては凄く悪い。腕に結べなくはないけど、すぐに切れちゃいそう。
それにこう……私のスキルを込めたせいかな? なんだか不穏な気配みたいなものが漂ってるし……。
うーん、途中から、私のスキルの検証って建前をすっかり忘れて没頭しちゃってたけど、本当に呪いのアイテムになっちゃったんじゃ? どうしよう、せっかく作ったけど捨てた方がいいかな?
「私もでーきたっ!」
悩んでいると、コマリちゃんもミサンガが完成したらしい。
私と同じく出来映えとしては微妙なんだけど、コマリちゃんのスキルのお陰か、どこか温かい気配が漂っているそれはキラキラと輝いて見える。
わあ……きれい……。
「えへへ、はいシルフィ」
「え……?」
ちょっと見惚れていたら、コマリちゃんは出来上がったそれを私に差し出してきた。
戸惑う私に、コマリちゃんはにこにこと笑ながら口を開く。
「これ、シルフィにあげる! 初めて全部自力で作ったから、大事にしてくれると嬉しいな!」
「は、初めてだったんだ……それなのに、貰っちゃっていいの?」
「うん! その代わり、シルフィの作ったそれ欲しい!」
「えっ!? こ、これはダメだよ、コマリちゃん呪われちゃうよ!?」
思わぬ申し出に、私は慌ててミサンガモドキを隠す。
こんなに不気味な気配がするもの、よく欲しがれるね!? もしかして、気付いてない!?
「えー、だって呪いのミサンガってなんかカッコいいし! お化けとか寄ってきたりするのかな? もしそうだったら楽しそう!」
「お、お化け!?」
サーッと血の気が引いていく私とは対照的に、コマリちゃんはワクワクを隠しきれない様子で笑う。
な、なんでそれで楽しめるの……? コマリちゃん、すごすぎるよ……。
「ダメ?」
じーっ、と桜色の瞳に見つめられ、私はたじろぐ。
これを断るなんて私には……で、でも、流石に呪いのアイテムをそのまま押し付けるなんてコマリちゃんが危ないし……そ、そうだ!
「わ、わかった! ちょっと待ってね!」
コマリちゃんに呪いのミサンガを渡す前に、それを手の中で思い切り握り込む。
私のスキル【疫病神】は、不幸を"招き寄せる"力だ。
なら、一度ミサンガに込めた呪いを吸い上げることも出来るかもしれない。
「シルフィ??」
「……うん、よしっ。これでいいよ、はい、コマリちゃん」
「?? ありがとう」
今私が何をやっていたのか分からなかったのか、困惑の表情を浮かべるコマリちゃん。
いくら頼まれたからって、明らかに呪われてそうな物をあげるのは悪いからね。気付かれずに成功して良かった。
「えへへ! 見て、シルフィ、お揃いだね!」
「うん……!」
コマリちゃんが空いてる方の腕に、私もミサンガを結びつける。
誰かとお揃いなんて、これまでだったら気味悪がられて終わりだったのに……こうして実際にやってみると、想像以上に嬉しい。
なんだか、友達みたい……なんて。えへへ。
「よーし、せっかくだから、他にもいろいろ作ってみよーよ! マフラーとかどうかな?」
「えへへ、そうだね。外に出ても寒くないように……作ってみよっか」
コマリちゃんもそうだし、ルンさんも……外に出る時、あまり防寒着を着てなかった。多分、持ってないんだと思う。
それをたくさん用意出来たら、少しは助けて貰った恩返しになるかもしれない。
「よーし……頑張るぞー……!」
気合を入れ直し、再び作業に入る私達。
けどコマリちゃん、もう物にスキルの効果込めたりしないから、呪いのアイテムとか期待しないで。そんなにキラキラした目で見られても、こればっかりはダメだから!
呪いのアイテムは中二心をくすぐる。たぶん
次回、「マフラーと二人のおでかけ」