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第七話 初めての食卓

「ぐすっ、うえぇ……どうしてこうなるのぉ……! やっぱり私、ダメな子だ……!」


 今日から頑張るぞと気合を入れた傍から、大事なベッドを粉砕してしまった私は、盛大に泣きじゃくっていた。

 いくらなんでも、これは酷い。


「いや、シルフィのせいってわけじゃないよ。ほら、元々古くなってたから、そろそろ作り直さなきゃって思ってたところだし……」


 ルンさんがフォローしてくれるけど、スキルの力を知っているとどうしても全部自分のせいに思えてならない。というより、タイミングからして絶対そうだ。


「おおーーー!!」


 そんな風に落ち込んでいると、ベッドから落ちたせいで無理矢理起こしてしまったコマリちゃんが突然大声を上げた。

 どうしたのかと目を向ければ、砕けたベッドの残骸から何やら桃色の毛糸で出来たミサンガのようなものを拾い上げ、頭上に掲げている。


「見て見てー! 壊れたベッドから、失くしたと思ってたお守り見つけたよー! えへへ、これずっと探してたんだー! シルフィ、ありがとね!」


「ええと……ど、どういたしまして……」


 私の手を取って、ぶんぶんとご機嫌そうに振り回すコマリちゃん。

 その笑顔に照らされて、スキルのせいで曇っていた私の心も少しだけ晴れた気がした。


 本当に……良い子だな、コマリちゃんは……。


「ふふ……さて、ひとまず片付けは後にして、みんなで朝ご飯食べようか。シルフィは昨日ほとんど食べてなかったし、お腹空いてるでしょ?」


「そ、それは……」


 ルンさんの指摘にしどろもどろになっていると、きゅう、と気の抜けた音が私のお腹から響いた。

 何も言えず真っ赤になっていると、ルンさんだけでなくコマリちゃんまでにこにこと笑顔を浮かべられてしまう。


 うぅ、恥ずかしい。


「こんな季節だからあまり凝ったものは作れないし、口に合うかは分からないけど……」


「い、いえ、食べさせて貰えるだけで凄く嬉しいです!」


 そんなやり取りを交わしながらテーブルに着くと、ルンさんが用意したのは干したお肉や果物をお湯で戻したスープだった。

 言葉通り、季節柄ちゃんとした調理をするだけの食材も調味料もないんだろう。シンプルな塩味だけのスープだったけど、ずっと食べてなかった私にはそれが食べやすくてちょうどよかった。


「おいしい……」


「えっへへー、でしょー? おねーちゃんは料理上手なんだよ!」


「なんでコマリが自慢してるのさ。というか、僕が上手なんじゃなくてコマリが下手なんでしょ」


 ドヤッ、と胸を張るコマリちゃんに、ルンさんが苦笑混じりのツッコミを入れる。

 それに対して、コマリちゃんは心外だとばかりに頬を膨らませた。


「むむーっ、下手じゃないよ! ただちょっと失敗しただけで!」


「干し肉作ろうとしてたのに、塩漬けの工程まるっと忘れてただの腐った肉にしそうになったのはちょっとじゃないと思うんだ」


「途中で思い出したからセーフだよ!」


 ぷんすこと怒るコマリちゃんに、そんな妹に呆れつつもどこか微笑ましそうなルンさん。

 姉妹同士の気の置けないやり取りにくすりと笑みを溢していると、頬を膨らませたコマリちゃんの目が私の方を向いた。


「ねえ、シルフィはどう思う!?」


「えっ、えーっと、み、見てないからなんとも……」


「あ、そっか。じゃあ、今度一緒に作ろうよ! シルフィと一緒ならきっと楽しいよ!」


「ふえ!? で、でも、私が触るとスキルのせいで腐らせちゃうし……」


 コマリちゃんの申し出に、私は俯き加減でそう答える。


 私の【疫病神】スキルは不幸もそうだけど、疫病……つまり、集団で感染ないし罹患するような病や毒を司り、呼び込むスキルでもある。

 食中毒なんてその最たる例だし、だから私は出来るだけ料理には関わらないようにしてきたんだ。


 そんな話をすると、ルンさんは少し考える素振りを見せながら問いかけて来た。


「ねえ、気になったんだけど、シルフィのそのスキル、効果範囲はどれくらいなの?」


「こ、効果範囲ですか?」


「うん。不幸や疫病を呼び込むって言っても、範囲無限ってわけじゃないよね? もしそうなら世界中みんな病気になるはずだし」


「それは……そう、ですね。ごめんなさい、そういうの、私にも分からなくて……」


 言われてみれば、確かにこのスキルにも何かしらの制限や限界はあるはずだ。

 周りを不幸にしてしまうっていう効果のデメリットにばかり目を取られて、これまで考えたこともなかった。


 そんな私に、ルンさんは微笑みかける。


「いきなり料理するのが怖いなら、まずは自分のスキルについてちゃんと調べてみるといいよ。大丈夫、コマリがいれば最悪の事態にはならないし……効果が詳しく分かれば、どんなスキルにだって使い道があるはずだから」


「私の、【疫病神】に……使い道……」


 こんなスキルなければと、ずっとそう思って来た。

 ただみんなを不幸にするだけで、持っているだけでダメな子なんだと。


 そんなスキルに、本当に使い道があるんだろうか?

 分からないけど……ルンさんは、それを信じてくれるみたいだ。


 なら……頑張らなきゃ!


「はい……私、探してみます。私のスキルの使い道!」


「おー! じゃあ、まずはスキルを色々試すところからだね。一緒にがんばろーね、シルフィ!」


「うん……ありがとう、コマリちゃん!」


 頼む前から、当然のように一緒に実験するつもりでいてくれるコマリちゃんにお礼を告げつつ、ぐっと拳を握り込む。


 朝は失敗しちゃったけど……もうあんなこと起こさないためにも、頑張らなきゃ!


「ところでシルフィ、一個いい?」


「はい、なんですか?」


「……ご飯、いつの間に食べきったの?」


「ふえ?」


 喋っている間にすっかり空になったお皿を見て、ルンさんが疑問の声を上げる。

 それに釣られて遅まきながら気付いたコマリちゃんも「あれれ? いつの間に??」と首を傾げているけれど……。


「えっと……二人が、干し肉作るのを失敗しそうになったって話をしていた時にはもう……」


「待って、それ食べ始めてすぐのことだよね? え、あの一瞬で?」


「はい、そうですけど……」


 それが何か? と問いかける私に、ルンさんはなぜか苦笑。

 コマリちゃんの「シルフィすごーい!」という声だけが、沈黙の横たわるリビングに響くのだった。

シルフィの特技・大食い(まて)


次回、「スキル検証と呪いのミサンガ」

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